ep.2 生徒会長のピアス
"学力やスポーツなどあらゆる分野での実力があれば免除や奨学金制度もあり皆入学可能"
"上流階級や一般庶民も皆平等"
"文武両道、完全実力主義"
が謳い文句の由緒正しきこの土御門つちみかど学園だが…
(↑RAPか?)
進学校の割に意外と校則は緩い。
あまりにも奇抜過ぎなければ髪色髪型の規定は無く、化粧やネイル、少しなら制服の着崩しも許される。
だがしかし、許されないことが二つ…
"校則で指定した物以外の使用"と"装飾品の着用"
校則で指定した以外の物というのは、制服やカーディガン、鞄や、女子向けにポーチなども学園の規定の物を使わなければいけない。
装飾品は、身体で言うとピアスやネックレス、指輪…
持ち物で言うとキーホルダーやバッジなど、装飾に関する類は禁止とされている。
恐らく"皆平等"を掲げるからこそ、上流階級や一般庶民の間で身に付けている物に"格差"があってはいけない。
その為格差が目に見える物は禁止しているのだろう。
お陰で緩い校風と言えど、それぞれ特別目立つような事をしている生徒はいない。
その為、風紀委員や生徒会はそこまで校則のことで生徒に手を焼くことはない。
…今日も平和だ。
午前の授業が終わり、昼休みの予鈴が鳴る。
昼食は生徒会室でとっているので、母お手製の弁当を持って生徒会室に急ぐ。
学園にも食堂はあるが、生徒会室で書類に目を通しながら食べたいのと、母が過保護なので毎日手の込んだ弁当を持たされている。
「あ!仁聖くん!」
急ぎ足の俺を風紀委員長の桐生きりゅうが呼び止めた。
「どうした?」
「仁聖くんまたネクタイちゃんと締めてない!」
「いやー、苦しいし、他にも緩ゆるめてる生徒はいっぱいいるだろ?」
「もー!仁聖くんは生徒会長でしょ?こんな緩い校風でも、生徒会長がちゃんとしてないと一般生徒までもっと着崩し酷くなっちゃったら私の仕事が増えるんだからね?」
「あー、悪い悪い!」
「もう!」
少し怒りながら、桐生は手馴れた手付きでネクタイを直してくれた。
最近よく桐生にネクタイを直されてる気がするな…
俺そんな抜けてるかな?
「あー!また風紀委員長が会長のネクタイ直してる!」
「またかよ!」
生徒会室近くを通った男子生徒が恨むような目でこちらを見てきた。
上履きの色を見ると、1年か…?
「ていうかさー、前から思ってたけど生徒会長だけピアスしてるってズルくない?」
「は?お前知らなかったの?生徒会長のピアス見てみろよ!うちの校章が入ってるだろ?あれは、生徒会長だけが許される"学園トップの象徴"なんだよ!」
「いやいや流石に知ってるけどさ!何だそれ!って突っ込みたくなるだろそんなの!」
…いや、本当に何だそれ!なんだよな。。
うちの校則の変わった所をまた一つ追加すると、何故か生徒会長だけピアスが許されている。
許されている、とは言っても代々生徒会長に受け継がれているピアスで、元々ピアス穴を開けていなかった俺は、渋々開けて付けている。
学園長曰く、"生徒会" "委員長" "生徒会長"など、学園のトップに立つ者には少しの格差も必要…という訳らしいが…
(これだと本末転倒だよな。。)
まあ、要約すると、ピアス開けて特別になりたい、チャラつきたいなら、学園のトップになってみろ!
という話しだろうか。。
ピアスの他にも、生徒会長メンバー、文化部、運動部、風紀委員の委員長など各分野の代表は同じく校章の入ったネックレスが受け継がれている。
装飾品に飢えているだけあって、いつも委員長の座を巡って熾烈しれつな争いになる程らしい…
「でもさ、俺は生徒会長だけピアスってのが気に食わない!」
「まーまー、言いたいことも分かるけど、悔しかったらお前も来年は生徒会長目指せばいいんじゃねーの?」
「はあ?お前バカだろ!生徒会長なんて面倒事全部引き受けて、勉強も常にトップ3には入ってないといけないし、いっつも集まりあるし、そんなことしてたら彼女作る暇もねーじゃん。」
…グサッ
こちらに聞こえてないと思ったのか、無慈悲むじひな生徒の言葉が胸に突き刺さる…
「ねー仁聖くん、散々言われてるね!」
クスッと笑った桐生の顔が明らかに楽しそうでまた腹が立つ。
「あー、まあこういうのは慣れてるからな。俺を嫌いな生徒くらい山程いるだろうし、確かに格差無しなんて言って生徒会長がピアスしてたら出る杭打たれるなんてことあるのも当然だ。」
でも、校風に完全実力主義って言葉もある訳だし…本当にこの学園は何を言いたいんだか…
「仁聖くんは、絶対に人のこと悪く言わないよね。そういう所尊敬する。」
「なっ!」
いつも落ち着いていて、大人っぽい彼女はやはりこういうやり取りも慣れているのだろう。
面と向かって褒められるのには慣れてなくて、思わずニヤけそうになり口元を隠した。
ガシャンッ
いきなり手を振り上げたせいで持っていた弁当が床に落ちた。
「もー、何やってるの仁聖く…痛っ!」
俺と同時に弁当を拾おうとしゃがんだ桐生の髪がピアスに引っかかり、桐生の体が一気に近付いた。
「…っ!!!!ごめっ」
人生16年間誰とも付き合ったことがないのであまりの近さに動揺し、思わず桐生の肩を思いっきり突き放そうと手を伸ばした。
むにゅっ
「「え…?!」」
肩を突き放そうとしたつもりが、手元が見えてなかった俺は彼女の左胸を鷲掴みにしていた。
見た以上に大きい…豊満な胸に指が食い込まれているのを感じる…
「きゃっ!!!」
桐生が驚いて後ろに飛び退いた。
その拍子にピアスから髪は外れたが、後ろに倒れた桐生は髪が引っかかった時から下を向いた状態のままだったので、どんな顔をしているのか表情が見えない。。。
「本当にごめん!わざとじゃ…」
「…」
返答がない。やはりかなり怒っているか…
しかも事故とはいえ邪な事を考えてしまったことへの罪悪感も湧いた…
「き、桐生…」
バッ
「も、もう仁聖くんったら!わざとじゃないのは分かってるよ!でももう絶対しないでね!!」
顔を覗き込もうとした瞬間彼女は勢いよく立ち上がり、急いでその場を立ち去った。
なんか顔が赤くなっていた気が…
やはり怒りを我慢してたんじゃ…
「お、おい!今の見たか?!!」
まずい、さっきの生徒たちがまだ近くにいた!
この様子を見ていたようだ…
"エロ生徒会長" "変態会長"
明日からそう罵られる…
俺は最悪のパターンが脳裏に浮かんだ。。
「やっべーな!!!!」
え?
「あの桐生さんの乳揉んだぞ会長!」
「でも会長わざとじゃなかっただろ?!」
「バカ!そこがいいんだろ?!ラッキースケベってやつだって!」
「あの伝説の!うおー!!マジか!!!」
「そう言えば前会長って人も他校に巨乳の彼女いるよな?!前街で見たけど…」
「あぁなんか、俺の兄ちゃんが言ってたけど、落ちてたピアス拾って貰ったのがキッカケとか言ってたぜ?」
「あ!確かここの理事長も学園卒業してて昔は生徒会長だったって壇上で言ってたよな!!!確か奥さん爆乳美女じゃなかったか?!」
「あのユカリン先輩のお母さんだろ?!顔も綺麗だったよな!!!!」
「もしかしてあのピアスって、巨乳の神がついてるんじゃ…」
「…俺、生徒会長目指すわ!!!」
先程まで俺のことを鋭く睨んでいた目とは一変し、羨望せんぼうの眼差しに変わった彼らは何やら口走りながら去って行った。
…あいつらがアホで良かった。
またこれで平和が保たれる…
と、思っていたが、桐生はあれから何かよそよそしく冷たい。
そして何故か翌日から男子生徒が休み時間に代わる代わる拝みに来るようになったのであった………
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