第17話 魔剣士が帰還を決意したら

 「……297階層かぁ……長いなぁ」


 そんなに階層のあるダンジョンなんて聞いたことがない。だが、俺よりも長く生きていて、魔力を感じ取るのが生物一長けているドラゴンが言うのだったら間違い無いのだろう。ドラゴンは自分のいる位置を魔力を飛ばして調べると言うのを聞いたことがあるから、それをしたのだろう。


 「後、294層あるのかぁ……」


 『それくらいなら20年くらいで行けるだろ』


 「俺人間なんだよなぁ……」


 『む、そ……それでは無理だな』


 「アアアアアァァァァァ………」


 俺はへたり込んだ。絶望が俺の全身を襲い掛かってきた。


 このまま俺はこのダンジョンに囚われ続け、そして何も成せず死んでしまうのだろうか。いや、一応20年で脱出できると言ってはくれているが、それはきっと目の前の彼基準だろう。俺だともっとかかるはずだ。少なくとも倍の40年。そうなったら俺はもうジジイだジジイ。


 「……許せない」


 『む?』


 そう思うと何だか無性に腹が立ってきた。冤罪で二年もほとんど日の目を見ない生活を無理矢理送らされ、得るはずだった功績も全て剥奪され、何もかもを失った。



 ふざけるな。


 

 あいつらは、俺がどんな覚悟を持って勇者パーティに参加し、魔王討伐を成し遂げたのか、まるで分っていない。今となってはそんなことはどうでもいいのだが、あの時の俺はそんな覚悟を最後の最後で否定されたと、そう思っていた。


 

 死ねない。



 あいつらに復讐する気はもう失せている。正直復讐するようなことではないと思うからだ。だが、それとこれとはまた別の話。勇者パーティにいた時よりも強くなってそれ以上の功績を得て、あいつらを見返したい。


 「……5年だ」


 『何……?』


 「5年で、このダンジョンを攻略する」


 『無理だ』


 すぐに目の前のドラゴンが否定してくるが、関係ない。


 『お前程度の実力では……この先は生き残れない。序盤はまだいいだろう。弱い合成獣キメラばかりが出るからな。だが奥に進めば進むほど出てくる合成獣キメラが強くなっているだろう』


 「……」


 『すぐに死ぬだろう。お前の願いは叶うことは無くなる。それでも、先に進むのか?』


 そう問われ、俺は静かに目を閉じる。


 そして、今までの自分を見つめなおした。大丈夫。





 「──あぁ。俺は進む」


 『なら、我も連れていけ』


 そうドラゴンが言うと次の瞬間彼の体が縮み、さっきまでダンジョンの天井まで届きそうなほどの大きさがあったのが、丁度トンネルを通れるくらいまで小さくなった。


 「小さくなれたのか」


 『もちろんだ。というか、これが出来なければあんなことは言わん。我だって我を合成獣キメラにした首謀者に用がある。復讐とは言わないが、それでも殺さないと気が済まない。それに──』


 「ん?」


 『お前の行く末を見届けてみたくなった』


 「……そうか」


 そう言われて果たしてどこからそんなことを思ったのかよく分からないが、それでも仲間が増えるのは純粋に嬉しいことだ。負担がかなり減る。


 その後、ドラゴン改めジュシュアはまるで案内するかのように俺の前を歩くようになった。




 四層。


 「アアアアアア!!!」


 「真空斬!」


 『ふむ、なるほどな』


 合成獣キメラを一刀両断し、即座にその場を離れる。


 『ガアアアア!!!!』


 直後、俺がさっきまでいた場所に強烈な炎が通過した。ジュシュアによるドラゴンブレスだ。すると奥から俺を噛みつこうとしていた四体の合成獣キメラが消滅した。


 とてつもない威力だ。俺が真空斬で一体倒すのに対し、ジュシュアは一発で四体消滅させていた。素材が駄目になることに目を瞑れば効率は流石の一言だろう。素材が駄目になることに目を瞑れば、だが。


 『ブレス!!』


 「「「「「グルアアアア!?!?!?」」」」」


 こいつがいれば、かなりの時短が期待できるかもしれない。俺はわずかな希望が見えた気がした。




 五層。


 「はあっ!」


 『それでは弱い!腰が引けているぞ!』


 「うっさい!」


 ジュシュアがこの層は俺だけの力で攻略しろと言ってきたので、今俺は合成獣キメラ10体と対峙していた。


 そしてその合成獣キメラだが、やはりというべきか、最初よりも強さは何倍も上で、かなりの苦戦を強いられているがこれを突破できないとこの先必ずどこかで躓くと言われた。


 五層の時点でこれなのだから、最初は疑問に思っていたが始めてやってみればこれまたどうして、納得せざる負えなかった。


 そして、俺はまだまだ弱いという事を実感させられた。


 「くそがあああああ!!!!!」


 『その意気だ!』


 「うおおおおおおお!!!!」


 「ガアアアア!?」


 そして今までは一体殺したあと一度下がったが──


 「天穿あまうがちっ!!!」


 「「グルアアアアアア!?!?」」


 下がることなくもう一度技を放った。攻めの姿勢を忘れずに、俺は更に追撃を加えた。


 「天穿あまうがち!!!」


 「ガアアアア!!!!」


 合成獣キメラの血で視界が赤く染まりながらも、見える範囲の敵は全て殺し尽くした。


 「はぁ……はぁ……はぁ……お、終わった」


 『ふむ。まぁまぁだな。荒いが、それはすぐに正せるだろう』


 そして彼はニヤリと笑い、


 『喜べ。それの才能が十分すぎるほど、お前の中にはある』


 そう上から目線で言われたその言葉に、俺は素直に嬉しく思ったのだった。


 

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