第16話 魔剣士がドラゴンに出会ったら

 「よし、行くか」


 十分休息を取った俺は次の二層へと、しっかりと準備をしたうえで進んだ。これもまた上に続く階段を登ったのだが、一層に行くまでの階段以上の距離があり、20分以上かけ、ようやく二層へと辿り着いた。


 「……は?」


 そこで俺は唖然としてしまった。なんとそこはセーフスペースだったからだ。魔物一匹の気配も感じない。正真正銘、ダンジョン内に時々発生する魔物が近寄らない安全地帯──セーフスペースがそこにはあった。


 「……なんだよ、休憩せずにさっさとここに来ればよかったのかよ」


 だが、ここは未知のダンジョン。こんな感じで戦うことなく移動できるのはありがたい。それに、このダンジョンには俺しかいなさそうだし、ここに荷物を置いていけるな。


 「ここに仮拠点作るか」


 そして俺はテントを張り、最低限の野宿できるまでに俺の周囲を軽く整備した。食事は……まぁさっきのドロップアイテムにあった肉でも使うとするか。


 その後腹ごしらえを済ませた俺はまだ魔力が完全に回復しきっていなかったので、テントの中に入り、十分な休息を取った。


 




 



 2時間後。休息を終えた俺はテントから出て、三層の攻略を始めることに。


 「ここからは早めに出たいからな」


 死にそうになればここに逃げ込めばいい。だが、逃げれる場所があるだけでこんなにも心に余裕が生まれるとは思わなかった。


 これで心置きなく戦える。


 「紫黒一閃も、しっかりと使えるようにならなければ」


 俺は妖刀武蔵の柄に手を添え、三層の階段を登り始めた。一層から二層に上がるまでの時よりも短時間で登った俺は三層に足を踏み入れた瞬間、すかさず警戒態勢に入る。


 「……」


 「っ、まだいるのかよ。合成獣キメラ──ん?」


 目の前には眠っている合成獣キメラがいた。だが、とある一点が目の前のこいつが果たして本当に合成獣キメラかどうか、確信できないでいた。


 その理由は、


 合成獣キメラ特有の縫い目は確かに見える。だが、それがあるにもかかわらず、ドラゴンにしか見えないのだ。


 意味が分からないと思うが、俺も意味が分からず混乱しているのだから、それを説明しろと言われても無理があるだろう。

  

 「グルァ……?」


 「っ」


 すると俺の気配に気が付いたのか、寝ていたドラゴンは静かに立ち上がった。


 『人の子、か。久々に見るな』


 「は!?」


 そして俺の方を見た瞬間、俺の頭の中で声が聞こえた。これは間違いなくテレパシーだ。だがそれが使えるドラゴンは、少なくとも1000年以上生きたものじゃないと無理だったはず……ってことは、このドラゴンは──


 『最後に人の子を見たのは……2000年前か』

 

 「にっ……!?」


 その数字の大きさに絶句してしまった。少なくとも2000年前から生きている、あまりにも長生きなドラゴン。しかしそこで疑問が芽生えた。


 「……なんで、合成獣キメラが2000年も生きていられるんだ?」


 『ん……?合成獣キメラ……?我はドラゴンだぞ……?』


 「……うわぁ」


 その言葉で俺は確信してしまった。こいつ、自分が合成獣キメラになったことに


 最悪だ。もし今の自分の状態に気づいてしまったら──


 



 『──……ほう?』


 「っ!?」


 『なるほどなぁ……我は、死んでいたか』


 「……」


 俺は静かに構え始める。


 くそっ、さっき言わなければよかった……!ドラゴンは自身の強さに絶対の自信を持っているが故にある種プライドの塊でもある。長年生きているドラゴンなら少しくらい寛容だったりもするが、2000年だとドラゴンの中だったらまだ若い部類のはずだ。


 つまり、今こいつのプライドはズタズタ。いつ暴れ出してもおかしくない。


 なんならその原因が俺だと決めつけ攻撃してくるかもしれない。


 「……」


 背中に冷や汗が流れる。嫌な汗だ。こんな思いは魔王戦で最後にして欲しかったものだが……なんでこうも嫌なことばかり起こるのだろうか。


 『……はぁ。一体誰が──』


 「……」


 『む、あぁ、攻撃すると思ってたのか。大丈夫だぞ。お前が犯人でないことぐらいすぐにわかるわ』


 「……あ、そう」


 するとドラゴンが気が抜けたような声で話しかけてきて、こっちも思わず呆けた返事を返してしまった。

 そして助かったとわかった途端、緊張が解れたせいか、口から大きなため息が出てしまった。


 『我はここでずっと眠っていたからな。お前が犯人だとしたら、あまりにもを終えるのが早すぎる。流石に儀式をされていたら寝ていても分かるぞ……いや、分からなかったからこうなったのか』


 「儀式?」


 『あぁ……そうか、もう2000年以上前か、それは』


 ドラゴンの口調からして、それは合成獣キメラを作る儀式のように聞こえるが……そんなの、今まで生きてきた中で聞いたこともない。


 「その儀式って、もしかして合成獣キメラを作る儀式なのか?」


 『おぉ!そうだぞ!なんだ、今の時代にもあるのか!』


 「え、初めて聞いたが」


 『え』


 ドラゴンは俺の言葉に固まってしまった。なんとも表情豊かなドラゴンだ。2000年生きたドラゴンはまだ若者と言っても過言ではないのに、その仕草一つ一つがまるで長年生きた老人のようなものを感じる。


 『むぅ……やはりあの儀式は廃れたか……となると、我をこうした犯人は特定できないか……』


 「このダンジョンの奥に、もしかしたらあるんじゃないか?それが」


 『何?ここがダンジョンだと?……む、確かに、魔力の質が変わっている……あぁ、なるほど。確かにお前の言う通りかもしれないな。この297で出来ているダンジョンの奥に、きっと──』


 「え、ちょっと待って!?今なんて言った!?」


 『だから、このダンジョンの奥に首謀者が──』


 「その前!」


 『297の部分か?』


 「──」


 俺は思考が止まってしまった。

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