第13話 魔剣士が赤い石板に乗ったら
「なん、だ……これ」
見たことのない石板に、俺は困惑していた。まさか、帰還用以外の石板が出るなんて。
「……今までいろんなダンジョンを潜ったが、こんなことが起こるなんて初めてだ」
今まで俺は勇者パーティとして活動していく中で、活動資金を稼ぐために幾度かダンジョンを攻略したことがある。その時出るのは必ず帰還用の石板だけだった。
「……そう言えば」
どこか風の噂で聞いたことがある。ダンジョンを攻略する中で、ある隠された条件をクリアして全層攻略を果たすと、帰還用の青い石板とは別でもう一つ赤い石板が現れることがあるのだとか。
それはその条件をクリアした人がその場を離れるとスッと消えるため、実在しているかあやふやな物としてダンジョン不思議話の一つとされているのだ。
それを知った時はデマだなと思ってはいたが……。
「……まさか、本当だったとはな」
ここで、俺の好奇心が湧き上がり始めた。この石板に触れたら、どうなるんだろう、と言う好奇心が。今までこの石板に触れたと言う人は聞いたことがないからな。
「……乗ってみたい」
俺は自分の奥底から湧き上がってくる好奇心を抑えきれずその石板に乗ろうと、ゆっくりと進んでいく。
「っ!?」
しかしすんでのところで理性が働き、思わず石板の目の前で止まってしまった。何か嫌な予感が俺の中を駆け巡ったからだ。
無理矢理運動を止めたせいか、腕の筋肉が少しだけ痙攣した。
「……はぁ、はぁ……くっ」
葛藤する。触れたい、けど、そしたら俺は──どうなる?
カラン……。
「っ!?誰だっ!」
その時後ろから何か小石が転がる音がした。俺はその音に反応し後ろを向いた。ここには誰もいないはず。だとしたら、今俺が攻略したこの功績を掠め取ろうとする、
しかしそう考えた直後にここにくる冒険者なんて普通いないという考えに行き当たり、そしたらそこにいる人間は一体なんだと言う疑問が浮かび上がった。
だが一つだけわかるのは、明らかにこのダンジョンの攻略を目的としたものということだけだ。
俺はじっと、入り口のところを観察する。
「っ!」
そして奥の人影が揺れるのを確認した俺は、一歩下がって腰の刀を抜こうとした。
その時だった。
「[承認されました]」
「っ!?」
どこからか聞こえたその声にびっくりした俺は思わず辺りを見回し、さっきの石板の方を向いた。そこにはしっかりと石板に触れた俺の右足が見えた。さっき後ろを向いた時に思わず乗ってしまったようだ。
「しまっ──っ!?」
その時とてつもない光が石板から放たれた。その眩しさに思わず目を閉じてしまう。すると入り口にいた人影が飛び出してきたのを気配で感じた。
「───!?──、──!」
「──は?」
奴が何を言っていたのか聞こえなかったが、何か焦ったような感じだった。誰かは知らないが、恐らくこの石板を狙っていたのかもしれない。
あぁ、だからさっきわざと小石を落としたような音を出したのか。
「───れろ!!」
「っ!?」
そして最後にそんな言葉を聞いた後、俺の姿はこのダンジョンから消えたのだった。
「──……あ?」
目が覚める。どうやら俺は倒れていたようだ。
辺りを見回すと、周囲は岩のようなゴツゴツしたような壁に囲まれている。まさにダンジョン、って感じだ。
「……っ、ここは」
俺は自分の持ってきた荷物が全部あるか確認した後、立ち上がってもう一度周囲を確認する。
「よかった。一応全部あるみたいだ。……ドロップ品は失ったが、まぁいいだろ」
俺は一息ついた。が、その直後。
「……っ!?」
肌を刺すような異様な何かが俺を襲った。
感じる。奥から異様な魔力が。人間が放つ魔力に似ているが、それ以外の別の魔力が混じっている。
それに加えて刀を振るっていくうちに培ってきた第六感なるものが警鐘を鳴らしている。この先にいるのは危険な魔物だ、と。
どうしよう。このまま救助を待つと言う選択肢もあるが──
「……進むか」
結局悩んでも待っていても仕方がない。先に進むことにした俺は目の前に続く通路を見つけたのでそこを進むことに。
変わり映えのない光景の先を進むこと10分。
「……は?」
突如俺の目の前に上に続く階段が現れた。
「上に……続いてる……?ってことは、ここはあのダンジョンの遥か下に位置しているのか?」
ダンジョンは洞窟のようなもので主に出現するため、基本的に下に向かうようにできることが多い。まぁ白の塔と言った塔でできたダンジョンなどは例外だが。
しかし、このダンジョンは今までの常識を覆すかのような構造で生まれたものだ。洞窟のような感じだが、塔型ダンジョンのように上に進んでいく構造。それを可能にするためには──入り口が地下にあること以外あり得ない。こんなダンジョン生まれて初めて見た。そりゃそうか。
だからと言って無理に気負う必要はないだろう。たとえ、奥に今まで見たことのない、想像を絶するほどの強さを持つ魔物がいようとも。
結局は、これも試練なのだ。刀を極めるための。
俺はそう思考を切り替え、落ち込んでいた気分を取っ払う為に、思いっきり頬を叩いた。
「よしっ!とにかく、上を目指していかないとなぁ!」
俺は妖刀武蔵の柄に手を添え、最大限警戒しながらもまだ見ぬ未知に昂揚感を高ぶらせながら、その階段を上り始めたのだった。
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