～～～　店長会議の日　～～～  通常わたしは、女子化しないで店舗バックヤードで１日を過ごす。 もっとも一度女子化した週はそのままでいることが多い。  店長の仕事は多岐に渡る・・・日々の売上チェック、消費財（ジェルネイル、ラメ、ネイルファイル（爪を磨くもの）、オフに使うアセトン、保温剤etc.）の本社への注文やネイリストのシフト管理、日報整理やお客様からのクレーム対応（なかには帰宅後に虫眼鏡でみないとわからないような気泡があった！等）、はたまたトイレットペーパーやら椅子カバーや、脱臭剤など雑貨類等々。  先日のように女子化して店頭に立つのは、カネコ社長のようなお得意さんの指名をうけた時や、新人教育の場合が多い。  今日は月１度の『店長会議』なので、午前中は資料を纏める・・・といっても売上は常に本社サーバーに上がるのでそれを見ながら、今後の店舗運営をどうするかを考えパワポで案を作成するくらいだ。  チーフはわたしがこの『TS市中央店』の店長になった時に入った新人で、かれこれ5年になるかな？ ちなみにもうひとりのスタッフのぴーちゃんは、わたしの教育が厳しいのか、元々なのか、すぐぴーぴー泣くので『ぴーちゃん』とあだ名を付けたのが始まり。 他にはアルバイトが何名か在籍している。  「今日は月初だから店長会議で午後から本社に行って留守にするけど、チーフに店任せていいかな？」 「あ、はい。大丈夫ですよ～。　今日は店長、先月の売上好調だったから気合い入れて行きますよねぇ？　だったら、わたしがまたコーデしましょうか？？？」  「う～そうだな～全店長がくるからなぁ・・・特に・・・」 そう、県内には他に４店舗の直営店があり、その売上高とスタッフ稼働率で成績がきまる。  『ネイルサロンTS』だけあって、店長は全員TS娘だ。 その中でもわたしだけが女子化してもなぜか年齢相応（なんたって三十路のおっさんだ）にならず、初女子化したときの見た目16～17歳のままなのは謎だ。 だからといっていつまでも『JKスタイル』で本社に行くわけにはいかない・・・  「じゃぁ、少しでも『大人っぽく』してくんない？」 「店長を『大人っぽく』ねぇ・・・」 「お～い、なに悩んでるんだよ！」  「・・・じゃぁ、今日は清楚なワンピで見えないけどフットもバッチリ決めて、まだ寒いからロングコートでコーデしましょうか！」とわたし専用クローゼットをあさり始める。  ・・・という感じでわたしはいつものルーチンで左手親指にジェルネイルを塗って女子化する・・・  「じゃ、本社行ってきま～す」 「はーい、いってらっしゃ～い」  というわけで、普通のポニテではなく、ゆるふわポニテで（少しだけ）『大人っぽく』、徒歩で数分の本社へ・・・  ～～～　本社へ　～～～  本社ミーティングルームには既にきれいな『TS』お姉さま（中の人はおっさんが多い）が２、３人すでに集まっている。  「お疲れ～」  「あ、しのぶちゃん。　今日は『お・と・な』っぽいわねぇ（笑）」  ライバル支店・駅前店店長のカズミさんだ。　いわゆる「源氏名」なんだけど、本名はもっと男っぽい名前だったけど、忘れた（笑）  わたしは本名が「忍」なので、男女違和感ないのでそのまま「しのぶ」で通している。  「え～い、うっさいわい。　たまにはいいじゃん！」  「そーいう怒ったとこも、かっわいいわね～（笑）」  「うっせ～」  と、そこへ二十歳代の男性社員が入ってきて、「職業体験か、ネイルモデルの方ですか？」と聞いてくるではないか。  「は、はい～？」  「いや、ここはネイルサロンの本社なんで、女子高生の方は『ネイルアカデミー』の方へどうぞ・・・・」  「ななな、何言ってんのよ！　わ、わたしは中央店の店長よ！」  「えぇぇ？　ほ、ほんとですかぁ？？？」  「そうよ～、タナカさん。　あなたまだ入ったばかりかだから見覚えないと思うでしょうけど、この子こう見えても中央店の店長よ？　失礼のないようにね」とカズミさん。  「し、失礼しました！！！」  「『こう見えても』ってなにそれ、フォローになってな～い！」  そうこうするうちに店長全員が揃ったので、店長会議が始まる・・・