届かぬ手に差し伸べる言葉

カオさん

???

とある昼下がり、僕のスマホから通知が鳴る。

誰からかLINEでも来たのかと思いスマホを見ると————



『話したいことがあるの。○○の屋上に来て。』



と、僕の彼女から来た。

一体何の話をするのかは言ってくれなかった。怪しい匂いがするのは、気のせいではないように思える。


いつもはこんなLINEはしてこないので目的地に向かうまでの間ずっと不安だった。


PM18時。夏ということもあり、空はまだ若干明るい。

空気もこれくらい明るければいいのにな....。


言われた通りに指定された屋上にやってきた。

すると彼女は何かの機会の上に座り景色を眺めてた。



「話ってなんだよ」



そう問いかけると彼女は俺の方を向き話し出す。



『私ね...?もう疲れちゃった......生きるのにさ。』



彼女は嘘を言わない性格だと俺は知ってる。しかしこればかりは嘘だと思った。俺を嘘でからかってんのかと思った。



「え?何言ってんの....?なんだって?生きるのに疲れた...?それなんの冗談?」



あと一歩で9階もする高さから落ちてしまうような、そんな高台から俺の顔を見下ろす。夕暮れの光に照らされた顔は、笑っているのか悲しい顔をしてるのかわからなかった。



『嘘なんかじゃないよ...?私の本音だよ...?』



そう言って彼女は俺をじっと見たまま俺の返しを待っている。

俺は返答に迷いながらも言った。



「な...なんで疲れたとか....言うんだ...?」


『.....ホントにごめんなさい.....私が悪いの.......』



彼女はうずくまって涙を流していた。その涙はもう俺と一緒にいれない悲しみ?死への恐怖?俺にはどちらにもとれた。



「待て待て、どうして自分が悪いってなるんだ。何があった....?理由を聞かせてくれないか?」



彼女は高台から降り、俺の前へ来るや否や俺に抱きついた。



「理由は簡単....疲れたの....生きていくことに.....家族からは嫌われ...友達からは冷たく扱われて...もう嫌なの......。」



彼女は泣いた。俺の服を涙で濡らすほど泣いた。

まるで子供のように泣きじゃくり、俺の服を掴み大いに泣いた。

泣きじゃくる彼女に俺はそっと口を開く。



「俺がいるじゃねぇか。お前一人じゃない。このセリフは在り来りで言いたくは無かったんだけど、俺がいる。そうだろ?」



彼女は言った。



「これ以上貴方に迷惑をかけたくないの!死なせてよ!もう嫌なの!苦しい思いをして一日一日を過ごしていって、夜になったら涙を流す日々なんて!」



それを聞いた俺は淡々と言った。



「お前は自分勝手だ。その上子供で尚且つ癇○持ちだ。

嫌な事ばかりに目を向けて、気持ちの休まる方に目を向けない。お前はドMなのか?

俺の言葉をよく聞け?いいな?


俺はお前に死なれると困るんだよ!俺にはお前が必要なんだよ!わかるかこの気持ちが!


地球上の皆がお前を必要としなくても、俺はお前が必要だ。嘘なんてつかない。お前だって知ってるだろ?」



彼女は収まった筈の涙を再度流し「ごめんなさい....ごめんなさい....」と俺に謝ってる。


俺は家へと帰ろうと言い、夜も近くなっているので家へと帰す。家に着くまで慰めてたよ。


─────────────


それから1日が経った日の早朝、彼女の"親"から電話が掛かってきた。

眠い目を擦りながらスマホの画面を見て、あまり話したことの無い人なので、いきなり電話が掛かってきてびっくりしたが出てみるとその内容に驚愕した。



「彼氏くん?彼女の母親なんだけどっ....!」



親御さんの声は何やら焦っているようだ。俺に電話を掛けてくるなんて一体何が....?...と思っていると──



「彼女が──死んだ....」



.....は?し、し、死ん....だ...?....え、あ、は?

頭が混乱して状況が飲み込めない......。



「彼女のお母さん、何かの間違いじゃないんですか?見間違いじゃないですか?だって彼女はあの時確か────」



俺は今まで気づかなかったことに今更気付いたかのように言葉を失った。口が開きっぱなしだ。



「彼氏くん?彼氏くん!?彼氏く──」



....俺はそっと電話を切った。即座にベッドに潜り込んで目を閉じた。



(どうして今まで気づかなかったんだ....)

(辛い......)

(悲しい......)

(今すぐ会いたい....)

(どうして何も言わずに....)



目を閉じると様々な気持ちが入り交じっているのが分かる。

後悔、悲しみ、怒り、感情の波が荒波のごとく波打っている。

その日早朝であるのに関わらず、何もすることも無く寝た。喪失感が俺の体の力を奪ったんだ。


──────────


次の日、彼女の家へ行った。

すると彼女の母親から手紙を貰った。適当な余ったプリントで作られた手紙袋。中には1つの手紙が封筒されていた。


内容は以下の通りだ。



「白い紙に今何を書こうか悩んでます笑

2月になったら去年のホワイトデーのお返しをしたいと思っていましたが、それも難しそうです笑

沢山の思い出を共に歩めて私は幸せです!

苦難も色々ありましたが、それも全部幸せです!

何か最後に言いたいことを書こうと思いましたが

言いたいことは特にありません!これからもよろしくお願いします!」



ハッ.....ホワイトデー....俺が作ったしょうもないチョコのお礼をしようと...?コンビニで買ってきたチョコを溶かしてそれっぽく形を変えただけなのに.....

それでもお前は「美味しい!ありがとう!」って言って美味しそうに食べてくれたよな.....。ごめんな。


俺はその手紙を持ってあの屋上へと向かった。



「全く....お前は最後に嘘をついたな....

"これからもよろしくお願いします"だなんてさ。これからっていつの話だよ....笑


彼女....最後に話したのもここだよな....たった2日程度前の話なのにな.....大昔の記憶のように言ってんのがバカらしいよ...。

お前がいきなりあんなことを言い出した時は何事だ?!と思ったよ....笑

いつも言わないことをいきなり言い出すんだから、そりゃ心配だってするさ....。


ふぅ.....お前がいるのは天国か?地獄か?

天国にいるのなら、また一緒にいような。」



そう言い残すと俺は屋上から落ちた。下に落ちるのに3秒も掛からなかった。


─────────────


次目を覚ますと───病室のベッドにいた。

俺は.....死ねなかったのか....?

ベッドの横には必死に看病を続ける親とナースが。



「彼氏さん!目を覚ましましたか!」


「あぁ....!やっと目を覚ました.....うぅ....。」



俺が目を覚ましたことに安堵するナースと、それにたまらず涙を流す俺の母親。


後から医者に聞くと、俺の足、腕、肋がボキボキに折れているようだ。入院は何ヶ月はくだらないとの事。寝ていた期間は1週間。運ばれた当時は意識不明の重体だったとの事。


生きれたことを嬉しく思うと同時に思った.....




───あぁ......人生はクソだ.......

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

届かぬ手に差し伸べる言葉 カオさん @KAO_SAN

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ