第54話 盛者必衰・終わりを慎む―4

「ぐぅっ! 足を少しやられたか」


 交差した瞬間、左足を少し切られた国王。


(今の激突で敵の被害は三十騎ぐらいか? やはり硬い。切るだけでは苦しいな。無理しても刺すべきか?)


 国王は悩む。二百名程倒された第一騎馬隊は、左旋回しながら、右旋回のままスピードを上げる敵の二部隊と正面から当たる。


「ビシュンッ」


「キンッ」


「ぐわっ」


 東国の第一騎馬隊は、軽騎馬隊には分があり、正面からの一撃で三百は倒した。しかし続く重騎馬隊との戦闘では、思っていたより分が悪くまた二百程倒された。第一騎馬隊は四千五百を残し、敵重騎馬隊は千九百余りが残る。


(このまま行けば軽騎馬隊に勝てても、重騎馬隊には負ける。敵と少し距離がはなれた今、離脱すべきだ)


 そう考え、退却指示を出そうとした時、北から駆けてくる馬群を見つけた。

 国王はその馬印うまじるしを確認して喜ぶ。


「オラクスウェル! ラタジーレ隊もか!?」


 ラタジーレ隊二千と、オラクスウェル王子隊がやってくるのを見た国王は、自分の頬を叩き気合を入れる。そして『援軍だ行くぞ!』と部下にハッパをかけて敵に向けて反転した。





「いいか! <竹穂先>は中空で軽い。そして敵を刺しそのまま前進すれば湾曲し折れる! 自分が吹っ飛ぶことはない! 馬を刺すんだ!」


 ラタジーレ隊は、その機動力を生かし、小回りの効かない敵の重騎馬隊を側面後方から襲う。


「バリッ」


「ガスンッ」


「バキンッ」


 竹穂先は折れながらもしっかりと敵に刺さる。ラタジーレ隊は一撃を入れるとすぐさま離反する<一撃離脱戦法>を行った。

 <竹穂先>の刺さった敵の馬達は、立ち上がり騎手を振り落としたり、そのまま倒れ後続の馬を巻き込む馬などが出て、この一撃で三百の敵が戦線離脱した。


「おお! やったなラタジーレ!」


 戦果をたたえる王子はラタジーレ隊が<竹穂先>を予備に交換する間に敵の重騎馬隊を攻撃し、少ないながらも五十騎を倒す。

 その隙を見せない波状攻撃を見て、気合の入った第一騎馬隊は、分の良い敵軽騎馬隊を側面から殲滅せんめつにかかる。


 四千五百騎に七百騎が側面を取られる危機的状況に、『い、いかん退却せよ!』と敵軽騎馬隊が西へと逃走を開始した。


『逃がすな追え!』それを第一騎馬隊が追う。


 その後も、突撃を繰り返したラタジーレ隊の攻撃によって、南北二つに割れた敵重騎馬隊。

 リグレ隊長率いる北隊はラタジーレ隊の猛攻を受け壊滅寸前。

 南下し生きのびた南隊も、王子隊の攻撃によってその数を五百騎まで減らされていた。


 南隊を率いた副隊長ダラルは『重騎馬の機動力では勝てぬ』と退却を命じる。それが王子隊の攻撃直後であったため、少し後方に離れていたアトラの馬が散開して逃げて行く馬にのまれた。


「イカン! 油断した! 今行く!」


 行きがけの駄賃とばかりに、アトラを一撃して逃げる重騎馬隊。

 目の悪いアトラは状況が分からず暴れる馬にしがみつく。

 王子隊は急いでアトラの前で密集隊形を作って壁となり、敵の攻撃を防ぐと、王子が馬に振り落とされたアトラを拾い上げた。

 その様子を殿しんがりとして見ていたダラルは、自身の麾下百騎に突撃を命じた。


「冥土の土産だ! 我らの命と引き換えに、あの王子の首を取れ!」


「「「オオウッ!」」」


 相打ち狙いで突撃をする重騎馬隊は、まるで土石流のようであった。

 この死を覚悟した突撃で、<西国重騎馬隊>最後の百騎は、最終的に全滅する。

 馬を無くしても、半死半生で立ち上がり白兵突撃する西国兵に、王子隊も無傷ではいられず、カビラと二十数騎を残し、約七割の損害を出すことになるのである。


 そんな激しい戦いの序盤。

 王子隊の壁を無傷ですり抜けた、敵重騎馬隊の副隊長ダラル。


「私はダラル! お前だけは私が倒す!」


 そう叫んで、みるみる内に王子の馬に接近していく。


「マズイ! 王子逃げて下さい!」


 カビラの声に反応して、王子が馬にムチを入れた。


『ピシッ』


「ヒヒーン」


 そのムチに馬がいななき走り出す。


「カビラ!」

 アトラは心配し、弟の名を呼んだ。

 それを打ち消すように、カビラが叫び返す。


「行くんだ! 後から追う!」


 死を恐れない敵を相手に苦戦しながらも、敵を防ぐ壁となり引かないカビラ。それは、王子と兄を逃がす為である。


 その姿に後ろ髪を引かれながらも、王子とアトラは前を向いて南へと逃げる。

 それを鬼の形相で追うダラル。


 こうして、二頭だけのホースチェイスが始まったのである。

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