酔人日

藍沢亮吾

第1話 日本酒1

 何もないけれど、思い付くまま書いてみよう。

 エッセイの題名『酔人日(すいとぴ)』とは、かつてあった日本酒の名前である。甘口の大吟醸。時代に埋もれ消えていった銘酒と酒蔵。そんな酒におじさんの思いをのせて、ただ戯れ言を書き連ねてみよう。


 私は酒呑みだ。若い頃から呑み続けてきた。一番好きな酒はウィスキーだ。次を日本酒だ。それ以外でもなんでも呑む。酒が好きだから外呑みはあまりしない。金が続かないし、思い通りに呑めないからだ。旨い肴と酒があれば良い。付き合いで外呑みをすることはあるが、それは日頃口にしない肴を見つける良い機会だ。飲み放題などの宴会だと飲み過ぎて偉い目に遭うのでそれは要注意だけれど。

 最初の話は、題名の由来でもある日本酒にしよう。日本酒は種類が多い。酒蔵が全国にあり、それぞれが作っているからだ。

 さらに戦中戦後に粗悪化した日本酒のせいで区別化するため、いくつもの規格が生まれてしまった。

 普通酒、本醸造酒、純米酒、吟醸酒、大吟醸酒、合成酒など。合成酒は、アルコールとアミノ酸、糖類を混ぜて作ったものだ。普通酒は、醸造の際に醸造用アルコールを加え、糖類、アミノ酸を加えて味を整えたものが多い。ここで言うアミノ酸は旨味調味料と同等と考えて良い。

 日本酒としてまっとうなのは、本醸造酒、純米酒だと考えて良い。吟醸酒、大吟醸酒はまた別の定義なのであとに回す。もともと、日本酒は純米酒だ。それが戦中戦後の食料難の時代に三増酒、六増酒などというアルコールを混ぜて、糖とアミノ酸で味を誤魔化したものを日本酒として売られ、主流となった悲しい歴史がある。儲かるものだから、そういう酒がずっと売られ続けた。

 それが少しマシになったのは1970年代に一部の酒蔵が純米酒を売り始めたことからだ。私が初めて純米酒を呑んだのは、伏見の玉乃光純米が最初だった。飲みやすさ、味わいが違うのにびっくりしたのを覚えている。

 さて、本醸造酒とはなんだろう。本醸造酒とは、10%未満の醸造用アルコールを入れた精米歩合70%以下の日本酒を指す。アルコール添加と言うと悪いように思えるが、スッキリとした酒を造るには有効な方法で、それが全て悪いとも言い切れない。実際、旨い本醸造酒もたくさんあるのだ。

 アルコール添加をせずに醸造すれば、純米酒になる。精米度合を60%以下まで高めれば、特別本醸造酒、特別純米酒になる。

 さらに、精米度合を60%以下で吟醸造りで作れば、吟醸酒、吟醸純米酒になる。ここでいう吟醸造りとは低温で時間を掛けて造る製法である。更に大吟醸は精米歩合が50%以下の吟醸造りということになる。

 ここで、イレギュラーな存在が「米だけの酒」である。こいつは、純米酒のふりをした普通酒なのである。精米歩合は、75〜80%、さらに米由来の醸造用アルコールを加えたものまであるのだ。

 だからといって、そういうものを否定するわけではない。安い酒を求める人もいる。実際、私もいつも高い酒を呑んでも居られない。ただきちんと消費者に開示されることだけは大切だと思う。

 いい酒は高い。それは間違い無い。それだけの手間ひまが掛かって居るのだ。ただ、一部プレミアなる投機的な価格になった酒もある。酒蔵が売り出した価格の何倍もの価格になってしまったりする。こういう酒は飲まない方がいいと思う。見栄以外の価値がないからだ。

 なにはともあれ酒は友である。今夜もゆっくり楽しもう。

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