弁護士ブライアン

 これは私がロスアンジェルスで親友になったある弁護士のお話です。彼の名前はブライアン・サイモン。彼との出会いは私が働いていたサンタモニカのクラブでした。日本人のテニスプロの奥様を持つ彼は大の日本びいきでした。私の勤めていたお店がリカーコミッション(酒の管理局)から違反を摘発された時の事です。此処アメリカのクラブではホステスという職種は有りません。従ってウエイトレスがお客様の隣に座りお酒のお相手をする事は法律で禁じられています。お客様から飲み物を勧められた時は良いのですが、自分から「一杯頂いてもいいですか?」と聞くことは違反とみなされます。ある日2人の男性がカウンターに座りテーブルにいたウエイトレスに声をかけました。「よかったらここに来て飲まない?」ウエイトレスは「今私あちらのお客様に飲み物を頂いていますからごめんなさい」と答えたのですがそれが違反ということです。これがよく聞くおとり捜査ですが、管理所の役員の言い分はお酒を頂いているので座れないという事はお酒を買って頂ければ隣に来ますよと遠まわしにお酒を要求したという事です。この時にこのケースをお手伝いして下さった人がブライアンでした。彼が弁護士であると知ったのはこの時でした。 このケースはお店側が8千ドルの罰金を請求されたのですが、その案件を預かりブライアンが半額の4千ドルまで下げたのでした。

 後で知ったのですがブライアンは大変に優秀な弁護士で、ロスアンジェルスの最高裁で以前は判事をされていた方でした。糖尿病で肝臓を患い肝臓移植をした後、弁護士に転業した様です。最終的に罰金4千ドル、彼の費用が4千ドル、合計8千ドルでかたが付いた のですが、私どものメインオーナーが何故か一向に弁護士費用を払わないのです。ブライアンが「もう2ヶ月になるけどオタクのオーナーがお金を払ってくれない」同じ頃丁度私もこの店から引くつもりでいましたので「もしこのケースに証人が必要なら私が手伝う」と言うと、「それは有り難い」と言って書類に署名をしました。その後ブラウイアン弁護士から連絡が来まして、「君のおかげでお金は無事集金出来たからお礼に昼でもおごるよ!」と。日本食店で食事を済ませると「これは君のだ」と言って白い封筒を差し出しました。「何ですかこれ?」と言って封筒を開くと現金で2千ドルが入っています。「このお金は一体何?」と聞くと「君のおかげで速やかに集金する事が出来た。これは君の取り分だ」と言うのです。お礼と言うには金額が多すぎる。「こんなに貰えないよ」と言うと「きっと君はこの件で仕事を辞めたのでは無いか?」たしかにこの件と同時期に早期退職はしましたが辞めることは前々から決めていました。「仕事辞めて大変だろう?君は俺の恩人だ。いいから気にしないで収めてくれ。最近子供も出来たんだし、お金もいるだろう?」長い間アメリカに居るがこんなにいい弁護士でいい奴は初めてです。「ありがとうブライアン、恩に着るよ」「いいんだよ。君のおかげで集金出来たんだから」その時から私とブライアンには特別な友情が芽生えたのです。

「もうすぐレストランをオープンするから君はこの店でお金を払わないでいいよ。家族でも仕事でもうちの店に来るときはいつでも言って下さい」するとブライアンも「アメリカに居ると予期せぬ事で弁護士が必要になる。アメリカのロイヤー(弁護士)は嘘つきが多いからこの先ゲーリーに何か有ったらいつでも言ってくれ。私はタダ飯をご馳走になる。お返しに書類と手続きのコスト以外の弁護士費用は一切払わなくてもいい。どうだ?お互いが死ぬまでこれで行こう。」エクスチェンジディール(交換条件)の話が熱い友情とともに結ばれた瞬間でした。彼がいつも口にしていました。「アメリカには悪いロイヤーが沢山いる。騙されるなよ。ロイヤーイズ ライヤー、ライアーイズ ロイヤー!」その後カリフォルニアで3度の起訴問題が起きたが、優秀なブライアンはすべて勝利した。ある弁護士が私の店を解雇された従業員の扱いを不服として訴えてきた時、先方の弁護士は「あなたはディサビリティ ハンディキャップ、労働基準法を専門とする弁護士で無いだろうから早く示談金を払ってこのケースを終わらせた方がいい。さもないともっと多くのお金 を払うことになる」と半分脅しのような手紙をよこしたのだが、相手はなりたての若い弁護士です。その時のブライアンの小気味いい返事が素晴らしかった。「貴方が小学校に入った時、私は法律を学んだ。貴方が小学校 4 年生の時、私は弁護士の資格を取った、貴方が中学校に入った時、私は判事になった。貴方がこのケースを進めるなら喜んで受けて立とう。裁判所に行って一緒にダンスを楽しもう。裁判官の前でどちらが最後まで踊り続けられるか是非試してみよう。楽しみに待っている。」この手紙を最後に先方の弁護士からの連絡は途絶えた。多くの場合弁護士は相手の弁護士がどの法律学校をいつ卒業したかで相手がどの程度の弁護士であるかを見極める。 過去扱った同じような案件を調べると殆どの案件は裁判所に行く以前に大体の判決がどうなるかが分かるらしい。ましてブライアンは元最高裁の判事なのです。起訴内容を見ただけでどのように進み集結するかが大体分かるらしい。

 残念な事にブライアンは 52 歳の若さでこの世を去りました。最後に病院にかつぎこまれた時「俺コロッケと刺し身、ひじきごはんが食べたい。病院を出たらすぐに行くから待っててくれ」これが彼の最後の言葉でした。私は泣きました。この事を書いている今も目頭が熱くなります。よくアメリカではこんな事を言います。弁護士と医者、車のメカニックを友人に持つといい。さもないとどんな仕事にいくらのお金が掛かるか分かったものでは無い。アメリカはたとえ人を殺めてもお金さえ有れば良い弁護士を雇い、あの OJ シンプソンのように無罪になれます。反対にお金がなければ病気になる事も出来ません。野垂れ死にする以外に方法はないのです。ブライアン長い間ご苦労様、そして有り難う!私があの世で再開した時、ブライアンの好物のコロッケを沢山作って上げるからもう少しだけ待ってて下さい。

 後日、彼の葬儀に参列した時に300人に近い人達が彼との別れを惜しんでいました。 弁護士と言うだけでなく人としても万人から愛されたブライアン、どうぞ安らかに眠って頂きたいと願います、、、

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