山川会長、その後

 ある日山川会長が私の会社のスポンサーになって下さる事になりました。いつとなくお金の工面に悩む日々、私は安心を求め彼の言葉を受け入れました。彼のベネフィットはいずれオーナーズビザを取り彼自身も安心してハワイに住めるようにと考えていました。山川会長はとても私を信頼して下さいましたし、私も又彼をとても頼りにしていました。何処に行くのも何をするにも私は彼に必ず同行するようになりました。最大の理由は言葉と彼が此処で安全に生きていく為のナビゲーターのような役割を私が果たさなくてはいけなかったということです。旅行もブラジル、台湾、ボストン、カリフォルニア、ニューヨーク、日本、ラスベガス、ニューイングランドと色々な所に同行いたしました。

 これは会長が雇われたプライベートの護衛さんの話です。彼は現役の警察官で仕事が跳ねた後、私と会長のボディーガードをして居ました。給料は現金で払って居ました、ある日会長の誕生日の時でした。お金持ちの会長は欲しいものは何でも持って居ますのでこう言う人のプレゼントを探すのは並大抵ではありません。警察官の彼に聞くと会長は何でも持っているので彼にガンをあげると言い出しました、信じられませんがガンは彼が勤務で使用しているものです。シリアル番号をタガネで叩いて消しそのガンをプレゼントしました。彼いわくガンは紛失届を出せば一件落着と言うのです。日本で警察官がガンを無くせば大変な問題になるでしょう。アメリカはガン社会ですからですからこんなことは平気なんですね本当に驚きました。

 今でも考えれば大変に申し訳のない事をしたと心を痛めていますが、小さな誤解が引き金になり二人の間に亀裂が生じてしまったのです。ある時日本から来た私の知り合が「あの会長はどうわがままだからお世話も大変だろう?」「まあな。でもとても良くして頂いているので文句は言えないよ。ただ四六時中一緒だから自分の事も満足に出来ないし本来の仕事も疎かになってるからな。」別に彼を避難したわけでもなく俗に言う仲間同士の愚痴のような他愛もない事でした。「お前、そんなに疲れているなら俺が会長のおつきあいをしてやるからお前はゆっくり休めよ」この言葉を信じた自分が浅はかでした。家族との憩いも持てず、やることも沢山たまり心身共に本当に疲れていました。すべてが崩れてから知った事です。私はこの友人に騙されていたのです。彼は前々からお金持ちの会長に取り入りたいと考えていたのでしょう。私が彼を友人の一人と信用して言った愚痴をまるで私が会長の悪口を言い、彼を裏切っているかのように見せかけ、彼自身が私の仕事を横取りしようとしていたのです。そんな事は思ってもいなかった私に「お前会長が凄くお前の事怒っていたぞ!」いつも自分のベストを尽くしているのに何故だろうと私自身も彼を信用できなくなって行きました。そうなると今までいつも一緒だった2人に壁ができますます私は自分の友人を信用して何も深く考えずに会長の面倒を彼に頼むようになりました。今考えればあの時に私自身が会長と直接向き合い、お顔を拝見してお話をすべきでした。

「会長があんなに面倒を見たのにお前に砂かけられたと大変にご立腹だよ。良く考えてみろよ、あの人日本で地上げ屋だろ。その筋の人のコネも多いしお前も女房子供のこと考えてあの人とは早く離れたほうがいいよ。」私は友人が私の家族と私の事を心配しくれているのだと思いました。馬鹿な私はあんなに面倒を見て下さった会長との関係を自ら断ち切ってしまったのです。全ては友人を信用してこぼした小さな愚痴から始まり会長自身からの信用も失い、会長自身にも大変に不愉快な思いをさせてしまったと思います。会長の年齢を考えれば既にお亡くなりになられていると思いますがひと目でもお会いできるのであれば心からお詫びをしたいと思い続けています。ココでもまた教えられました。『口は災いの元、人を見たら泥棒と思え』自分の脇の甘さ、いたらなさに今も深く反省しています。

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