第19話 あの日受け取るはずだった──
「さーて! 面倒な説明が終わったところでランちゃんには特別な依頼が…あっ、その前に。ねぇねぇ、ギルドのドアをぶっ飛ばしたのってランちゃんだよね?」
んあ? えっ、今特別な依頼って……。もしかして特殊依頼の条件満たしてんのか俺? いや正確には満たしかけてんのか。
その条件、ギルドドアをぶっ飛ばすってのを。
だから俺がドアブレイカー・ランで合ってるか確認してんだろうしな。
うっはマジかよ、初日のそれも初っぱなからシークレットクエスト引き当てちゃいました? なら、やるしかねぇよな。
「はいはいっ! ランがドアを壊しましたっ!!」
そう俺だよっ! もう手を挙げて名乗り出ちゃうよっ!
「うん、ランちゃんで合ってるんだね。じゃあ……はい、これ」
おっ、依頼書ってヤツですか? 差し出してきたってことは見てもいいんだな??
それじゃ早速っ……んっ? うぅ〜…ん??
裏には…何も記載なし。チラ裏じゃないんだし当然か。
じゃあ、えーっと…………何これ?
「ギルドのドアを壊したランちゃんには修理費二十万オーラムを支払ってもらいまーすっ! パチパチー」
えっ? はぁ?? あの……請求書じゃなくて特別な、依頼は?
ドアぶっ壊した件はあの
あっ…明るく言われようが拍手されようが全然盛り上がらんわドチクショウっ! なに周囲のヤツらも拍手しとんねんっ!
つーかさっきの説明でも特殊依頼はGランクからって言われてたのに俺のバカっ!
……で、それはそうとこのオーラムとかいう初耳単位はこちらの通貨でよろし? 物価知らんけど、ドアの留め具壊しただけで二十万て高ない?
開始時の所持金そんなに多く貰えてると思え…デスペナで全部溶けてそもそも無一文じゃんか、俺……
「ギルドは避難所にもなってるからドアは特別製なのでーすっ! だからちょっと壊しただけでも高いんだよねー。
でもでもぉ~登録したばかりのランちゃんにそんな大金、あるわけ……ないよねぇ? だけど安心してっ! そんなランちゃんにぴったりの特別な依頼があるのっ!」
なっ!? ほっホンマですかっ?! この状況からでも入れる保険があるんですかっ!
入りますっ! いや、やりますっ!!
「そ・れ・がぁ、ジャーンっ! この初心者救済用特別依頼でーすっ!」
おっ…おおっ! これが、この紙に書かれているのが救いへのみ…ち……?
…………いやこれ、
「おっとぉっ! まさかこれがタダのドブさらい依頼だと勘違いしちゃってないかーい?」
勘違いもなにも徹頭徹尾エリア各所のドブの配置と清掃達成の基準しか書かれとらんわい。
「ちっちっちっ……。違うんだなぁこれが」
ご丁寧に人差し指を左右に振ってら。つかさっきからいちいちオーバーアクション付きなのが腹立つなぁ……その指へし折ったろか?
まぁいい、ほんで?
「なんと! この依頼書を受け取った者のみ、常設依頼の倍額の依頼料で請け負うことが出来るのでーすっ!」
なんか無駄な特別感出してるけど、どうせギルドでこさえた借金返済用の依頼ってことだろ?
つーかドブさらいもギルド発行とか言って、各自治体的なのが発注したのをまとめてるだけでしょ。
それを倍額て…いや、ギルドの取り分はともかくだ。依頼主ありきの依頼を消化させるためにやってるなこれ。
絶対不人気の依頼だろうし。
「さぁ! そんなお得な依頼を受け「イヤです」…受けられるラッ「イヤですっ!」…ラッキーガールはぁっ!! ランちゃ「イ ヤ で す っ!!!!」んひぃっ!??
ん~っもうっ!! なんでそんなワガママ言うのっ!」
何回聞き流して無視しようが耳押さえながらキレられようが嫌なものは嫌じゃボケぇっ!!
何が悲しくてゲームでドブ掃除やらないかんのやっ!
「じゃあどうやって二十万オーラムを払うつもりなのランちゃんっ! 新人が手っ取り早く返済できる唯一の依頼なんだよこれっ!!」
デーン!と依頼書突き出そうがお断りじゃいっ!
「他のお仕事で稼いできますっ!」
こんな依頼やってられるかっ! 俺は他で稼ぐっ!
「ふーん、なるほどねぇ……。けど残念でしたぁ~! ギルドに借金がある人は逃亡防止で街の外へは一歩も出られませーんっ!」
は? なん……だと?
だっ、だがまだ街中の軽作業依頼が…
「それに他の街中依頼は全部お駄賃くらいしか貰えませーん!
そんなのばかりやってると宿に泊まるとほとんどのお金が失くなっちゃうなぁ~、ご飯を食べるとますます返せるお金が減っちゃうなぁ~?
ランちゃんは返済までいったい何ヵ月かかるかなぁ~??」
ぐむぅっ!? そっ、そんなに……安いのか?
くそっ! 二十万もいったいどうやって稼げば……。やるしかないのか、ドブさらいを……?
「それに比べこの特別依頼ならなんとたった20日間働けば完済可能っ! 更に依頼従事期間中の宿も食事も提供っ!」
なんと20日でっ!?…………って1日一万かよ。
長期で街に拘束とか
つーか逃亡防止目的だとしても食事も宿も提供って必死すぎだろ?
どんだけ不人気なんだよドブさらい。もはや刑務作業じゃねーか。
「ねっ? だからランちゃんは
断るのは既定路線として……どうすっかなぁ~。
どっかに解決策…ん? あっ、そういや
「タイム」
両手のひらでTを作り、そそくさとギルドホールの片隅へ移動してしゃがみこんだ。
途中青髪さんの静止の声が聞こえたが無視だ無視。
「さて視聴者の皆。今のやり取りを見ていただろうから詳細は省くが、俺はドブさらいなんぞやりたくない。
しかし卑劣なるギルドが手を回し、借金を返済しないことには街の外に出ることも出来ないようにされ、ドブさらいをやるように仕向けられている。
それを避け、別の方法で手っ取り早く返済するため諸君らの知恵を借りたい。何か案がある者はドンドン意見していってくれ。
さぁなに…あっ! お前らから視聴料取れば即解決じゃん! というワケでお前らが視聴料を払うに決定っ!」
【コメント】
:横暴が過ぎるよランちゃん…
:ド直球に金を要求するなよちびっ子
:顔芸ばかりのロリっ娘に払う金はねぇ!
:悪いなラン太、この配信サイトはリアルマネー専用なんだ
:もうドブさらいでもやってろよw
:職業ギルドの依頼も受けられるんじゃないの?
:残念だがランちゃんの所持スキル錬金術は外で採取しないと達成できない依頼しかないんよ
:狼の素材売ったらなんとかなるんじゃない?
:デスペナでアイテムロストはないからインベにウルフ素材結構入ってるだろ
むぅ……良い案だと思ったんだけどなぁ。視聴者から巻き上げれば20万なんてすぐだろうに……
ところでこの顔芸ってなんなん? なんか変な顔でもしてたのか俺?? 芸って言うくらいなら見物料払ってくれてもいいじゃんかよ、ケチ。
他は…あー職業ギルドなんてのもあったな。でもそっちも結局外に出ないと無理なのかよ……
うぅ~ん…他には……ん? 狼って…もしかして俺が草原で戦ってたの犬じゃなかったの?
それより結局狼には毎回負けて終わって…そういやレベルは上がってたな、なら1匹倒したところで戦闘終了してたのか。
それならインベントリに……おおっ! 本当に狼の素材ワサワサ入ってるじゃーんっ!
よしっ、これなら!
「あのっ! これの換金お願いしますっ!」
ドッサドサ取り出したるは28匹分の狼素材っ! カウンターを埋め尽くさんばかりの肉に毛皮に牙に骨っ!
ついでに初期配布の回復薬や携帯食料もおまけにドーン! インベントリの中身全部カウンターにぶちまけてやったぜ。
狼は初日に倒せるような相手じゃないと運営に言わしめるくらいだから中々のお値段になるはずっ! これなら完済も夢じゃないだろうよっ!
いや、もしかしたら1匹一万とかいくんじゃないか? だとしたら余裕でお釣りが来るじゃないか!
「うわぁ~、ランちゃんてば登録前にもうこいつの相手してたの? 有望な新人さんで結構だけど、素材の買い取りはあっちの壁際カウンターでやってるから今度からはそこで取り出してねー」
えっ? あっ、はい。
「ごめんなさいです、すぐにあっ…ちに……「よっこい…しょっ!」…って、えぇぇぇ……」
全部抱えて持っていけるんすか、青髪さん……? 持ちにくそうにしてるくらいで、軽々運んでるけど……その山28匹分なのに重くないの?
……忘れてたけど
今さらだけど、あの人とバチバチにやり合うのはひょっとして…………危険?
_________________________
↓追加説明↓
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ご質問頂いたので追記させてもらいました。
インベントリの容量には上限がある設定です。
ですのでアイテムを預けることが出来る倉庫的なモノもあるけれど、そちらはゲーム内通貨での有料サービスです。
またアイテムロストに関してですが、イベント・PvP以外の対人戦で敗北した場合に限りアイテムを落とす設定です。
こちらは追記ですので、次話にも説明を載せさせてもらいます。
既にこちらでお読みになった方は読み飛ばしてください。
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