第38話 クリスマスコンテスト その1

「とうとう、この日がやって来た」

 コンテスト会場は、神戸ハーバーランドumieで行われる。ハーバーランドは、前回泊まったホテルオークラ神戸より西にある。特設会場はセンターストリート一階イベント会場に設置されるようだ。

 放送局はテレビがサンテレビ、後複数の週刊誌の記者が来ると言われていた。


 午前11時から審査が始まる。審査と言ってもミスコンのような水着で出場したりするわけではない。11時から13時の二時間でハーバーランドを舞台にしたインスタを撮影するのだ。

 そのインスタを中央モニターに映すと同時にサンテレビのSNSにもアップされる。それを10名の審査員、後SNSにアクセスした人が人気投票をする。ポイント制になっており、SNSの合計点数を50点に修正し、審査員も5点満点ずつ10人で投票し、最終的に100点満点で順位づけがされるのだ。


 あらかじめ茜と議論をした結果、一番いい場所を選定した。後は琴音が鈴木に伝えて撮影すれば一番いい絵のインスタになるはずだ。


 圭吾は9時につくように家を出た。茜にも手伝ってもらうように言ってある。茜と言えば以前の記憶が蘇る。茜の気持ちは別として俺が以前抱きしめてしまった。茜自身はわたしが悪いと言っていたが、あれはどう考えても俺が悪い。あわよくばと言う気持ちがゼロだったかと言われると少し自信がなくなるのだ。本人は琴音を勘違いさせてしまって本当に悪かった、と言っていた。今はふたりとも以前と同様に仲良しに戻ったようだった。俺との話が今や筒抜けのようで、喧嘩からの告白も舌を絡めたディープキスも知ってるよ、と茜からLINEが来ていたから既読スルーをしている。


 と言うかちょっとは隠せよ。今は恋の相談に乗ってるらしい。茜もほぼ未経験だと思うので、相談する相手を間違っていると思ってるんだけれど。


「圭吾ー」

 花時計の前まで来て見知った声を聞いた。


「おっ、茜かー、久しぶり」

「うん、久しぶり」

 ニッコリと笑顔で後ろ手に手提げ鞄を持って挨拶する。今日は白の花柄のブラウスに茶色のハイウエストプリーツスカート。色が黒なら制服みたいだ。茜が着ると凄く似合っていて、道行く数人が振り返っていた。


「この前はごめんな」

「あれ、わたしが悪いし。圭吾は気にしないでいいよ」

「いや、それでもさ」

「わたしの方こそごめんなさい。琴音との関係潰すとこだった」

 ペコリと頭を下げられる。


「それに、実は琴音の気持ちわかってて告白したの」

「えっ?」

 そう言えば俺が琴音を助けた日、女子会をしたと言っていたっけ。


「琴音から告白されてた。それが分かってて告白したの。わたし、酷い女なんだよ」

 そっか、そうだったんだ。だから、あの日呼ばれたのか。実に茜らしかった。


「気にしなくていい。聞いてたとか、別に俺はいい。それに茜は琴音の気持ち俺に言ってないだろ」

「それそうだけど、なんかずるいなって」

 告白されてたからって別に告白して悪いわけがない。結果的には俺が琴音を選んだだけだ。もし茜を選んだとしても、それで恨まれることはないと思うんだ。


「そんなこと当の琴音は気にしてないと思うよ」

「確かに、琴音は気にしてなかったよ。今もいい人探したげるよって、応援してくれてる」

「琴音の男友達って、鈴木以外いるのかよ」

「あんまりいなさそう」

 俺たちはハーバーランドに向かい歩きながら笑い合った。良かった、告白を断ったとしても友達としては繋がれた。俺は茜の想いは受け止めてあげられないけれども、友達としては繋がっていたい。男女の友情は存在しないと言う人もいるけれども、俺はそんなことはないと思うんだよな。日本も一夫多妻制なら良かったのに、と圭吾は良からぬことがふと浮かんだ。馬鹿だな、俺のことしか考えてないじゃねえか。思わず頭を振る。


「何考えてたか、当ててあげようか」

 口角を引き上げて、茜が悪戯を含んだ笑顔をする。


「なんのことだよ」

「あー、知らないふりするんだ」

「何考えてたか、お前にわかるのかよ」

「わかるよー」

「じゃあさ、言ってみろよ」

「んーとね」

 顔を上に上げて、横を歩くこっちを振り向いた。


「エッチなこと、かな」

「はあ?」

「だってさ、圭吾の鼻の下伸びてるもん」

「伸びてねえよ」

「伸びてるね」

 顔を近づけて、鼻の下をじっくりと見てくる。茜のいつも使ってる香水のいい匂いが感じられた。


「どーせ、一夫多妻制なら良かったのに、とか思ってたんでしょう」

 こいつは不思議な能力でもあるのかよ。


「うるせえよ、思っちゃ悪いかよ」

「あー、自白きたー。そっかー少なくとも第二夫人くらいには、わたしなれてるのかな」

「そんなに沢山知り合いの女いねえしよ」

「まっ、それでも、……ありがとう」

「たださ、ちゃんと諦めろよ。……俺は琴音一筋だからな」

「分かってるって。まあ、好かれてるの分かってるだけでいいかな、と思ってね」

 本当に分かってるのかよ。俺のことで婚期を逃しても知らねえぞ、と心の中で呟いた。


 茜とそんな話をしていると目の前に神戸ハーバーランドが見えて来た。

 神戸ハーバーランドは複合施設だ。モザイク南側に大きな観覧車があり、西にノースモールとサウスモールというショッピングモール、映画館などが揃っている。

 旅行客も多いのか俺たちが泊まったホテルオークラ以外にアニヴェルセル神戸というホテルがあった。土曜、日曜になるとイベントも毎週行われている。今回のカップリングコンテストもそんなイベントの一つだ。


 会場に着くと出場者リストを確認した。本日の出場者は最終130組になるようだ。


「思ったより多いな」

「そうだねえ、琴音なら大丈夫とは思うけども」

 俺は審査内容を再度確認する。一次審査がインスタだ。ここで10組に絞られる。ここから、会場で簡単な自己紹介とふたりの出会いなどを説明する。それを考慮して審査員が一組に絞る。可愛さや格好良さは記載はされていないが、テレビ放映や撮影された写真が雑誌に載るのだから、当然イケメンや美少女がいい。

 第二次審査まで行けば、ほぼ決まりだろう。


 出場者は他に待機場所があるので、会場には来ていなかった。鈴木がいるから読まれるかは分からないが、一言応援LINEを送る。


(がんばれ、きっと大丈夫!)

 すぐに既読がつく。


(もちろん、大船に乗った気持ちでいて)

 猫のスタンプが沢山押された。そう言えば前も猫のスタンプ送って来たな。猫を飼ってたと言う話は聞いたことがないけど、猫好きなのかな。


(がんばれー、それはそうと猫好きか?)

(うん、圭吾飼ってくれる?)


 これは買ってくれるの誤字ではなくて、俺の家で飼えと言ってるようだった。ちょっと心配になる。こんなに返信を返して、鈴木は大丈夫なんだろうか。


(考えとくよ、それはそうと鈴木は大丈夫なの?)

(うん。今は別の場所にいてるから)

 一緒にさえいないのか。あまりにも行動が分かりやすすぎるのが、琴音の良いところでも欠点でもある。この場合は一緒にいたほうがいいと思うんだけど。


(もうすぐ終わるのだから一緒にいろよ)

(分かったよ)

 不満そうな表情の猫のスタンプが押された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る