第27話琴音の想い、そして決意
ホテルオークラ神戸、最上階にステーキハウスさざんかがあった。四方がガラス窓に囲まれた空間。窓際では夜景が楽しめた。
「どうぞ、こちらでございます」
琴音と茜は夜景が一望できる特等席に案内された。神戸湾を一望できるロケーションだった。
「うわぁ、きれい」
水平線の向こう遥か先まで見えた。地球がもし球体でなければ、外国まで見えたかもしれない。この景色、圭吾くんと見たかったな。そして、二人で。思わず顔がニヤけてしまう。
「変な想像してお花畑満開なところ悪いんだけど」
「えっ、えっ。そんなことないです。ほ、ほ、本題ですよね」
目の前の茜は頭を抱えた。わたしは圭吾くんだけでなくて、多くの人に失望させてしまうのだろうか。
「まあ、いいや。あなたの覚悟を聞きたくてここに来た」
覚悟、何のことなのだろうか。圭吾くんとのことかな。なら覚悟はできてる。十年越しの恋なんだ。
「圭吾くんとの今後ですか」
「そんなノロケ話はいいから。そんなの勝手にすればいい」
何故か、怒られた。朝あった時に比べて少し怖い。圭吾くんが大怪我を負ったのは完全にわたしのせいだから仕方がないことなのだけれど。
「圭吾、このまま行くと、今年決まったゼネコンの就職辞めることになるって、知ってる?」
茜が窓から外を見ながら呟くように語った。
わたしは圭吾くんの内定の詳細を知らなかった。どこか大きな会社に決まっているという話は聞いたことがあるけれど。具体的には何も分かってなかった。
「その顔じゃ、知らないのね」
「はい、教えてくれますか?」
やはりか、と独り言を呟いた。目の前の茜の髪の毛がゆっくりと左右に振られる。少し青い視線がわたしに突き刺さる。敵意むき出しの視線を感じた。
「圭吾の就職先は大手ゼネコン。由美さんのお父さんの会社なのよ。この意味わかる?」
冷や水を浴びされたようだった。縁故採用なら圭吾くんがわたしの手助けをする先には、内定取り消しが待っている。それもほぼ、確実な未来として。圭吾くんそれでいいの、琴音は心の中で呟いた。
「初めて知りました。ごめんなさい」
わたしは何も知らないんだ。わたしは圭吾くんと仲良くなって、恋をすることだけしか頭になかった。
「そうだよね。行動見ていると他人に迷惑をかけることに極めて嫌がるもんね。そんな琴音が知ってるわけがないか」
目の前にメニューが置かれた。ウエイトレスが持ってきたメニューから茜が二人分の注文をしていく。
「ここの支払いはわたしの奢りでいいよ」
「そんなわけにはいきません。わたしが先輩だから支払いますよ」
「ほら、そう言うとこ、ね。まあ、そう言うと思ってた。割り勘でいいよ」
「はい、それならば」
茜の視線がすぐ目の前に感じた。すごく近く息が届きそうな距離に顔があった。たとえ女同士でも少しドキドキした。
「で、それを聞いた上でどうする」
「なぜ、圭吾くんは教えてくれなかったの?」
「言ったら断っただろ」
「はい、断ります」
「だからだよ、それが分かってたから言わなかった」
「でも、わたしたち四回生なんですよ。就職先なんてなかなか見つかるわけないし」
「じゃあ、琴音は圭吾にどうなってもらいたい」
「わたしと鈴木の話は、わたしの解決すべき問題です。由美さんとの問題は別のところにあると思うんです」
「なるほど、なら今回の浮気は琴音一人で解決すると」
「そうです。これはわたしの問題。ひとりで解決します」
「圭吾はどうすべきだと思ってる?」
「圭吾くんはとりあえず、今の仕事に就職して二年くらい働く。その上で由美さんが嫌いなら、他の就職先に転職した時に決断すべきです」
目の前の茜は、琴音を見据えていた。ウエイトレスが、前菜を持ってきてわたしと茜の前に置いた。メニューの説明をするが今は聞いてる余裕はない。
「やはり、そう言うか。圭吾は別の意見を持っていたけどな」
「この話をしたのですか?」
「うん、圭吾は、それが分かった上で由美と別れて就職も白紙に戻すと言ってた」
琴音は驚いた。そんな覚悟をしてるなんて思いもしなかった。
ウエイトレスがスープを運んできた。レシピの内容を語って、離れていく。
「そんなことしたら全てを失うじゃないですか」
「それが圭吾の覚悟なんだよ」
わたしの鈴木との破局が圭吾くんに大きな足枷になってしまっていた。そこまでしてくれる道理はない。私はたとえ鈴木と別れても、親との関係が変わるだけだ。今年から働く予定の仕事には何の影響もない。
「圭吾くんが目覚めたら、辞めてもらえるように説得します」
「琴音は、それでいいの」
「どういうことですか」
「琴音も他の女たちと一緒で、ゼネコンに就職してないと付き合えないってことかな、って」
「そんなわけないです」
ウエイトレスがメインメニューである牛肉を持ってきた。説明はいいからと下がってもらった。
わたしは目の前の茜に強い視線を投げかける。明らかに苛立っていた。だが、本当にそうなのだろうか。わたしは由美と一緒の2年間をどう過ごすつもりだったのだろうか。確実なのは単身戦う自分の隣に圭吾の姿はなかった。
「今までの話からすると、付き合えないと言っているようにしか聞こえなかったけど」
「わたしは圭吾くんのことを思って……」
「それを圭吾が望んだの」
「今は望んでないかも知らない。でも時間が経てば後悔する時が来ると思う」
「なんか琴音の言ってることって教科書みたいだ」
「教科書ですか?」
確かに親が言うセリフをそのまま言ってる。就職先が決まらなかったからってどうなるものでもない。ゼネコンなんか行かなくても大丈夫。わたしは本当はそう言いたかった。
「だろ、未来なんてわからないのに、ゼネコン行った方がいいと杓子定規に語っている」
「わたしは、わたしは、……圭吾くんに後悔して欲しくない」
「偽善だよ、ゼネコンに行かなかった圭吾に魅力がないと言ってるようなもんだ」
そんな事ないって言いたかった。いつの間にだろうか親に植え付けられた常識が知らない間に自分に巣食っていた。そんなものために我慢する必要なんかないじゃないか。
「そんなバカな理由なら、勝手に一人で復讐しろよ、圭吾もフリーになるからちょうどいいや。わたしは圭吾と付き合うわ」
「な、何を言ってるんです」
圭吾くんが取られちゃう。絶対嫌だった。もう後悔なんてしたくない。圭吾くんがいない十年間、永遠に似た時間だった。それでも我慢できた。でも今は出会ってしまった。もう我慢したくない。
「そんな覚悟のない奴はいらないんだよ」
「口では圭吾のためとか言ってるけど、相手が釣り合わないなら、放り出す。それだけじゃねえか」
「そんなことは、……ない」
「なら、覚悟を見せてみろよ、大人にはバカと言われても、たとえ仕事がなくなっても圭吾に寄り添う覚悟をしろよ」
わたしは俯いた。圭吾くんは仕事を辞めてでも、由美と別れるのだ。その覚悟が凄いものであることはわかった。そもそも二年間も由美と一緒に過ごす圭吾を待てるのか。それも毎日関係を持っていると知ってて。下唇に歯を入れて力を入れた。痛ッ、それは絶対嫌だった。
わたしの心に聞いた。圭吾くんがたとえどうなっても気持ちは変わらないか。答えは決まっていた。
「圭吾くんは、わたしの、だよ。誰にも渡さない」
振り向いた琴音に迷いは消えていた。
―――
前回と同じく難産でした。
琴音の性格考えていくとほっといたら、全て捨てちゃうんですよね。
それでは、お話が変わってしまうので、茜には頑張ってもらいました。
やっと、本音話せたね
十年越しの恋。叶うのかな。
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