第2話 部活

 小さい頃の私は結構わんぱく少女だった。

 女の子とおままごとするより、男の子と外で駆け回って遊ぶ方が好きだった。

 今ではそんな面影もなくなったが、当時はじっとしていることが苦手で、落ち着きがない子ねとよく言われていたのを覚えている。

 そんな感じで女らしさがなかったせいか、異性からは告白されたことはない。

 というか誰が好きとか、そういったことを意識したことがなかった。


「あんた見た目は可愛いんだけどねぇ」


 母親も事ある毎にそう言っていた。

 近所のおじさんやおばさんは、可愛いねぇといつも言ってくれていたけど、自分ではよく分からなかった。

 まぁ、小学生の頃はそんなこと言われても、特に深く考えていなかったし、中学生になってもそれは変わらなかった。


 そんな私はこの春、高校生になる。

 高校生になっても、特に変わることはないと思っていた。

 しかし、ある出会いがきっかけで、私に変化が訪れる。


 この時の私は、そんなことを知る由もない。




 ───入学から一週間が過ぎた頃


「部活何やるか決めたかー?」


 気の抜けた声で聞いてきたのは、小学生の頃から仲のいいひかりだった。

 小中は学区が一緒だったけど、高校まで一緒になるとは。これが腐れ縁というやつなのか。


「んー。運動部のどれかかなー」


「さくらってホント体動かすの好きだよなー」


 私は小さい頃から体を動かすことが好きだ。


「ひかりは動かなすぎなんじゃない?」


「たくさん動いてますぞー」


 そう言ってひかりは腕をブンブン回し始める。

 ・・・そういうことじゃないけど。

 ひかりは私とは違い、体を動かすことがあまり好きじゃないらしい。


 うーん・・・。運動部と言ってもたくさんあるし、どの部活に入るか悩む。


「運動部にするとしてなにやるの? 陸上? 走るの好きだし中学も陸上部だったじゃん」


「んー。 どうしよう」


 確かに走るのは好きだ。

 それが理由で、中学では陸上部に入っていた。

 特に目立った活躍はなかったけど。

 陸上でもいいけど、せっかくだしなんか違うことしてみたい。


「ひかりはなんか入るの?」


 聞いてみたものの、運動部はないだろうな。というか帰宅部って言いそう。


「もう決めてますぞー。帰宅部!」


 やっぱり。

 えっへんとない胸を張って、帰宅部入部を宣言する。

 それ部活じゃないけどなーと心の中でツッコミを入れる。


「とりあえず、今日は部活動紹介あるらしいし、それ見て仮入決めようかな」


「おー。そうするかー」


 いや、あなたは部活入らないでしょ。



 教室から体育館へ移動し、1年生が全員集まった所で部活動紹介が始まる。

 次々と先輩達がちょっとした練習を披露したり、気を引く為に笑いを取ったりと頑張っている。


 うーん。なんかどれもパッとしない。そんな風に考えていると・・・。


「どれもパッとしないなぁ」


 どうせどの部活にも入らないひかりが言う。同じことを思っていたらしい。


「確かに」


 そう言って相槌を打つ。

 そのあと、特に気になる部活はなく、ボーッと眺めているといつの間にか最後の部活紹介となっていた。


「最後はソフトテニス部です!」


 生徒会と思われる人の紹介のあと、ソフトテニスの部員が練習風景の披露を始めた。


「ソフトテニスねぇ」


「なになに? ソフト気になるの?」


 テニスを付けなさいよ。なんだよソフト気になるって。ちょっと気になるの新しい言い方みたいじゃん。


「んー。 ちょっとやってみたい気はするけど・・・どうだろ」


 なぜかこの学校には硬式テニスが無く、ソフトテニスだけだった。


 最後のソフトテニス部の紹介も終わる。

 生徒会の人が部活動紹介の終わりを告げると、先生から教室へ戻るよう指示が出る。


 教室へ戻る途中、ひかりがいきなり叫んだ。


「決めた! わたしは帰宅部に入る!」


「だからそれ部活じゃない」


 さっきも言ってたし、決めるも何もないんだよなぁ。


「そんでさ、なんかいいのあった?」


「ソフトテニス部、ちょっと覗いてみようかな」


「おー。ポンポンするのかー」


 そう言ってひかりは『この一球は無二の一球なり!』とか言いながら、打ってる真似を始める。

 かと思いきや、クルクル回り始めた。

 それじゃエースをねらえないでしょ。


 とりあえず、ソフトテニスに仮入部してみようかな。

 合わなかったら入らなきゃいいし。

 そうなったらバイトでもするか。

 そんなことを考えながら教室へと戻った。

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