瑠里と青のエトセトラ
美瞳まゆみ
第1話 新入生
瑠里にも初めて後輩が出来た。
二回生の春、中長距離班の新たな新入部員が男女合わせて七名入り、内六名が全国からの特待生で占めていた。
その中で、去年の瑠里のように、トライアウトを合格した一般入部と呼ばれる女子が一名いた。
トライアウトの手伝いは、瑠里達新二回生が担当した。
今年は四名の受験者がいて、同じ一般入部としての瑠里にしてみれば、全員受かって欲しい思いが強く、色々なスポーツテストの計測をしながら、心の中で「 頑張れ!」を唱えていた。
結果は、全員合格とはならず、小柄だが元気で明るいとてもスピードのある子が選ばれた。
「 一年、総合スポーツ学部の
学部も同じなんだー。
瑠里は元気な挨拶をする後輩をニコニコ顔で歓迎した。
「 で、こいつは誰だ?」
ある日の居残り自主練の日、瑠里の横でニコニコ笑っている新入生を見て、青が首を傾げて尋ねた。
「 えーと……1年の高木さん。自主練に参加したいって言われて……」
「 で、連れてきたのか?」
連れてきたというより、ついて来られたんだけどね……
瑠里は少し困った笑で頷く。
「 高木です!一般入部です!高宮先輩みたいになりたくて、先輩の自主練ついて来ちゃいました。よろしくお願いします!」
「 俺は、高宮とは自主練するが、一年にお願いされる覚えはないからな。」
青は、瑠里に視線を投げながら肩をすくめた。
「 だ、大丈夫!まずは高木さんには簡単なトレーニング教えて、私は青とランをするから 」
「 ……青?」
高木真衣が、不思議そうに呟いた。
瑠里は、しまったと思わず口に手を当てた。
クラブ内では、極力青のことは「月城さん」と呼ぶようにしていたからだ。
「 あ!とりあえず、サーキットトレーニングしよっか!どれからする?メニューは貰ってるよね?」
瑠里は真衣にそう言うと、青にも手を上げて済まなそうに笑いかける。
「 月城さん、先に流してて下さい!すぐに追いつきますからー 」
青は何も言わずにグラウンドに向かった。
瑠里は、真衣のトレーニングメニュー用紙を見ながら特に力を入れるトレーニングを自分のわかる範囲で教えると、先に走り始めた青を追いかけた。
自主練を終了すると、瑠里は青と並んでバス停まで歩いていた。
二人が付き合い始めてから、手押しチャリで青が瑠里をバス停まで送ることが恒例となった。
「 あのなんとかという一年が、一般入部だから気に掛けてるのか?」
「 高木さんね。」
瑠里は苦笑した。
「 気に掛けてるというか……スポーツテストの時から見てたし、一般入部は今年も彼女一人だし、頑張れ!って感じかなぁー」
「 普段の練習はともかく、自主練も面倒見るつもりなのか?」
「 そういうわけではないんだけど、今日はたまたま着いて来られて、断れなくて…… ごめん。」
瑠里が済まなそうに笑うと、青は瑠里の頭にポンと手を置いた。
「 あやまるな、責めてるわけじゃない。……邪魔されたくなかっただけだ。」
甘い!
瑠里は赤くなりながら青を横目で見上げた。
二人きりの時の青は、この上なく甘い。
赤面してしまうようなことを普通に口にする。
ドキドキが止まらなくて困る。
「 面倒くさいのはごめんだから、適当にしとけよ、瑠里は制限無しに面倒見いいからな。」
「 去年の私には、青がいたでしょ?なんだかんだ言いながらもずっと教えてくれたじゃん?」
「 まぁ、記憶のせいなのかとにかく瑠里が気になって仕方なかったからな。」
「 へへっ 」
瑠里は嬉しそうに笑った。
「 きっと今年もさ、特待生組はメニューが違うだろうから、高木さんが疎外感持たなければいいなーと思ってさ。」
すると青が顔を傾けて、瑠里を見た。
「 去年、そんなに疎外感持ってたのか?」
瑠里はそうだったっけ?と思い出してみる。
確かに特待生達との練習メニューは分けられていたが、合同のメニューもあったし個人のトレーニングメニューも各自組まれていた。
だから元々の実力差は感じていたが、疎外感的なものは特に持たなかった記憶がある。
そんなことよりも、あの時はとにかく青に近づく方法だけを必死に探していた。
「 あの頃、瑠里が自主練を始めた理由がそれだったよな?一般入部は自力で頑張らないと特待生に追いつけないって。」
青に指摘されて、瑠里は「あっ!」となった。
そうだった。
あの時、神崎に青からの接近禁止令を言い渡されて絶望していたところに、青が一人で自主練しているのを知って、少しでも近くに居たくて勝手に自主練を始めた。
その時も青に拒否られたが、その際に必死さからそんな事を主張した……のを思い出した。
慌ててそんな事もあったね、的な笑いでやり過ごそうとしたが、嘘も誤魔化しも下手な瑠里の表情は、すぐに青に気づかれた。
「 おい。」
青がチャリ押しの歩みを止めた。
「 ……ど、どしたの?」
青の目が訝しげに細められ、瑠里を見た。
「 ちゃんと白状しろ。隠し事は無しだろ?」
うぅ……
瑠里は鼻の頭に皺を寄せて、俯いた。
今さら恥ずかしくて言いにくい……
だが、青は瑠里が白状するまで動かないつもりなのが無言の圧からわかる。
瑠里は赤くなりながら、ボソボソと口を開く。
「 ……あの時は……青に接近禁止令クレーム出されて困り果てて……そしたら、青がサブで走り込みを始めたのを偶然知って…… 」
「 うん。」
「 だから……なんとか近くに居られる方法を考えて、自主練を始めたの。そしたら、また青に俺のいない時にやってくれとか言われて…… だから、なんとか追いやられたくなくて、自主練の理由を捻り出したら……青が私が一般入部だってことに反応してくれて……でも、頑張りたい気持ちも嘘ではなかったんだけど…… 」
瑠里が俯きながらそこまで白状すると、突然チャリ越しに青の右腕に肩を抱き寄せられた。
「 え!?」
瑠里が驚いて固まると、青が頭に優しくキスをくれた。
「 ごめんな。一年越しだけど、謝っとく。」
青はそう言うと、瑠里を解放して微笑んだ。
「 でも、聞けて嬉しい。瑠里が俺の傍にいるために必死になってくれてたこと。」
その優しい微笑みは反則だった。
やっぱり、激甘だ。
瑠里は真っ赤になりながら、前を向いた。
「 ……一年越しだけど、許してあげる!」
瑠里の照れ隠しのセリフに、青がアハハと笑いながら再び歩き始めた。
「 ふぅん……あの二人、そういうことなんだ 。」
仲良く笑いながら歩く二人の後姿を、同じく正門に向かって帰っていた高木真衣が、興味津々な顔で眺めていた。
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