第35話「新スキル実装とジョブ格差」
「お兄ちゃん! 新スキルは使ってみましたか?」
「ん……? ああ、フォースバッシュだっけ?」
「お兄ちゃんはナイトスキルを取ったのですか? 私は戦士の『超斬撃』を選びましたね」
既存ユーザに昨日新規実装スキルが一つずつ配布された。レベルが一定を超えているジョブから一つを選択出来る。質が悪いのは、他のジョブのスキルが欲しくなったら課金しろと暗に言っていることだ。一応クエストをこなして取得も出来るが、現実的ではない量のアイテムを要求される。
「お兄ちゃんは使ってみましたか?」
「ああ、雑魚のヘイトを集めるには都合のいい技だったな」
「私は火力が高い技でしたね。なかなか運営も粋なことをしてくれます」
「そうだな、これで課金要素とセットでなければよほど良かったんだがな……」
「お兄ちゃん、このゲームはハイブリッド課金路線を取るのは確定しているんだから諦めましょうよ……」
妹が座っている俺の方にポンと手を置く。いっそアイテム課金だったらどんなに楽だっただろうか……月額課金をしているのに手に入らない物がある。それはとっても悲しいことだ。
「ギルマスぅ……フォーレちゃん……うぅぅ……」
「どうしたんだよマクスウェル」
「何かあったんですかマクスちゃん!?」
「聞いてよぅ……この前の専用スキルで私はシーフの『パーフェクトスティール』を選んだのよ……」
「あぁ……」
「やっちゃいましたねぇ……」
マクスウェルは何をやったのか? そう、シーフのパーフェクトスティールは敵から確定でドロップアイテムを盗めるという一見強力なものだった。ボスには聞かないという致命的な点を除けばだが……
レアドロップで美味しいものの大半はボスがドロップする。それが手に入るとこぞってシーフのスキルを選んだ人が続出したのだが、その実装のお粗末さからパーフェクトスティールを選択したプレイヤーは悲嘆に暮れたのだった。
「まあ課金すれば他のスキルも手に入るじゃん」
「そうですよ! マクスちゃんは社会人なんだから手に入るでしょう? スキル覚醒書を買えばいいだけじゃないですか!」
「それはそうだけど一つの枠を無駄にしたって悲しいことでしょう? もう少し私を慰めてよ!」
「はいはい、この前の誤配布で手に入ったビールが有りますから飲みましょう! 飲んで忘れるのが一番ですよ!」
そう言ってマクスウェルを席に着けてその前にウインドウからビールを選択してコトリと置いた。
ゴクリと一気にビールを飲み干してマクスウェルは机に突っ伏して愚痴った。
「なんなのよ……既存ユーザへの感謝を込めてのプレゼントでしょう! 格差があっていいと思っているの? 運営の実装班には良心というものが無いの? 酷すぎるわよ!」
「分かりますよ、私もガチャで爆死する度運営に文句を言いたくなりますからね。
「運営のクソッタレ-----!!!」
「運営のバカヤローーーー!!!」
妹とマクスウェルの壮絶な愚痴の言い合いはそれから始まった。いくら運営が一々会話を聞いていないとはいえ、広場でやったらGMを呼ばれかねないような愚痴を言う会が開かれたのだった。
俺はフォーレとマクスウェルのいる部屋を閉めて誰もは言ってこないように注意した。それから数人ログインしてきたが、あたりのスキルを習得するのにアイテムを使っていたのでマクスウェルには合わせない方がいいと判断して、その部屋を立ち入り禁止と言うことにしておいた。
結局、フォーレがマクスウェルは酔い潰れたと報告に出てくるまで部屋の閉鎖は続いたのだった。
なお、フォーレ曰く、次の給料が入ったら覚醒書を真っ先に買うと決意を新たにしているそうだった。金の力で解決する、それは厳しくもあり救いでもあるようだった。
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