第32話「土曜日の修羅場」
「お兄ちゃん! 美味しい狩り場が出ましたね!」
妹がテンション高く直通チャットを開いてくる。おそらく『高原』に出現した『ウィル・オ・ウィスプ』という人魂型モンスターの話だろう。最近新規実装された敵で経験値が非常に高く、下方修正されるのではないかともっぱらの噂になっている。
「あの人魂狩りか? 俺はそんなことをやっている暇は……」
「えー! 私の狩りを手伝ってくださいよ! お兄ちゃんがカンストしてるからってギルメンに対する責任がないわけじゃないでしょう!」
「微妙な正論はやめろ。俺はギルメン全員の面倒を見られるほど暇じゃないんだ」
俺はギルドに対する責任があるのだろうが、ギルメン一人一人に対する責任までは負えないかな。そこまで手をかけることは出来ない。
「絶対あの人魂下方修正されますって! 今のうちに稼いでおきたいんですよ!」
「正直俺もポップ間隔か経験値は修正されると思うけどそういうのはマクスウェルあたりに頼めばいいじゃん」
「マクスちゃんはちょっとデスマをやっているそうで参加出来ないとチャットアプリで言ってました」
「タイミング悪いなぁ……」
「ヴィルトやメアリーはどうなんだ?」
「ヴィルトさんはレベリングに興味が無いそうで、メアリーちゃんはスキル的に人魂狩りが難しいそうです」
どうにもこうにもならないな……しゃーない、協力してやるか。
「分かったよ、一時間だけ協力してやる。アレが相手なら一時間でもレベルは上がるだろ」
「やったぁ!」
俺は高原を選択してポータルを開く。
「じゃあ行くぞ」
「はい!」
二人でポータルに触れると見渡すかぎりの緑の平原に飛ばされた。所々に光の玉が浮かんでいる。
「ポップの量は十分みたいだな。一応訊いておくが対死霊装備はちゃんとしてるか?」
妹はコクリと頷く。
「もちろん! お兄ちゃんとガンガン狩れるように装備を調えてますよ!」
「じゃあ広域挑発スキル使うから集まってきたのを片っ端から倒せよ」
「へ?」
「『ワイドインヴォーク』を使用します」
バサッと魂達が俺たちの方へターゲットを取った。
「『ヴァニッシュ』『ヴァニッシュ』『ヴァニッシュ』」
妹は必死に人魂に攻撃をしている。攻撃は全て俺の方へ来るのでコイツ程度の攻撃なら軽くいなせる。こちらはノーダメージでペシペシと妹が魂を狩りとっていく様は死神のようだった。
しばしそうして狩りを続けて数レベル上がったところでそろそろ時間となった。妹はもっともっととブーブー言っていたが、俺は討伐完了と言うことで、ギルドハウスへのポータルを開いた。
「お兄ちゃん、諦めが早くないですか?」
文句を言う妹に対して俺は『疲れるんだよ』と返しておいた。そこへ全プレイヤーへの通信、通称『天の声』が響いた。
『プレイヤーの皆様、平素より当ゲームをプレイしていただきありがとうございます。この旅緊急メンテナンスを行うことが決定しました。プレイヤーの皆様には申し訳ありませんが一時間後までのログアウトをお願いします』
「修正入るみたいだな」
「はぁ……短い儲け話でしたね……」
そうして俺たちはログアウトした。その後のメンテ結果で、意外だったのはウィル・オ・ウィスプの経験値はそのまま据え置きでポップ率を極端に下げたのだった。要するに経験値の美味しいレアモンスターとして存在を残すことになった。
一応存在自体はそのまま残ったのだが、ポップしたのを狩るよりも平均的なモンスターを狩った方が経験値効率がよくなったので狩り対象ではなくなったのだった。
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