第14話「詫び石に関しては俺も動くよ」

「お兄ちゃん! 不具合ですよ!」


 妹が俺の部屋に飛び込んできてそう言う。そんなことは俺だってさっきまでログインしていたから知っている。簡単なバグ修正だそうだ。なお今回のバグはアイテムの売却価格が購入価格より高いというものだった。同じ町で行えるチートだが店が違ったからチェック漏れしたようだ。


「大騒ぎするな、この程度のバグならさっさと修正されるよ」


「それはそうなのですが気になりませんか?」


「何がだ?」


「詫び石ですよ! このバグを使ってた人のロールバックがされるでしょうが詫び石ものの事件じゃないですか!」


「バグ修正に必ず詫び石が出るわけじゃ無いぞ?」


「期待するのは自由じゃないですか! 出来れば十連出来るくらいは欲しいですね!」


「はいはい、次のアプデに向けてボイチャするから部屋に戻ってログインしておいてくれ」


 そう言って妹を送り出し、俺はPCに向かってチャットアプリを起動した。


 来たのはいつものメンツとメアリーも来ていた。


「メンテね……」


「メンテですね……」


「メンテっつーかデバッグだろ」


「あんなクソわかりやすいバグを見つけられないとか運営無能すぎるでしょ!」


「それはそうだけど、いつものことでしょう?」


 そう、ノンリアルファンタジーオンラインの運営はやたらとメンテをする。くだらないバグから致命的なバグまでテストというものを本当にしたのか怪しいほどのバグがある。


 それ以外にも強装備のナーフなども平気で行うので皆それを恐れながらプレイしている。ガチャで当たったからといってそれがずっと強い装備であるとは保証されないのだ。


「詫び石ワッフルワッフル!」


「まあ一回分くらいだろうな」


「無料五連チケットくらいは欲しいとこだがな」


「守銭奴がそんなことするわけないでしょ」


 マクスウェルは現実主義のようであまり期待をしていないようだ。


「そんなこと言って~マクスちゃんだって期待しているんでしょう?」


「私は小銭程度の詫び石より再発防止を求めるわね」


 メアリーがそこに口を挟む。


「たぶん、詫び石を配った方が完璧を求めるより簡単なんだと思うよ~?」


 大きなため息が一つマイクに入った。


「ままならないわねぇ……」


 石が欲しいという気持ちは痛いほど分かるがそのためにバグを祈るのも間違っている。


「ギルマスはなんか期待しているものないの?」


「今回のギルドクエストの条件緩和かなぁ……ほら、プレイ可能時間が短くなったじゃん?」


「その辺はありそうな線ね……詫び石と一緒に来そうなやつだわ」


「しかしギルドクエストに『ギルドの総討伐数』があるからなぁ……そこだけでも緩和して欲しいなあ」


「アレねえ……カンスト組には作業以外の何ものでもないわね」


 エンドコンテンツを回しているプレイヤーにとっては作業化したものになるのでコレの撤廃を廃人達は主張している。


「私は! ガチャの最高ランク装備をもらいたいです!」


 地味に欲深いメアリー、それをやるならガチャ石を配る方を選ぶと思うぞ?


「メンテ明けは何時でしたっけ?」


「四時ね、伸びなければの話だけど」


「伸びるのはよくあることだぜ」


「だったら始めから余裕を見積もって欲しいのよねえ……社会人の時間は高くつくってのを知らないのかしら?」


「運営としては少しでも長くプレイして欲しいんだろ、しょうがないじゃん」


 そんなグダグダトークをしてメンテ明けを俺たちは待った。結局四時ピタリにメンテはあけた。


「じゃあゲーム内で会いましょう!」


「じゃあ解散!」


 皆で作っていたルームが開放され俺たちはVRヘッドセットをつけてログインをした。ログインするなり運営の謝罪文が出ており詫び石は……ガチャ一回分だった。


 この量でも喜んでいるメアリーがなんだか不憫でしょうがなかった。

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