第11話「決済手段の封鎖」
その日、ギルドにはマクスウェルがいた。あり得ないことではないが珍しいことだった。
「ぬわああああああああああああああ!!!!」
突然絶叫を始めるマクスウェル、俺はビビって作業中の道具に視線を戻した。
「どうしたんですかマクスちゃん? 何か気に食わないことでもありましたか?」
鋼の心臓を持っている我が妹は平気な顔をして話しかける。俺には真似できないな……
「違うわよ! 私が使っているカードブランドが使えなくなったのよ!」
「ああ、そういえばマクスちゃんは合法な方でしたね」
「何が合法なのかは訊かないでおくけど、少なくとも私は社会人よ」
触らぬ神になんとやら、マクスウェルとフォーレがやいやい言っているのをBGMにギルドの作業を一通り進めていく。
「でも、どうしてカードが使えなくなったの?」
「さあ、知らないわね……ガチャがオンラインカジノと同じ扱いに本国でなったとか噂を聞くけどね」
そう言って手のひらをクルクルしている。おそらくクレジットカードを持ったままログインしたのだろう、その手はカードを持っているように動いていた。
「じゃあマクスちゃんはもうガチャが引けないの?」
「はっ!」
くだらないことを聞くなという感じでマクスウェルは鼻を鳴らした。
「まさか! そんなわけないでしょう! カードの決済停止のアナウンスが出た時点で別ブランドのカードに申し込んだわよ」
「本当に社会人なんだねー……自称ロリって本当なんだ!」
「フォーレちゃん、年長は敬うものよ?」
さすがに失礼だろう。指摘をされたのだが妹様は全く意に介することなく話を続ける。
「じゃあ「おばちゃん」ってよんでもいいの? 怒るでしょ、マクスおばちゃん?」
「あんた表に出たいの? 私はPK可能ゾーンに移動することも辞さないわよ?」
「はいはい、マクスちゃんは可愛いですよ」
「よろしい」
そもそもマクスウェルが男女どちらかであるかすら怪しいものだと思うのだが、そこから突っ込むと証明のしようがないどん詰まりにハマりそうなので黙っておいた。
「せっかくポイント貯めてたのに……ぱぁね」
「ポイントってそんなに貯まるの?」
「一応ね、私くらい課金すると高還元カードはありがたいものよ」
「ギルドに貢献してもらえるのはありがたいけど身銭を切るのは程々にしてくれよ?」
「はいはい、ギルマスはそれでいいのかしらね……もう少しガツガツ上にのぼろうとしてもいいんじゃない?」
俺が思わず口を挟んだのだがマクスウェルは重課金を厭わないような奴らしい。
「俺は善良なギルド運営を心がけてるんだよ」
「上司にするならいい人なんでしょうけど、ギルマスとしてはどうなのかしらね……」
「マクスちゃんはなんのカードにしたの? CMで嫌と言うほどやってる通販サイトのやつ?」
「いいえ、普通に銀行運営の奴にしたわよ」
「銀行運営?」
「要するに銀行が発行しているカードね、これなら突然無くなるようなこともないしね。カードは安定性も重視するべきって気づいたわよ」
ご苦労様ですとしか言いようがない。というかゲームにそこまで課金しようとするのはどうかと思うのだが、マクスウェルはギルドに貢献しているのだし、まさかそれをやめろとも言えない。
「おっと、ドアチャイムがなったわ、たぶんカードだからログアウトするわね」
そう言ってさっさとハウスから消えていったマクスウェル。アイツはゲームで破滅しないだろうかと少し不安になった。
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