第10話「お使いクエストとガバガバフラグ管理」

「お兄ちゃん! 新規クエストが実装されましたね!」


「そうだな、クリアがんばってくれ」


 俺はフォーレにそう声をかける。ギルドで受注するクエストであり、一人が成功すればギルド全員がクリア扱いになるものだ。


 しかし出て行こうとしないフォーレの意図が掴めず俺は尋ねた。


「どうした、ギルメン集めて攻略してきてくれていいんだぞ?」


「ふっふっふ……なんと風の噂によるとこのクエストは忙しいお兄ちゃんでも攻略できるクエストとなっているのです!」


「え!? 収集がクソ面倒くさいクエストだって聞いたぞ?」


 そうとんでもない数の鉱石をゴーレムからドロップさせて納品するというギルドの力を試すようなクエストだったはずだ。


「なーんと! 私がこのクエスト攻略の鍵を見つけたのです! ですからお兄ちゃんと一緒に攻略したいと思いまして」


「鍵……?」


「そうです! 私がこのクエストを簡単に攻略する方法を発見したのです!」


 話が怪しくなってきたぞ、簡単に攻略する方法なんてものが安易に見つかるはずが無い。古来のネトゲでは必須アイテムのデュープは処罰対象だった、それは今も変わらない。


「チートは禁止されてるんだが……」


「チートではありません! れっきとした購入です!」


「購入?」


 いや、確かにイベントアイテムは売られているが購入するのは非現実的な価格だったと思うのだが……


「お前そんなに金持ってたっけ? 一応現金からの換金も出来るけどお前この前ガチャ回してたじゃん?」


 コイツにそんな余裕のある現金は無いはずだが……まさか人に言えないような方法で稼いだ現金じゃ無いだろうな……?


「それではお兄ちゃんに秘密の購入法を教えてあげましょう! 行きますよ!」


 そう言ってポータルへ向かうフォーレに釈然としないものを覚えながらも、ギルドの作業にも余裕があったのでそちらへついて行った。


 今回のイベントアイテムはプリミアでも売っているので遠出の必要も無い。だからこそついて来たわけだが……


「なあ、どうやって買うんだ?」


「ふっふっふ……お兄ちゃん、今からお兄ちゃんにも見えるように購入ウインドウを開くのでよく見ていてくださいね?」


「へ、ああ、分かった」


 フォーレは販売店に向かい、イベントアイテムの『紅鉱石』の購入ウインドウを開いた。


 それを見ていると、フォーレはすいすいとかなりの数を入力している、そこで俺はピンときた。


「838861マニーの購入か……それはたぶんバン対象だぞ?」


「え!? 私の見つけた秘密の数字をなんで知ってるんですか!?」


「有名なバグだからな……つーか運営もこんな基本的なバグを放置しているのか……」


 フォーレは俺に文句をつけてくる。


「バレませんって! どうせこの金額ピタリに揃える数字を買う人なんていませんよ!」


「やめとけ、バンされたら大変だろうが!」


「ぶーぶー……はぁ……お兄ちゃんが言うならしょうがないですねえ……」


 こうして俺たちはギルドハウスに戻ってきたしょぼんとしているフォーレだが、俺に始めに相談してくれて本当によかった。リスキーとしか言いようがない暴挙に出るのを防ぐことが出来たようだ。


 こうして話自体は終わったのだが、後日この古典的な裏技が発見され、バグを塞がれたあげくイベント自体が無いものになってしまい、運営は詫び石を配る羽目になったのだった。

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