第7話「マクスウェルの憂鬱」
帰宅するなりヘッドセットをつけてログインするとギルドハウスに珍しい顔がいた。
「よう! マクスウェルじゃん、久しぶり」
マクスウェルと呼ばれた少女は俺の方を向いた。
「ああ、ギルマスですか、久しぶりです」
どうしたんだろう、コイツがギルドに顔を出すのはあまり多くないのだが……
「珍しいな、今日はレベリングやってないのか?」
「ファラデーの奴がなかなか面白いことになったって聞いてね、ちょっとからかってやったらログアウトしたわ」
「失恋で傷心してる奴をいじめてやるなよ!」
「あら、私には目もくれないのが悪いんじゃない?」
コイツ……一応見た目は黒髪ロリだがもちろんアバターの姿がリアルの姿だと信じているやつはいないぞ、そういうアッピルをしたいならもう少しわかりやすいアバターを作れっての。
「で、今日は俺とレベリングか?」
コイツはひたすら強さを追求している。現在の装備からするとおそらく戦士だろう。前に見たときは魔道士だったのでコロコロとジョブを変えているな。
しかしコイツ見た目に反して脳筋であり、火力こそ全てという性格をしているので燃費が非常に悪い。何度か魔道士だったり戦士だったりしたときに一緒に戦ったが、一戦ごとに大技を出して毎回座って回復をしていたため効率は非常に悪かった。他所でもそれは変わらないらしく燃費が悪いと追い出されてソロで雀の涙ほどの経験値を稼いでいたストイックな奴だ。
「いいえ、フォーレちゃんで遊ぼうかと思って」
「どこかに行くのか?」
「そうね、美味しいバーを見つけたのだけれど……あの子ああいうの好きでしょ?」
「あんまり人のフレンドをアル中の道に引き込むなよ?」
「あの子が望まないことはしないわ、それにあなたも来るでしょう?」
「え、俺も?」
マクスウェルは微笑んで言う。
「あの子、あなたと一緒だとたくさん飲んでくれるもの」
そうなのか? そういえば俺もアイツがヴァーチャルアルコール機能で酔っぱらっていたのはいつも俺が近くにいたときだけだったな。それでもギルドハウス内では飲んではいるようだが、第三者がいるところで飲んでいるのは知らないな。
「おはよー! マクスウェルちゃんじゃない! 久しぶり!」
そんなことを話していると妹がログインしてきた。俺と因幡が同じ学校に通っている以上同じ時間帯にログインするのは当然といえる。しかしおかげで二人が揃ってしまったのでマクスウェルと飲み会に参加する羽目になってしまう。
「おはよ! フォーレちゃんは相変わらず可愛いね!」
ぶりっ子ぶるマクスウェル。人によって態度を変えるのはやめた方がいいぞ。
「ところでマクスちゃんが何の用かしら? あなたは名義登録はしているけど滅多に顔を出さないじゃない」
マクスウェルは悲しそうな顔をして言った。
「さっきパーティでレベリングしてたらDPSが高くても燃費の悪い戦士は要らないって言われて戻ってきたのよ」
「悲しい話ね」
「お前、毎回座るのはやめろって俺と組んだときから俺が言ってたよな?」
「何の事かしらね、あなたたちが来るまでに一杯倉庫から出したビールを飲んでいたら忘れたわ」
「もう酔ってるなら酒を飲みに行く必要ある?」
しれっと飲んでいるマクスウェルだが、コイツがヴァーチャルアルコールに耐性を持っていることは知っている。器機が法律上限界までの出力で陶酔しようとしていると聞いたことがある。結局その時はその機能をオフにしている俺と飲んでいたのだが一切酔うことが無かったので本当に仮想アルコールが働いているのか怪しいものだと思った。
「さあ、飲みに行くわよ!」
「おー!」
「奢ってくれんのか?」
「ギルマスなんだから景気よく奢りなさいよ……まあいいわ、私が誘ったんだから奢るわよ」
気前のいいマクスウェルの厚意に甘えて三人でプリミアの酒場に出向くことになった。
「どこか希望はあるかしら? 私は『大樹の切り株』が高品質のデータを使用していると思うのだけど」
「俺はどこでもいいや」
「私は『眠れる蛇亭』がいいですかね! あそこすっごい酔えるんですよね!」
仮想アルコールにも品質はある。脳に干渉できる範囲でデータを流し込んで仮想的に酔うので酒のデータは店によって違う。好みの問題だがフォーレの提案した方はリアルアル中がリハビリに使うほどの大量のデータを提供している。ちなみに酩酊体験を重視しているため味など知ったことかと切り捨てていることでも有名だ。
「じゃあ『大樹の切り株』で決まりね、行くわよ」
そう言ってハウス備え付けのポータルに飛び込んでいった。俺も後をついていったのだが、少しフォーレには納得できないものがあったらしい。未成年があんまり脳内に大量のデータを流し込むのは感心しないのだがな、とはいえ俺について結局はポータルに手をかざした。こうして俺たちの飲み会が始まった。
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