第4話「ギルドの維持管理とネカマについての予想」

「むぅ……」


 俺はギルドに所属している各人の経済状況を見ていた。見ていたと言ってもギルドの共有倉庫に入っている品を誰がそれぞれ納品したかと、ギルド金庫に入っている金銭の勘定からそれぞれの経済状況を推測することしか出来ないのだが……


「ファラデーのやつ、金に苦労してるのか?」


 ギルドの金庫に預けてある金額を計算してみたのだが、商人ジョブに就いているファラデーと言うギルメンの金額が減っていた。ならば高めのアイテムを購入したのかとも思ったのだがそう言った話を聞いたことは無い。ギルドの納税義務にしても果たしてはいるが過度なノルマを設けたことはないのでそれで金が減るというのもおかしい。


 共有倉庫にも取り立てて高額な品は無い。個人で持っている分には確かに自由なのだが、説明くらいしてもらわないと次の納税に差し支える可能性があるな……


 こういうのははやめに相談に乗る方がいい。報連相は会社運営の基本らしいが、それはギルドの運営でも同じだろう。レターアイコンを出してっと……


『ファラデーさん、経済的に困っていませんか? 当ギルドはメンバーの相談に乗りますよ、お気軽にチャットやこのレターへの返信をしてくださいね』


 そう書いて送信ボタンを押した。ログイン履歴を辿ると毎日ログインはしているようなので気がつかなかったとか引退ということはないだろう。気がついたらなんであれ相談に乗るという姿勢が大切だ。ギルド所属者のメンタル管理は管理者の大きな仕事の一つだ。


 そんなことをしていると直通チャットが妹から送られてきた。


『お兄ちゃん、相変わらずギルドの管理ですか?』


『そうだよ、ギルマスとしての務めだからな』


『責任を持つのは自由ですがお兄ちゃんは一人で背負い込みすぎじゃないですかね?』


『気にするな、俺はできることしかしない主義なんでな』


『一人でやるのも立派ですけど、お悩みなら相談は受け付けていますからね?』


『ああ、いざとなったら頼るよ』


 そう言って直通チャットを切断した。メンバーのプライベートを相談するわけにもいかない、しかし解決しなくては所属者が減る一方なのでギルマスがそれとなくケアをするしかないんだよな。


 ピコン


 そんなことを考えているとレターへの返事が来た。どうやら今日もログインしていたのだろう。


 それを開封して自分専用のウインドウを開いて表示した。


『ギルマスに心配をかけていることは申し訳ありません。最近面倒を見るようになった新人さんに支援をしているので少々お金がかかってしまっただけです。心配は必要ありません、納税はきちんと行うので心配なさらないでください』


 うーん……明らかに何か抱えてるんだろうけど相談する意志は無しか……ファラデーが何を抱えているのかは知らないが、それがトラブルの種であることは予想がつく。


 人間関係に口を出すのは越権行為だな……


 正直ものすごく口を挟みたい。このメッセージの端々からトラブルの種になりそうなものを感じる。新人の面倒を見ていると要っているが面倒の見すぎではないだろうか?


 こういう事はネトゲで往々にしてあるが、大抵ロクな結末を迎えない。そもそも初心者をパワーレベリングで育成したりすると技術がろくに身につかずギミックをゴリ押しで突破するようなことになってしまう。まあその初心者が本当に初心者なのかでさえも疑問に思えてくるのだが、そこを疑うと信頼関係で成り立っているネトゲ社会が破綻してしまう。 

 こういうのは自分で解決して欲しいんだがなあ……まあ人の信頼性に任せた結果崩壊したギルドは数知れず、こればかりは自分でどうにかするしかないのが現実だ。


「人間関係に銀の弾丸が欲しいなあ……」


 そう独りごちるもののハウス内に誰もいないので他の端末に送信されることはなくサーバに無意味なデータとして破棄された。


「ファラデーの現在地は……プリミアか……」


 初心者を助けると言っている以上そこにいるのはごく普通のことなのだが、そこにいると言うことはハウスからのポータル直結で出向くことが出来るということだった。向かうのに乗り物に乗って数時間とかがかかるなら面倒だからいかないという言い訳をすることも出来ただろう、しかし現在の状況はそういう安易な言い訳を許してくれそうもない。


「しゃーない……行くか……」


 俺はギルドハウスのポータルに手をかざした。プリミアの中央ポータルへのゲートが開く、そこに飛び込んでこれから荒れそうな物事の中に突っ込んでいった。


 接続先の中央ポータルは人でごった返している。少々処理落ちもあるが多人数が集まるのはネトゲの華、過疎って余裕で処理できる人数しかいないよりはよほどいい。


 さて、人捜しは面倒くさいものだな……


 さすがにゲーム内といえどプライバシーはあるのでフレンドリストに載っている相手でも分かるのは現在いる地域までだ。マップ上にピンポイントに表示できたりはしないのでここから先は足で探すことになる。


「あ、お兄ちゃん! 見つけましたよ! 町に出るなら誘ってくださいよ!」


 そう直通チャットが響いた。一対一のチャットなのでお兄ちゃん呼びでも問題無い、ギルドのメンツが揃っている場所ではわきまえて欲しいが個人間なら止めてはいない。


 俺もフォーレをフレンドリストから見てプリミアにいることを確認して回線を開いた。


「どこにいるんだ?」


『フォーレさんからパーティ申請が届きました』


『承認』


 パーティを組めばメンバーの位置はバーチャルマップにプロットされる。そこは……


「お兄ちゃん!」


 後ろから妹が抱きついてくる。リアルの体にはない柔らかいものが機械から脳内へフィードバックをしてくる。コイツ、いつも思うんだがアバターを大分盛ったな……


「お兄ちゃん、失礼なことを考えていませんかー?」


「考えてないから離れてくれるか」


 渋々と言った風に金髪をなびかせた頭が俺から離れる。


「お兄ちゃん、どーせファラデーさんのことで来たんでしょう? 人の世話を焼く前に自分のデイリークエストでもこなしたらどうですか?」


 辛辣なことをいうフォーレ、俺は答える。


「ギルマスやってるとメンバーが減るのは少しの石が減ることより大事なんだよ」


「どーせネカマに引っかかって貢がされてるだけでしょ? よくある事じゃないですか」


「お前、俺が考え得るかぎり最悪の予想を簡単に口にするんじゃねえよ!」


「ちっちっち、私はネトゲコミュで調査をした結果そういう姫プをしている人の多さにドン引きしたんですよ? 経験者が語るんだから間違いないですよ!」


「え゛……お前姫プしてたの……」


「してませんよ! 観察してたって話です! 人をオタサーの姫みたいに言わないでください!」


「でもサークラの素質あると思うぞ?」


「嬉しくない感想どうも! さっさと美人局みたいなのに引っかかってる軟弱なメンバーを探しますよ!」


「はいはい、出来ればお前の予想が外れていることを祈るよ……」


 俺もどこかで妹と同じ結論に至っていることから目をそらしながら世話の焼けるやつの捜索に入った。

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