第3話「デイリークエストをこなそうとする妹」

 ノンリアルファンタジーオンラインはソシャゲと一般MMOを足してかき混ぜて薄めたようなゲームだ、その中のソシャゲ要素にデイリーとウィークリーのクエストが完備されている。DAUを少しでも増やそうとするための努力だろうが、プレイヤー達からは常に賃上げを要求されている。


 何しろデイリークエストをこなしてもらえる石が十分の一回分だ、石一個、一回ガチャを回すのに十個かかる。つまり一回ガチャを無課金で回そうとすると十日かかってようやく一回だけ回せる。あまりにも渋かった。


 俺がギルドでメンバーへのリワード振り分けの計算をしていると妹からチャットが入った。


「おにいちゃーん! モンスター十匹が間に合いそうにないです! パーティ組んでください!」


 やかましい声が響いてくる。デイリークエスト『モンスター十匹討伐』だろう。このゲーム、パーティを前提としておりソロで狩れるモンスターが少ない。いないわけではないのでがんばれば可能だが、そう言ったモンスターは人気があるのでソロプレイヤーがポップ地点に大量にたむろしている。その中から狩るのは大変なので普通はパーティを即席だろうがなんだろうが組んで狩っている。妹の因幡いなばはパーティを組むのが苦手だ、つまり俺が協力するしかない。


「手間がかかる妹だな……」


「可愛い妹のお願いでしょうが!」


「はいはいカワイイカワイイ、さっさと招待送ってこい」


 ピッと視界の端にウインドウが開いた。


「フォーレさんからパーティへの招待が届いています」


 俺は特に考える事もなく承諾を選んだ。フォーレの位置がマップに表示される。俺が現在いる『プリミア』の近くにいるようだ。


「プリミア周辺ならお前でも狩れる敵がいるだろ?」


 その疑問に対し妹は泣き言を帰してきた。


「町の前はこの時間帯だと混んでるんですよ! 人が多すぎてポップしたモンスターを片っ端から人にタゲ取られてます!」


 俺は時計を表示してリアル時間を確認すると夜七時、丁度仕事帰りの人たちがデイリークエストをこなすために集合しているような時間だ。


「ああ、そういう時間か……隣の砂漠地帯で狩るぞ? あっちならデイリーだけもらう人は来てないだろ」


「はい! お兄ちゃんは今ギルドハウスですか?」


「ああ、町の前まで飛ぶからポータルで待っててくれ」


 ギルドハウスはプリミアにあり各地へ飛べるポータルが完備されている。ハウジングが出来るのはギルドの中でも一種のステータスだった。


 転送ポータルに触れてプリミアの東門に飛ぶ設定をして飛び込んだ。


「わ! お兄ちゃん、早いですね?」


「ああ、丁度ハウスにいたからな」


「あのギルドのハウスですか!」


「そのネタ知らない人の方が多いから控えような?」


 そのネタは平成でも通じるか怪しいところだ。もうとうに過ぎた時代のネタを知っている妹は本当に俺と双子なのだろうか? まあ親がそう言っているんだからそうなんだろう。


「砂漠に行くぞ。熱感覚フィードバックをオフにしておけ」


 あんなクソ暑い地域で感覚を遮断しないのは縛りプレイもいいところだ。厚さを遮断できないと砂漠地域なんて行けるはずもない。


「了解です! あそこはクソ暑いですからね!」


「そこまで分かってるなら先に誰かと組んで行けば俺に頼る必要も無いだろうに……」


 先輩風を吹かせて中堅プレイヤーを誘ってデイリーをこなせばいいのに、そうもいかない因幡なりの事情があるんだろうか?


「せっかくだからお兄ちゃんと組みたい妹心を察して欲しいものですね……」


「俺は赤の扉じゃない」


「ちゃんと拾ってくれるところが好きですよ!」


 そうして砂漠地帯に突入した。キャラの体力がジリジリ減っていくものの、割合ダメージではなく数字が固定されたダメージなので俺やフォーレのレベルからすれば減っていないも同然の数字になる。


「フォーレ、回復薬の在庫は?」


「問題無いですね、十体狩るくらいのストックはあります」


「オーケー、じゃあ釣ってくるからタゲとれよ?」


「了解!」


 俺はサボテンのモンスター、『カクタス』に挑発を使う。虫並みの知能で追いかけてくるのでダッシュで妹のところへ向かう。


「一匹釣ってきたぞ!」


「ナイスです!」


『フォーレのスマッシュによりターゲットが移りました』


 そう表示され俺の方へ向いていた攻撃が妹の方へ向かう。タンク役なので防御をしている妹にカクタスを引きつけて俺が横から『スピア』を使用して削っていく。注意点としてはここはフィールド効果で滞在しているだけで体力を削られる。そのため一体狩っては座って回復という手段が使えない。この辺も砂漠地帯が狩り場として不人気な理由だ。


「ぴぎぇ!!!!」


 サボテンとは思えない泣き声を上げて息絶えるカクタス、そもそもサボテンに泣き声はないわけだがこんな奇妙な声を上げる生き物はいないだろう。

 

「ぴぎぇ!!!!」

「ぴぎぇ!!!!」

「ぴぎぇ!!!!」

「ぴぎぇ!!!!」

「ぴぎぇ!!!!」

「ぴぎぇ!!!!」

「ぴぎぇ!!!!」

「ぴぎぇ!!!!」


「あと一匹ですね、ちょっと回復」


「ナイスタンク、俺の方はほぼダメージ無いよ」


「ふっふん! 私をもっと褒めてくれてもいいんですよ?」


「はいはい」


「そういえばお兄ちゃんの方はデイリークエストこなしてるんですか? 私と組む事は少ないようですけど」


「知らないのか、ギルマスはギルドのノルマだけで精一杯なんだよ、国への納税だけでかなり大変なんだぞ? だからホントはこんなことしている暇はないんだがな……」


「そういえば以前納税忘れしていたギルドがハウジング権を剥奪されて大炎上してましたね……」


「ああ、あのギルドは空中分解しただろ? 俺は個人としてのレベリングよりギルドの安定運営を目指しているんだよ」


 ギルド『ホライズン』は今日も健全でホワイトな運営を目指しています。


「お兄ちゃん、天の声に返信しても向こうは聞いちゃいませんよ、連中GMコール以外は無視しますからね」


 言葉にしていない俺の心を読む因幡、こういうところが兄妹なんだよなあ……


「じゃあラスト一匹釣ってくるな」


「ういー」


 ラスト一匹のカクタスに挑発をしてフォーレの元へ連れて行く。


「ぴぎぇ!!!!」


「ラスト一匹終わりー!!」


「デイリーはいいな、じゃあ俺は帰還してギルドの雑務に戻るよ。今度のギルド戦でランク落ちしないようにしないといけないんでな」


「ギルマスはご苦労ですねえ……」


 俺は帰還魔法を使ってホームへ戻った。


「あ、ギルマス! 経理処理をしていただけるのはありがたいですがやるなら最後までやってくださいよ……」


 そう言って書類データの処理をしているヴィルトがいた。


「悪い、残りはやっておく」


「私が終わらせましたよ、次からはもう少し根気を持ってくださいね?」


「すまない」


「いえ、どうせまたフォーレさんに呼ばれたんでしょう? いつもの事なので気にもしませんがギルドメンバーは出来るだけ平等に扱ってくださいよ?」


「勘がいいな、出来るだけそうするよ」


 ため息をしながらヴィルトはログアウトしていった。アイツ、ギルド内の雑務処理のためだけにログインしてきたのか、面倒見のいいヤツだ。


 俺は善意の連鎖に感謝しながら残りの書類を見た。全部ではないが大部分が処理されているので、俺は送金機能を使って今月の税金をはやめに納めておいた。ギルメンの寄付で成り立っている(多少は持ち出し)このギルドは今月も家賃を払う事が出来たようだった。

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