第5話

きれいに刈り上げた側頭部をきらめかせ、羽織ったジャケットを爽やかになびかせながら、その男は呪文を唱える。


「イノベーション!!」


「メタバース!!」


「ウェブスリーー-----!!!!!」


ドドドドドドウンッ


さすがはCEO。魔膜越しに魔力の脈動を感じる。


私も最大出力で唱える。


「バソキアッ」


ドドドドドという効果音と共に流れるテロップ。


『Completed!!すべての敵を倒しました。現在測定中です。そのままお待ちください』


頭を締め付けるヘッドセットを早く外したいが、なかなか測定結果が出ないので焦れる。


やっと出た。


魔魂値:200±12


これは…どうなんだろうか。


レイチの数値を100として設定したって言ってたから、まあ高い方なんだろうな。


でもこの装置、結構よくできてる。


敵を倒すだけの単純なVRゲームだけど、それだけに魔法を出すことに集中して全力を出し切ることができるようになっている。実際に魔法を出すのではなく、ゲーム内で出す際の魔魂の波動を検知して測定するようになっているらしい。


敵も係長級、課長級、部長級、役員級、CEOと段階別にそろえてあって、ゲームクリアまでに最低でも5回は測定されるようにしている。これくらい測定すれば誤差も少なくなるはずだ。


会社の人もこれくらい燃えるゲームなら、とりあえずやってみてはくれるはず。


とはいえレイチはサンプル数として最低でも30は欲しいって言ってたけど、なかなか難しいな。


まあとりあえずは同期から始めるか。


いや、その前にやっぱり上司には話しておかないと、いろいろまずいかも。


「ということで、トヨタさんも試してみてくださいよぉ」


飛び切りの笑顔でヘッドセットを差し出す私。


トヨタさんといえど男、それもモテないおじさん、若い女の頼みを断るわけはあるまい。


「お断りします」


はああああ、おかしいだろ。


「いえ、折角ですから。純粋にゲームとして楽しいですから」


「ヘッドセットは必須ですか?」


あ、ああ、そういうことか。


トヨタさん、髪型崩れるといろいろまずいんだな。


ていうか、薄いのなんて誰が見ても分かるんだけど。


「いえ、なしでもできますんで。画面見ながらこれ握ってプレイすれば測定はできます」


お、このゲーム、見てるだけでも楽しいな。


ここまでビジュアルどうやってかっこよくしたんだろう。


レイチはアセット使えばどうとか言ってたけど、最近のゲームはほんとすごいね。


「あ、結果出ますよ!!!」


魔魂値:150i±0


「え、何この"i"っての。測定ミスなんじゃ」


「もう十分でしょう。さ、お仕事ですよ」


確かに、もう昼休みは終わりの時間だ。


今日の通報案件あと2件、処理しなきゃ。

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