4章4話 さい、あく……っ!!!!!!!!

ʚ天詩ɞ


「……」

「……」


「辛気臭いですねー、盛り上げましょう、なのですよ!!」

「うんうん、ほらほら笑ってー」


――四人で外出届を出し、街に出ると、私たちは足を進めた。


晴れやかな空は、澄み切って私たちを包んでいる……私の心と真逆ね!! 皮肉すぎる!!


横をせわしなく歩く斗真を睨みながらも、私はぐんぐんと歩調をはやめる。


許しがたい……まだ一度なら、心の広い私がぎりぎり許容するとして! 

でも、二回目に、は、裸を見るとか、どういう事よ!?


「ね、ほら笑ってください! 楽しくないのですよ!」

「そうそう、もっと楽しもう?」


「楽しめるわけないじゃないのっ!!」


フォローしてくれる二人にも、八つ当たりだとは分かっていつつも反発する。


「んもー……せっかく、この私が隼様以外のことに協力するというのにです」

「協力? 協力って何よ」

「わわーっ、なんでもないのですーっ!」


斗真が哀れにも、風環さんに救いを求めたのかしら?

という目を向けると、青ざめた顔をした斗真がますます顔を白くさせた……ふんっ!


「えーっと……ほ、ほらほら、映画!! 映画見ようよ!!」


と、雰囲気をよくしようとしてか、隼くんが映画館を指した。

映画か……久しぶりね、悪くないじゃない?


「最高です! 隼様が提案することには何でも応じる姫なのです!」

「いいんじゃないか?」


と、斗真も恐る恐る賛同し、私も軽く首を縦に振る。

ほっとしたようにして息をつく隼くん。



「では、れっつごーなのです!」



映画館に入ると、暗闇が広がる中、レーザーライトが私たちを包み込む。

この酔ってしまいそうな、現実とはかけ離れた雰囲気が、映画館の魅力よね……ふらふらしちゃうけど!!


「わっ!」

「うおっ」


目が慣れずふらついていると、正面から斗真にぶつかってしまい、私は慌てて身を離す。

ちょっ、勝手にぶつかられないでよね!(理不尽)


「ごめん……」


斗真に謝られ、私は慌てて二、三度頷く。

……言っとくけど、許してないんだからねっ! 女子にとって、裸を見られるなんてことは致命傷なんだから!!



「んわわ、これ見よう、なのです! 最近学生に大人気の映画ですっ!」


と、私が頬を膨らませていると、風環さんが目をキラキラとさせて映画の広告を食い入るように見つめていた。


「なんでもいいよ……わっ、でもその映画、あと十分で上映開始だよ!?」

「えっ、急がないとですよ!?」

「……待って」


私は、チケット売り場へと走ろうとする二人の目を、射抜くようにして見つめる。



「……ポップコーン! ポップコーンとドリンクは必須よ!」

「そんな場合じゃねえよ!!!」

「そんな場合よ! キャラメルポップコーンとなまたまごーやジュースは必須!」

「あと10分だぞ!? それに太るだろ……」

「なっ……太るって!? とにかく買うったらかーうーの!」


あれっ……気づけば斗真と言い争ってない!? これじゃいつも通りじゃない!!


「とにかく、今すぐ買ってきてください! その間、私はチケットを購入してきます!」

「風環さん、ありがとう!!」



――あれ、そういえば、何の映画を見るんだったっけ?


一番大切なことを聞き忘れながらも、私たちはどてどてと売店へ急いだ。




ʚɞ





『やっぱり、私にはあなたしかいない、レオ!』

『俺もだ、マヤ……付き合ってくれ』

『レオ……!!』



――お願い。この地獄の時間をどうにかして。


私、斗真、隼くん、風環さんの順で座り、私はぐっと唇を噛んでいた。


なんでよりによって、斗真の横なのよ!! 


……しかも、バリバリ恋愛じゃないの!!!


ううっ、無理だぁ、気まずい! 恥ずかしい!!

左にドリンク、右に斗真とシェアのキャラメルポップコーンをセットしながらも、私は、特大スクリーンに映し出される男女とにらめっこする。


そして赤い顔のまま、両腕を肘掛けに置いた……落ち着け私!

と、ごん、という鈍い音とともに、腕に何かが当たった。


「おい、肘掛けは俺のだ」

「はぁ……!? 私のよ!」


と、映画上映中だというのに、肘掛け戦争が始まった……もう、両方の肘掛けを堪能したいのよ!


「俺は譲らないぞ」

「わ、私だって」


調子戻してるんじゃないわよ……と思いながらも、私は急いで肘掛けに右腕を置く。


と、斗真も強引に左腕を重ねてくる……!!


体温が! ぬくもりが! やめて、顔がなぜか赤くなる……! ねえ、私の肘掛け!!


『やっぱり、レオの腕は暖かいね……』

『マヤ、照れるだろ……もっと触れたくなるよ……』


「「~~~~~~~~っ!!」」


ばっと同時に腕を下ろす。恋愛系、ダメ!! 映画よ、止まって!!

私はとてつもなく恥ずかしくなり、斗真と私の間においてあるキャラメルポップコーンへと手を伸ばす。


と、指先に、柔らかい指があたり、声が出そうになる!!


「っ、ちょ……!! 同時にポップコーン取らないでくれる……!?」

「知らんがな! 俺にもポップコーンを食べる権利がある!!」

「……っ!!」


最小限の音量で話すため、耳元でささやきあう。

ううう、耳がぞわぞわする!! 助けて!!


『知ってるよ……耳が弱いんだろ?』

『レオは、私の全てを知ってるんだね……大好きだよ』



ああああああああああああっ!!! 


と断絶魔が脳を震わす……ああ、今すぐ会場を出ていきたい!!


『ほら、逃げないで。本当は隣にいてほしいんでしょ?』

『レオ……!!』


うああああああああああああああっ!!!!!


私はからからに乾いた喉を潤すため、からドリンクを奪うようにして持ち上げ、ストローに口をつける。

こういう時こそ、なまたまごーやジュースよ! とりあえず緊張をほぐそう……!


直後、口に広がる爽やかなソーダに、私は硬直する。


あれ、私、なまたまごーやジュースを……ソーダ??



……待って、私、どっち側のドリンクを取った!?!?


ばっと左を見ると、そこには私のドリンクが居座っている。


そして手に収まる、二つ目のドリンク。






…………。





……まさか。



恐る恐る右を見ると。



暗闇でもわかるくらい顔を真っ赤にし、私の手に収まったドリンクを見て、斗真が目を見開いていた。




「……」

「……」




『やっぱり、レオとキスをするときが一番幸せだよ?』

『たとえそれが間接キスでも、他のどんな形でも、幸せだ』






さい、あく……っ!!!!!!!!


私は手に持ったドリンクを投げるようにして戻し、両手で顔を覆った。





もしかしたら、いや、確実に。




――今日映画を見に来たことは、間違いだった。


今日ほど、一日をやり直したいと心から思ったことはない……っあああああああぁっ、もう嫌だぁああ!!!





ʚɞ






「ひゃー、良かったですね!! こんな素敵な映画を見たのは、久しぶりなのです! ……でしたよね?」

「うんうん、人気なわけが分かったね。……ね?」



話しかけないで。お願い。


隼くんと風環さんが、『映画上映中に一体何があったんだ』と言わんばかりの視線をちらちらと向けながらも、話題を振ってくる。……けど、答えられる雰囲気ではないっ!! 


さっきとは立場逆転、私が挙動不審にぎこちなく歩き、斗真が視線を幾度も投げてくる。


今すぐ消えたい。今なら、学校を出た時点での、斗真の気持ちが痛いほど分かる。



「ほ、ほらですね、買い物ですよーっ!! かわいい店がいっぱいなのです!」

「本当だ、おそろいとかもできるねー」


視線を上げると、かわいらしい店が左右にずらっと並ぶ道に出ていた。人で溢れていて、はぐれないようにすることに精一杯だ。


「じゃあ、この店! ここ入りましょう!!」


風環さんの掛け声に、私たちは人混みから逃れるようにして、店に入った。



入った瞬間、かわいらしいキーホルダーやぬいぐるみ、古着などが目に入る。

リズミカルに流れる、今流行っている音楽に、ピンクで統一された壁紙。


……うん、あからさまに、男子が入る場所ではない。



でも、隼くんはさすが元モデル。スラリと長い脚を強調させるストレートパンツにベージュのパーカー。さらに、整った顔を際立たせる私服は、どんな場所でもばっちりと似合っている……悔しいほどに。


風環さんだって、今日着ているホワイトのワンピースに、胸元についた桃色のリボン。

さらにピンクメイクで彩られた顔に、クリーム色の大きなリボンでポニーテールにした髪は、マッチしすぎているほど合っている。元からここに来ることを予想していたような適応性……っ!!


私だって、崩したツインテールにゴールドのピン、それに私服は雰囲気にあってる気がする。



……残す一人を除いて、みんなお洒落ね!!



「おい、みんな、何だその目は!!!」


と、みんな同じことを考えていたのか、斗真をじろじろと見ていると、斗真が慌てたようにして声を上げた。


「だってですね……ダブルデートだって言ってるのに、そのジャージは意味分かんないのです!」

「もっと余裕があったなら、僕がコーディネートしたのにー」

「そうね、端的に言って、酷いわ」


「みんなしてボコりすぎだろ!!!!!」


斗真が顔をしかめ、特に私を恨めしそうな顔で見ながらもそう発す。その滑稽な顔に、こらえきれずに、私たちは三人で大爆笑っ!!


私は笑いながらも、空気が和むのを感じる。


……さっきのぎこちない雰囲気が、消えていく。よかった……。



ほっとしながらも、私は笑いをなんとかおさめることに成功した。


「次は、私もコーディネ―ト、手伝ってあげるわ」

「お前はわざとめちゃくちゃにしそうだ。怖い」

「なによっ!!」


斗真と、少し照れながらもそう言い争った後、私は店内を回ることにした。



「ああ、笑いました。面白すぎますね」

「へえ、斗真に惚れちゃった?」

「へあっ、そんなバカな、です!! 私は隼様一筋ですっ!!! ……それに、隼様の思わせぶりな態度は、少しグサッときます」


あの事件があってから、斗真いわく、風環さんは自分に正直になったらしい。今も、自分の思ったことをしっかりと口にしていて、私はなぜだかじーんとする……もう、母親じゃないんだから!


「ごめんね。でも、姫のことも大事だから」

「それは本音と読み取りましたっ、大好きなのですーっ!!!」


私は幸せそうな声を聞きながらも、ぐるりと店内を回り、キーホルダーが大量にかかったコーナーへと入った。



と、一つ目に止まったものがあり、私はそれを手に取る。


「これ……」


それは、かわいらしい角が二本頭から生え、さらに、先っぽに三角形がついた尻尾が生えた、そんな生き物――悪魔のマスコット。



「……これ、悪魔さんにプレゼントしてあげてもいいわね。迷惑も、かけちゃたし」


あああ、思い出したくもないけど!! これは、プラマイゼロ、ってことでいいわよね?! ね!? 

これは……そう、謝罪の気持ち! 他意はないわよ!!



「すみません、これ買います」


私はそのキーホルダーを買い、店を出てから、そっとバッグに入れる。

潰れないように、そっと入れてと……店の外で立っとくか!



と、すでに店の外で待っていた風環さんと隼くんが近寄ってくる。

風環さんが、勢いよく拳を空に突き上げた。



「まだまだ今日は長いですよーっ!! ダブルデート、楽しもうなのですっ!!!」



太陽が真上の角度から、私たちをじりじりと照らしていた。



……キーホルダー、今日中に渡せるといいけど、な??

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