4章2話 俺たちの仲を深めないか??

ʚ斗真ɞ


「本日は、朝から、体育祭の種目発表があります!」


――朝。

俺は、そう声を張り上げる担任の顔を仰ぎ見た。


……二人三脚。


まあ簡単そうだし、楽そうだし、短時間で終わりそうだし! ってことで、二人三脚を選んだのだが。


「うう……緊張するわね」

「それなあ……!! 誰が一緒とか気になっちゃうよね!」

「うん……そ、そういや、悪魔さんは何を選んだの? まあ、興味ないけど」


急に話を振られ、俺は慌てて天詩の方へと首を回す。


「なんだ? 堕天使」

「だーかーら、何を選んだのか聞いてるのよ!」

「さあな? そういうお前は何を選んだんだ」

「さあ、何でしょうね?」


ぐぬ……おちょくりやがって……!


「ちなみに私は、障害物レースにしたよーっ! 走るのも跳ぶのも楽しみっ!!」


ひなたが綺麗なボブヘアーを揺らしながらも身を乗り出した。

これだからアウトドアは!!(叫)


「では、これから競技ごとに部屋に分かれてもらいます!」


黒板にすらすらと書かれていく字。『二人三脚:1年A組教室』という表示を見、動かなくていい事にホッとする。


「では移動を開始してください」


「んじゃ、行こー! ……えっ、二人共、なんで動かないの?」


振り返るひなたに尋ねられ、同じく横でたたずむ天詩と目が合う。

……まさか、な??


「ほ、ほら、移動だぞ、天詩」

「そうよ、さっさと移動したら? 斗真」


「ま、まさか……二人共、二人三脚、だったり!?!?」

「「はあぁ!?」」


ひなたの驚いた声に、俺たちは同時に悲鳴を上げる。


いや待て待て、天詩も二人三脚とかないだろ! 三十を超える数の競技の中で、そんな偶然、あるか!?


「……わ、私は二人三脚、だけど……?」

「俺も二人三脚だ……」

「……二人共、申し合わせたとか!?」


まさかっ!! 俺たちは同時に息を吸い込む。



「「最悪っ!!!」」


さ、最悪だ! なんで体育祭まで、天詩と同じ競技をしなきゃならないんだ!! 断る!!!


「ねえ、本当にどういう……」

「移動する人は早く移動してくださいねー」

「うっ……! ま、また後で!!」


また後で聞くから!! と叫び、ひなたが短いスカートを揺らして教室を出ていった。


――そして、教室に残された二人。



「……」

「……なによ」

「なんで二人三脚を選んだんだ」

「そういうそっちがよ! なんであなたと同じ競技しなきゃならないのよ!」


そういいながら、赤い顔をしてるのはなんでかなー? あれあれ??


「なによ赤い顔して! もしかして、照れてるのー?」


んげ?! もしかして、顔赤くなってたか!?


「そ、そういうお前もだ!」

「んえっ」


お互いに頬を両手で覆っていると、教室に続々と生徒が入ってきた。


「て、天詩様だああああぁ!!!」

「同じ競技とか、最高すぎる、死ぬかも!!」

「ああ、今日も美しい……そしてかわいい……」

「天詩様、僕と一緒に……」


「はい、全員揃っているようですね!! では、早速説明に入りましょう」


と、タイミングよく担当の先生が入ってきて、さくさくと話を進め始めた。



「二人三脚は、ペアとの信頼関係や相性が試される時です! より仲が深まる競技ですね! ……では、まず初めに、そのペアを決めて下さい。もちろん男女でも構いませんし、」

「「「「「天詩さん、ペアになってください!!!」」」」」


と、先生の話を遮り、目をハートにしながらも生徒たちが天詩に群がった。


「え、わ、ちょっ」

「天詩さん、ずっと好きでした!!! この競技を選んだのも、天詩さんが選ぶと思ってて!!」

「天詩ちゃん、大好きです! 私と付き合ってください……!!」

「今日もかわいいです! 俺と……」


「えっと、私……この人と約束してるから!!!」


途端、ぐいっと天詩に手を引かれ、俺はぽかんとする。



「おいっ……ぐへぁっ!?」


反論しようとし、げしっと足を踏まれ、顔をしかめる。


「いいから話を合わせなさいよ」

「おい……お前はいいかもしれないが……」

「多少の犠牲には目をつむりなさい、悪魔なんだから」


むちゃくちゃだぁ……!!

小声でささやいてくる天詩を涙目で睨む。


「どういうこと!? なんで天詩さんがこいつなんかと!!」

「そうだ、俺の方がよほどいい男で!!」


当然、生徒たちが俺を睨みつけながらも天詩に詰め寄る。


「えーとっ、とにかく……ごめんね? 承諾した事はやぶりたくなくって……」


切なげな瞳をし、天詩がうつむく。

……おい、それじゃ俺が強引に頼み込んだみたいになってないか!?


と、天詩がちらりと見上げてくるなり、からかうようににやりと笑う。確信犯かよ!!


「やっぱり優しい……一度誓った約束は嫌でも守る天詩様……天使すぎる……!!」

「マイエンジェル、僕と付き合ってください!!」

「こんな男との約束も守るなんて、さすが天詩様だぁ……」


おい、俺を悪役にしてるよな?? どういうつもりだ??


「てことで、ごめんね! 先生っ、私たち二人でペアです!」


おい……!! マジでペアになるのか!?

心臓がどくんと鳴ったが、それを強引に無視し、俺は天詩に手を引かれるがままに先生の前に行く。

と、先生が手をつかみ合う俺達を見て、はしゃいだように微笑んだ。


「おぉ、男女ペアか、アツいねー!!」

「「……っ!!」」


同時に赤面すると、先生が高らかに笑う。いや、誤解だ! 誤解なんだが!! あと、めちゃくちゃ恥ずかしい!!


「言っとくけど、あなたとペアなんて最悪よ」

「……もう遅いからな」


まだ周りから敵意を感じる中、俺は小さくため息をつく。


しょうがない、決まってしまった事だし……な?



「……まあ、よろしくね」

「……しょうがない、よろしく」


同時に言い放つと、俺たちは顔を背ける。


くそ、体育祭……出だしから災難ありすぎだろ!!!





ʚ天詩ɞ





―――私……体育祭で、正式に斗真さんに告白しようと思うんです!!


周りがペア決めに熱を注いでいる中、私は美雨の言葉を思い出し、唇を噛んだ。

ペア決定後、横で暇そうに斗真が立ってるけど、頭が美雨の言葉であふれる。



「えっ……告白!?」

「正式にって……もう遅くない?」


「遅くなんてないです!! 正式に、するんです。おふざけなしで」


美雨はそう言い切り、顔を高揚させた。


「そう考えたら、体育祭も楽しみになってきたんです! これをウィンウィンというのですね!」


「そ、うなんだ」

「……」



私が黙りこくっていると、美雨が小さく息を吸った。



「二人共、何も無理して応援しなくっても大丈夫ですよ! ……その代わり、どんな結果になっても、私と友達でいてください……っ!!」

「ちょ、土下座はなしだから!! やめて!!」

「そんなことしなくても、ずっと友達だから、さ!! それに、応援、できる限りはするからね?」


地面に頭をこすりつけようとする美雨を止めながらも、私たちは小さく微笑む。

胸がちくりと痛んだけど、ぐっとこらえて笑ってみせた。


「あ、ありがとうございます……っ!!」

「その代わり……私も、頑張ろうって思ってるから、そこらへんよろしくね?」


ひなたがそう言い、目に決意を浮かばせる。


「分かりました、じゃ、友達だけどライバル。頑張りましょう」

「ほら天詩も」

「ひわっ」


強引に手を引かれ、三人で拳をぶつけ合う。



待って。


……これ、斗真が好きって誤解されてない??




「なんだ、考え事か?」

「わっ、わっ!?」


いきなり横から声をかけられ、私は跳ねるようにして顔を上げた。


「なによ、考え事する自由ももらえないわけ!?」

「なんだよ急にムキになって……」


そりゃ、びっくりするでしょうが!!

むくれる私を呆れたように見てから、斗真が顔を引き締める。



「とにかくだな。俺たちは二人三脚を一緒にするわけだが」

「え、そ、そうね」


先程の出来事を思い出し、少し後悔。慌てて、つい勝手にペアを決めちゃった……ああバカ!!


「そこでだな。……お前、俺と団結する気はあるのか?」

「あるわけないでしょ」

「俺もだ。なぜ俺が天使と団結せねばならん」

「悪魔に言われたくないわよ」

「天使に言われたくもないな」


そこで、お互い睨み合い、沈黙する。



「……なら、成り立たなくないか??」

「うぅ……!?」


たしかにそう。団結する気がなかったら、二人三脚なんて無理だよね!?



「だから」


と、困惑で頭を抱える私をちらりと一瞥しながらも、ぶっきらぼうに斗真が言い放った。




「今からでも遅くない。……俺たちの仲を深めないか??」

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