4.この気持ち、ずばり名称不定称!
4章1話 体育祭は、青春そのもの
ʚ天詩ɞ
――青々と茂る葉に、吹く夏の風。
私たちはいつものようにして屋上に集まっている!!
「とうとう……」
私たちがいつも通りぶらぶらとしていると、不意にひなたが声を出し、私たちの顔を眺めまわした。
とうとう……?? なにが?
「とうとう、体育祭だぁー!!!!」
「いやですうううう!!」
「うえ―――い」
「ぱちぱちぱち」
「いや、テンション差! なにっ、みんな体育祭嫌い!? なんでぇ!!」
と、ビミョーな反応をした私たちを、ひなたが半泣きで睨んでくる。
てか、最近テストが終わったってのに、すぐに体育祭とか信じられないんだけど! というのが私の意見なんだけど……!
「いやだ、嫌です!! なんで体育祭なんてことがこの世に実在するのでしょうか! これは、私のような頭脳明晰専ら文芸派の私を陥れる罠かなにかです!!」
「いや怖い怖い」
だんだんと地面を叩く美雨を、ひなたが半歩後ずさって眺める。
「俺は楽しみだけど? 体育祭は、青春そのものじゃないか!!」
「青春してこなかった人が言う言葉で笑っちゃうわね」
「なんだとぉ!?!?」
ふんっ、事実を述べただけですけど?
鬼のような剣幕で私を睨む斗真を見ながらも、私は何とも言えない感情に包まれる。
……なんか、ぶわって心にくるものがあるのよ……うぅ、言葉じゃ表せないけど!
前みたいな、わあわあ言い合ってた時にはなかった、何か他の感情。
……別に恋愛感情とかじゃないと思うけど! てか絶対違うから!!
なら、この感情の名前は何なの!?
「なんだ黙って。らしくない」
斗真の声にびくっとし、私は慌てて意識を元に戻す。
えっと……なんだっけ!? 考え事してて、話してたこと普通に忘れた……!
「え、えーと、とにかくあなたは悪魔ってことね」
「……」
私が慌てて話を終わらすと、斗真は何とも言えないような表情になる。
「なによ?」
「……いや」
何か言いたげだったが、すぐに口をつぐんでしまったため、私は仕方なくひなたに向き直る。
「で、ひなたはなんで楽しみなのよ?」
「だって、運動最高じゃーん!! 走る、泳ぐ、跳ねる、蹴る!! 快感でしょ!? ね!?」
そっか、ひなたってアウトドア派だったのね……。
「意味分からないですっ!! 私、体育祭は休みます!」
「今日から種目決めとか準備で忙しいんだから! 休むんなら美雨は、学校生活の一か月を棒に振ることになるよ?」
「んうう……それは嫌です……」
そう、一か月後にある体育祭のため、今日から準備が始まるの!!
ちなみに種目は、参加必須のリレーと、もう一つ種目を選ばないとダメ。
私は比較的簡単そうな、二人三脚にしようと思ってるけど……。
「ねー、体育祭と言えば……こんなイベント、知ってる??」
と、急に声をひそめ、ひなたが唇に笑みを含ませた。
……イベント?
と、美雨が同じく首を傾げる。
「イベント、ですか? ……まさか霊が出るとか!?」
うっ、それは嫌だぁ!!
と、半ば呆れたようにしてひなたがため息をついた。
「違う違うってー。それはね……『大切な人とハチマキを交換する』っていうイベントなの!!!」
「俺用事を思い出したわ」
「待ちなさい」
そそくさと逃げようとする斗真の襟首をつかみながらも、私はひなたの言葉に耳を傾ける。
と、美雨が身を乗り出し、ひなたに顔を寄せる。
「えっ、ハチマキですか!? ……そういやうちの学校って、ハチマキ返却制度ありましたっけ?」
「それが、調べたところ、ないのーっ! つまり、ずっと持っていられるってこと!」
大切な人――つまり好きな人と交換して、それをずっと持っていられる……!?
私が目を見開いていると、ひなたがくすくすと笑う。
「でも、渡す相手がいないと成り立たないし、ね?」
「んうっ、あ、そうだねー」
慌てて賛同するけど……好きな人、か……。
「私は、もう渡す人は決めましたっ! それは、と……もごもご」
「渡す瞬間までに本人に伝えてしまったら、効果が薄れまーす」
ひなたが美雨の口をふさぎ、そのまま赤い顔になり軽く俯く。
見かねた私が、ひなたにずいっと近寄り、
「ひなたは、誰かに渡さないの?」
「っわっ、そんなまさか誰かに渡すなんて!!」
怪しい……渡す気満々でしょ!!
「ちなみに斗真くんは、誰かに渡さないの??」
と、ひなたは上手く斗真に話を移した……くぅ!!
「……興味ない」
「嘘ね、誰が好きなのよ、言いなさい」
「痛い痛い、いないって!!」
つい斗真の頬をつねると、斗真が涙目になって私を睨む。
「というか前に言っただろうが、好きな人はいないって」
「できたかもしれないじゃない!!」
「できてねぇよ!! そういうお前は……」
「いないにきまってるじゃない!!」
「あー、そろそろ種目決めの応募が始まるねー、早くいこ!」
と、睨みあう私たちを遮るようにして、ひなたが歩きだした。
そういえば、今日は放課後に応募が始まるって言ってたかも……?
「そうですねっ! 体育祭に本読み競争とかありませんかね?」
「「ないから」」
「じゃあ、筆算競争とか! せめて数式パズルとか!!」
「「ないから!!」」
二度にわたって、斗真と声が揃った事に恥じらいを感じながらも、私は美雨の頭を撫でる。
「体育祭は、絶対にいい思い出になるわよ」
「……はい、そうですね!」
と、しばらく考えてから、決心したようにして美雨が顔を上げた。
「ちょっとー! 早く行くよっ!!」
ひなたに急かされ、私たちは慌てて駆け出した。
ʚɞ
「「「「失礼します」」」」
四人で事務室に入り、ひなたが要件を伝えると、用紙とペンを渡される。
受付が始まった直後だからか、あまり人はいない。
私は、用紙に自分の名前を記入する。
『1年A組 日岡天詩』
そして、ざっと項目に目を通すことにする。
パン食い競争、大玉転がし、ハードル走……あった、二人三脚!!
私はくるっと二人三脚の項目を円で囲み、事務員に手渡した。
その後、まだ悩んでいる様子のひなたと美雨を置き、他の人の迷惑にならないよう事務室の外に出る。
と、同じく外で、壁に背中をもたれさせる斗真と鉢合わせた。
「あ、あれ、早かったのね」
「ああ、初めから決めてたからな」
「ふうーん」
……気になる、斗真が何の競技を選んだのか、気になるーっ!!!
でも、直接聞くと、負けた気がするし……!
「え、えーっと、そういえば斗真って、走るのは得意じゃなかったわよね」
「なんだ、弱点探しか?? まあ、そこそこだ」
「へえーそうなのね。……で、球技も好まないのよ、ね?」
「?? 何を探ってる?」
げっ、私って下手!? それとも斗真の勘がいいの!?
「なんでもないわよ!!」
そういって顔をそらすと、斗真がちらりと私を見る気配がした。
「……そういや体育祭、ハチマキのイベントがあるんだってな」
「なによ、気になるの? そうよ、ハチマキのイベント」
「確か、大切な人と交換するとか」
「……? 何が言いたいのよ」
「別に、なんでもない!」
と、斗真がばっと顔をそらす。
……全くなんなのよ、興味ないとか言っといて、概要を聞いてくるなんて!
「ようやく決めれましたー!」
「待たせてごっめーん!」
と、事務室から二人が出てきて、私たちは慌てて顔を元に戻す。
「お疲れー」
「じゃ行くぞ」
私たちが歩き始めると、すれ違う生徒たちから視線を浴びる。
「初日から問題起こしまくった奴と、天使様が一緒だなんて……」
「しかも、新入生代表様もいらっしゃる!!」
「私もいるってのー! 横山ひなたですーっ、体育祭で名を聞きまくると思うけどねーっ!!」
「いいから。恥ずかしい」
名前を呼ばれなかったことに頬を膨らませながらも声を張り上げるひなたを、私は慌てて抑え込む。
しかしあまりにも視線を浴びるため、私たちは一旦トイレに避難することにした。
「悪魔、女子トイレについてくる気じゃないでしょうね」
「ばっ……するわけないだろうが!!」
斗真が慌てて男子トイレに入っていくのを見て、私たちは女子トイレにたむろする。
鏡の前で身だしなみを整えながらも、ひなたがふうとため息をついた。
「はあー、私もみんなみたいに噂になりたーい!!」
「ならなくていいから。噂になるのもいいことばかりじゃないからね?」
「そーですよ、毎日のように声をかけられて、怖すぎます!」
「えー、それでもいい、てか羨ましい、私も噂にしてっ!」
噂になるってことがどんなことか知らないから言えるのよ……!
初日に、斗真と噂になったときなんて、地獄だったんだから! ……まあ、その噂は、さっきのように、今でも続いてるんだけど。
でも、それくらい、恋愛ネタは噂になりやすいしね……。
「なら、公開告白とかしてみたら? すぐに、『あ、あの公開告白の人だ』って認識してもらえるじゃない」
「相手いないし! それに、公開告白なんて、そんな勇気ないよーっ!」
「告白、ですか」
しばらく雑談を交わしていると、不意に、美雨が声を潜めた。
「……あの、私、決心したことがあるんです」
「どうしたの?」
「なに?」
すると、大きく息を吸い、美雨が緊張した面持ちで私達を見た。
「私……体育祭で、正式に斗真さんに告白しようと思うんです!!」
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