3章19話 1位は
ʚ隼ɞ
「隼様、頑張ってるのですね! 一緒に勉強してもよろしいですか!?」
「姫! もちろん」
――放課後。
風の噂で、斗真たちが本気で勉強をしてるって聞いたから、僕も今、勉強を頑張る気になったところ。
迫る女子たちをなんとか回避し、カフェテリア内にあるカフェでノートを広げているとそこに姫が来て、ますますモチベが上がったところだ。
「隼様のお邪魔にならないように致しますので!」
「全然いいんだよー、おいで」
姫が僕といる時間が減って、正直、少しだけ寂しい気持ちもあったんだけど。
でも、姫がクラスメートたちと積極的に話しているのを見ると、親になった心境でほっこりするから、こっちの方が断然いい!
でも、こうやって二人でいる時は、安心するから、やっぱり弱いな自分って。
「んふ、隼様の香り……♡」
「はいはい、いい子いい子」
頭を撫でてやると、嬉しそうにして姫がほほ笑む。
姫は、一度清楚系に戻った後、徐々にカラコンやメイク、髪を巻いたりを追加している。
本人曰く、
「やっぱり、自分らしさってこっちなんじゃないかなって、思うのですよ! それに、隼様にはかわいく見られたいのですし……」
十分にかわいいんだけどなあ。でも、本人が言うならそうなのかな。
「テストまで、二週間を切りましたね……隼様、今回も一位、応援してるのです! 大好きなのです!!」
「ありがと、モチベが上がったよ」
姫にそう言われたら、頑張らないと、ね?
本当は、今回は手を抜いて、5位以内ならいっか、とか思ってたけど。
……今回はないと思ってもらいたいな!
「隼様が喜ぶと、私も嬉しいのです! 一位、期待してますう……」
「姫に言われると、頑張れるよ。姫は……お金でパスするの?」
これまで姫は、テストが億劫だとか言って、先生にこっそりお金を渡し、適当な順位にしてもらっていた、らしいけど……。
「……いえ、私、今回は自分の実力で勝とうと思ってます! お金なんかに、そしてお父様なんかに頼らないのです!」
「……成長、したんだね」
もう一度頭を撫でると、目をハートにして姫がうっとりとする。
「勉強なんて全くしていなかったので、赤点だとは思うのですが……精いっぱいのことをしますのです!」
「姫なら、できるよ。応援してるからね? もし頑張れたら、ご褒美にどこかに出かけようか」
「んはああいっ!! やる気が溢れてしまうのです……!」
目をキラキラとさせて、姫が頷く。
姫に関しては、ついつい甘やかしちゃうなあ……。父親の心境で、僕は表情を崩す。
真剣な顔をして教科書と向き合う姫をこっそりと眺めながらも、僕は小さく息を吸った。
日岡さんのことも、斗真の頑張り次第で知れるんだし……モチベ上がってきた!
――そうして日付が経ち、とうとうテスト当日が幕を開けた。
ʚ斗真ɞ
「うおおおおらああ! これで、テストは完璧だあぁ!!」
テスト当日、午前4時!
徹夜で目を血走らせながらも、俺はベッドに倒れ込んだ。
ここ二週間、とにかく力を込め、空っぽだった脳に入れられるだけの学力を詰め込んでやった!
この実力なら、100位は超えられる気がしてきた! 多分!
……しかしこれで、天使野郎に一泡吹かせられる……!
最後に英単語を復習し(俺の口から『復習』なんて言葉が出るとは……)テスト直前まで俺は一人でぶつぶつと暗記する。
「凄い根性ね。もうやめてもいいんじゃない?」
と、この二週間、ろくに口を聞いていなかった天詩が、漢字をノートに刻みながらもそう言ってくる。
「そういうお前も、もうやめ時じゃないか? そもそも、5位以内なんて……」
「はん、この私がどれだけ勉強をしてきたと思ってるの? 授業が終わったら勉強、休み時間も勉強、寝る間を惜しんで勉強よ、ああイライラしてくるわ!!」
八つ当たりはやめてくれる? てか、俺もそんなもんなんだが!!
「二人共、バチバチだねぇ……まっ、私もそれなりに勉強したんだけどね!」
と、後ろの席からひなたがちょっかいをかけてくる。
「その『それなり』って言葉、怪しすぎるのよ」
「わかる。そういや隼のやつ、『僕、全然勉強できてないんだー』とか言って、目にくまつくってたからな。そう言う奴ほど勉強してるんだよ……くそっ!」
俺も、いつかスマートに『勉強? テスト? 存在を忘れてたよ』とか言えるようになりてえよ! 罵倒イケメン!!
と、担任が入ってきて、早速テスト用紙を配り始める。
「罵倒堕天使」
「地獄へ落ちなさい、悪魔」
最後にそう言い合い、俺たちはテストと対面した。
――絶対に、俺の前に跪かせてやる……っ!!
三秒後、テストを表に向けて、前言撤回。
やばい。文字がちかちかしてきた。なんだこの難文。高校生が解くテストじゃねえ……!
国語、社会、数学、理科、英語の五科目を終えたころには、俺は瀕死になって机にうつ伏せになっていた。
「は、はあ……随分と、お、お疲れのようね、悪魔さん」
「そ、そういうお前もな……天使さんよ」
そうだったのは俺だけじゃないらしく、全てを出し切った様子で天詩も倒れこんでいる。
「うううー! 難しかったああ!! もうダメだあ!!」
ひなたが率直に叫ぶ。……うん。難しすぎた。
と、教室の扉がガァン!! と開き、いつもは整っている髪を乱れさせ、黒花が飛び込んできた。
「や、やってやりましたよ!!! これで、一位の座は私のものですっ!! 斗真さん、手を繋いでハグしましょう!」
「た、助け……っ!!」
「ちょ、美雨ー!?」
天詩がふらつきながらも、暴走する黒花を引き留めてくれる。
「止めないでくださいー! 私と斗真さんはもうカレカノ、というやつなんです!」
「え、は、はあ!?!?」
「誤解だ」
顔を鬼のように、それこそ悪魔のようにして俺をみる天詩をなんとかなだめる。
「ど、どういう事――っ!?!?」
ひなたに後ろから肩をがくがくと揺らされ、俺は脳が限界を迎えたのを察する。
「……」
「ひゃっ、斗真さんが白目を剥いて、口から泡がーっ!?」
「ほ、保健室に連れてかないと!?」
だんだんと声が遠くなり、俺はその後保健室に連行された、らしい。
ʚɞ
「どういう事!? 美雨ううぅ」
「そ、そーだよ、説明して……!」
「えーと……実は」
ぼんやりとした意識の中、小さく天詩と黒花、ひなたの声がする。
「私が1位になったら、好きになってくれる約束なんです!」
「「はああぁ!?」」
同時にブーイング。……これ、やばい状況なんだな。俗にいう修羅場ってやつだ。
「好きになんて……! 私もそういう契約にしとけば……」
「ひなたさんごめんなさい、でも、決まっちゃったことでして……」
「……っ、好きに、なる契約って……」
天詩の戸惑った声。うん。俺も、今になって戸惑ってる。
「えへ、そうなんです。それで、勉強を頑張れたというか……」
「一位になったら、斗真が、美雨の彼氏に……?」
またもや、ふうっと意識が途絶え、俺は眠りにつく。
何分経っただろうか。
意識が戻り、俺は目をうっすらと開いた。
「あっ、斗真くん!!」
と、ひなたの声が応じ、近寄ってくる。
「あっ、未来の旦那さん……おっと、彼氏さん!」
「斗真……」
ずっとそばにいてくれたのだろうか。三人が、ベッドの上から俺を心配げに覗き込んでいる。
「ねえ、斗真、美雨が1位を取ったら、か……彼氏になるなんて、本当?」
そう、天詩が傷ついたような顔で訪ねてくる。
「……らしい」
どうにか答えると、天詩が小さく俯き、その後慌てて顔を上げ、
「んあっ、別に、斗真が誰の彼氏になったって、興味はないんだけど!」
そう言って、ぷいと顔を背けてしまった。
「私は、興味、あるな……」
ひなたが俺を見てぽつりとそういう。
「もう決まってしまった事ですし! とりあえず、結果発表がある明日を待ちましょう!!」
そう、唯一元気な黒花が俺の手を引き、ベッドから俺をおろしながらもそう言う。
……俺の初彼女が、黒花でいいのか??
なんて、まだぼんやりとした頭で考えながらも、俺たちは保健室を後にした。
ʚ天詩ɞ
――次の日。
「……うううぅうう……」
気になって気になって、一睡もできずに、私は憂鬱な朝を迎える。
興味ない、なんて言って、どうしても頭から離れなかったじゃない……っ、ううぅ、斗真のバカ!!
「ほら天詩、結果が張り出されてると思うよ、行こ!」
と、ひなたが私の手を引いて走り出す。
もしかして、ひなたも、気になってたのかな……なんて思うと、なぜか胸がぎゅっと痛む。
教室が近づいてくるにつれ、どくどくと心臓が暴れる。
もし、斗真が美雨の彼氏になっちゃったら。
私は、平気でいられるのかな……。
きっと無理だ!! と答はすぐにでた。
べっつに、斗真のことは嫌いじゃないし、変な意味じゃなくて大切だし? だから気になっちゃう。頭から離れなくなる。
「おう、堕天使に底抜け太陽じゃないか」
と声がして、私はびくっと心臓を跳ねさせる。
「……お、おはよう」
「元気そうだね……」
「んまー、寝れなかったんだけど」
そう言って、ぽりぽりと頬をかく斗真。
……あああぁぁあ!!(叫)どうしたらいいのよーっ!!
「あーっ、三人共、おはようございます!」
と、いきなり底抜けに明るい声がして、私たちはびくっとして振り返る。
「私も今から結果を見に行くんです! 行きましょう!」
ううぅ、今一番会いたくない人物がここに!!
美雨が、きらきらとした笑みを浮かべて、私たちに近づいてくる。
……やっぱり友達として、応援しないと、なのかな?
昨晩、ずっと考えていた事。
この謎のもやもやは晴れないし、好きじゃない……と思う斗真の事が気になったり、友達の事は素直に応援できないし……あああああっ、もうやだ!!!
そんな中、私たちは駆け足のまま、廊下の端へと走る。
いつも長くてうんざりする廊下が、今日はなぜか短いよ! なんで!?
やがて張り紙へと到着、人込みの中に私たちは入り込み、結果を凝視する。
お願いお願い、1位が美雨じゃありませんように……っ!
心の中は、ただこれだけ。
と、急に手を握られ、私はぎょっとする。
と、斗真が、震える手で私の手を握っていた……!?!?
「なっ、なっ、な!?」
急に何よ! これもしや、吊り橋効果!? 吊り橋効果ってやつなの!?
張り紙を見上げる斗真が、かっこよく見えて……。
「……え?」
と、斗真の口から小さく零れた声。
私はびくっとして、慌てて顔を張り紙に顔を移す。そうだった、結果、結果……!!
「は……?」
「え……!??」
「ど、どういう……!?」
1位の座に乗った名前を見て、同時に重なる、私たちの声。
『1位:風環 帝姫』
「なんだか、やってしまったみたい、なのです」
そう言って、後ろから風環さんの声が聞こえる。
呆然として、振り返ることもできない私たち。
「勉強、実は得意だったのかもなのですよ!」
「「「「「……ええぇぇええぇぇ!?!?」」」」」
考えてもいなかった結果に、私たちはただあっけにとられていた……そんなの……あり!?!?
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