第12話 ガッコ

煌めかない星の川。

ガスや数多の星で虹色に染められた砂細工。

正視どころか、生身を晒すことすら出来ないほど強烈な光線を放射し続ける太陽。

生命の存在しない自然の美しさ。


無論、太陽は暗く白いマーカー程度に塗りつぶされ、モニタや拡張感覚は常に明滅する警告、警戒アラートの瞬きで埋め尽くされている。


人工的な忙しさの、なんと煩わしきことか。

この美しく静止した宇宙の片隅にも、そんな騒々しい一角がある。

青や桃色の光線がせわしなく飛び交い、命が光となって弾ける宙域が。


「圧倒してるじゃん・・・足止めどころかこのまま撃沈しちゃうんじゃないの」


数多の光線や爆炎が煌めきまくっている宙域にくるっとユビを回し、ホログラマブルインターフェイスで前線をマークする。

作戦目標の機影が無いことを確認し、旗艦をコール。



「こちらクランシーヌ。目標、見えません」


「こちらラムダメル。そんなはずはない、よく探せ」


そんなハズもどんなハズも、データを否定すんなっつーの。

艦橋に接近し、右マニュピレータに掴んだ巨大推進炸薬弾射出装置を前線に向けグルグル振り回しながらさらに主張する。


「前線どころか旗艦座標軸で千(と)宇宙メルテ以内に機影どころか小惑星、ダスト、デブリ、他なんの飛翔体も無し。当アブハイブール宙域まで広げても太陽に向け接近中の彗星しか・・・」


ヤマダ粒子の警戒アラート。

同時に破滅的な衝撃後、ホワイトアウト。


撃墜された。

消えてゆく意識に、何故かストロベリーショートケーキの味と芳香がほんのりと広がっていった。



フラットアウトしたモニタが開き、そこから生まれたての小鹿のようにヨロヨロガクガクと震える足で脱出する。


「以上が前大戦で全滅したラムダ艦隊の記録だ。ハマミ准尉、下がれ」


敬礼。着席する。


「諸君も既知であろう地球では伝説的英雄となったナミエ名誉大佐の戦闘機動だが、注目すべきは太陽フレアや木製からの電磁気をジャマーとし遥か遠方の彗星のカゲを使った浸透強襲である。准尉も完璧に幻惑されていたのは見ての通りだ。作戦目標への接近は太陽、惑星、遊星などの位置関係や電磁的ソースを効果的に使うことが肝要。この事例はパイロット個人のひらめきによる行動だが、諸君らはロケーションのデータを緻密に組み立て作戦を立案できるよう努めねばならん。解散」


特に終礼も無いまま、思い思いにグダっていく。


「なさけねぇなあハマミ。いつもの令嬢パワーでなんとかなんなかったのかよ」


「前世で皇位に戻ればクシャミするだけで太陽の系ごと吹き飛ばせたんだけどね~。こんなチマチマした世界じゃムリよムリ無理」


ガッコの気の置けない友人達。


「曰くの前世かよw子供もいたんだって?そんな小さいケツで言うよなあ」


ミツロウ・・・


「アラ、そこまで言うならアナタの生んだげてもいーわよ?今なら皇統のおまけつき」


女系だけどな。


「謹んでご遠慮申し上げます」


「我が寵を退くか、なんという無礼」


前世と比較して宇宙がやたら広くて遅い。

ヒトもこんだけちっちゃければ宇宙というカゴの中で永遠に生き続けていけるのでは?

とも感じるが人間の世界は狭くて忙しくて余裕ないんだよな~つらい。

前々世の経験をすっかり失念しうっかり二次元の書き換えでヤマダ重粒子なるものを発見させたら戦争が始まってしまい、人が沢山死んだ。


「ヤマダ博士さえヘンなモン発見しなきゃハマミは今頃女王サマだったのにね~」


「王なんかに封じられるわけないでしょ。皇家や帝室は兎も角、本家じゃあたしが生まれる前からやる気だったし」


「マジバナでどこまでやる積りだったの?」


「んー、小惑星帯を超えて木星の利権まで手が届けば~て目論見はあったみたいだけど・・・外惑星方面軍閥の強欲と国内の政治圧力で一気に全面戦争に突入だったからね~。たぶん開戦のお祭り騒ぎからずっと対処的な行動で右往左往してただけなんじゃない」


「ふーん。地球じゃ遠い空の彼方の発狂した独裁者と狂信者の軍団で感じでのんきしてたら小惑星が降ってくるんだもんな~・・・あんた有名だし降りたらズタズタにされるわよ」


「あぁ、エンリカて地球出よね・・・ウフ、実は手の者にあたくしの処刑会場を用意させておりますのよ?」


「まさか身代わりのかわいそうな女の子処刑して雲隠れするつもり?」


「そんなもったいないことするワケないでしょ。それに手の者、つったって全員がホンモノよ。アタシらへの恨みを炊きつけて、その後をモニタしてるってワケ。・・・すっごい刑具が揃ってるんだからwww」





「俺もその”炊きつけられ復讐に燃える一人”、という訳か」


敵意溢れるトーンに振り向くと、そこには憧れのセンパイが。


「マシュー先輩」


立ち上がり、敬礼する。


「失礼しました、中尉殿」


「あれだけの国民を殺しておいて・・・家だけは残るとはな」


敵意と侮蔑、様々な負の感情がこもった視線に脊髄が慄く。


「家とその族達・・・私たちが許されたウラの経緯など、知りたくはございませんか?」


センパイの下マブタが僅かに痙攣し、目に剣呑な光がつかの間宿る。


「また弄ぶつもりか。あの時のように」


「弄ぶなど・・・先輩には知る権利・・・いえ、義務があるハズですわ。卑小な私たちがどれだけ小狡く、悪辣に人民を贄に捧げ生を永らえたのかを」


敬礼を下ろし、胸を抑える。

あの時と変わらん絶壁やぞ!


「全てを知り、その憎悪を余す所なくわたくしへと注いで・・・じゃなくって叩きつけてください!・・・あの時のように!!」


組んだ手を開き喉許まで上げ、カラーを外す。


「付き合いきれん・・・この変態が!」


踵をかえし、襟を開きつつある私を一顧だにせずつれなくも去ってゆく。


「衆目の前でヘンタイは酷ぇな・・・ってハマミ、そんな震えるほど悔し・・・マジかよ」


慰めかけてくれた隣の男子同輩に潤んだ目を向ける。


「・・・うん、軽くイッたわwww」


左の女子同輩から蔑視といっていい色温度の瞳が向く。


「うぇ、もうお嫁にいけないねあんた」


”およめにいけない”


「アッ―――――!!」


エンリカ突然のパワーワードに快感中枢が爆裂し、意識がトんだ。


「うお、倒れやがった」


「グッ、この匂いは・・・」


「白目剥いて痙攣してやがる・・・勘弁してくれ」


「エンリカ、あんたのセクハラワードが原因だかんね」


「いやよ。マシュー中尉に変態と罵倒され失神、てことで救急要請する」


「あっ、意識あるみたい。なんか言ってるわよ・・・エッ?」


「なんだって?」



「・・・男子便所に投棄してくれ、だって」





「船外投棄ね」


「そうね」


その後男性諸賢の仲裁や明滅する意識下での懺悔弁明もむなしく魚雷発射管より射出され、レスキューバブルに補足されるまでの数秒生身の宇宙遊泳を愉しむことになってしまったのであった。


どーでもいいが、おもらしは乾いた。


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