アリグータスの試練

第24話 動き始めた山水




「うぐぉぉあ」大きく伸びをして目を覚ました。

 体がダルくって、頭が熱い、病気じゃないが、激動の二日間だったよ。

 昨日、小さな女の子を二人引き取って、弟子として育てることになったんだよな、後悔はしてない、ただ、食わしていってあげられるのかが不安だ。


 ふと見ると、その女の子たちは、今ボクのベッドで丸くなって寝ている、ん~着替え?

 あれ、着替えさせなかったのかな、わちゃ、やっちまった、皺皺になったら・・・・・・、あ~、まっいっか、どうせ壱から教えなきゃ成らないし。



 昨日帰って来てから、シュクレが持たせてくれたのか、エリアルが籐籠を差し出してきたので中身を見ると中に人数分の弁当が入っていた、それを一緒に食べて、部屋に案内したんだが、腹が膨れたのもあって、そのまま寝ちゃったんだ。


 (便所に行こう。)


 顔を洗って身支度を整えて、朝飯を作る。

 簡単にブレッグに乳脂を乗せて焼いたのと、珈琲スゴニルを煮出した飲み物をテーブルに並べ終えたんで、あの子達を起こしに行こう。


 部屋に戻ると、ベッドと壁の隙間に身を寄せて、二人ともこちらを見ている。

「あ~、朝飯を食べよう、朝飯を食べたら、今日の仕事の始まりだぞ、さっ、起きるんだ」

 そう声をかけると、すくっと立ち上がり、こちらに歩いてくる、素直に言うことを聞いてくれるんで、そこのところは助かるんだが、何を考えてるのか判らないところがあるので、その辺りの理解するところから始めようと思う。

「二人とも便所はいいかい?昨日教えたっけ?」

 首を振る二人。

「そりゃ大変だ、先にソッチを済まそう、おいで」



 二人を工房の横にある便所に連れて行ったんだが、入ろうとしない。

「使っていいんだよ、小便したくない?ずっと我慢してたんじゃないのか?遠慮しなくていいんだ、この家にあるものは、使っていいんだよ、但し、ソッチは工房で仕事場だから、ボクの許可なしに入っちゃだめだよ」

 ビクッ!と二人とも身体を硬直させた、何だ?

「どうかした?あ、夕べ、入ったのか?」

 すると二人は、コクと肯き、そして土間の辺りを指差し、しゃがみこんで、服をたくし上げて背中を露わにさせた。

 ワンピースだからそうやって服を上げちゃうと、ほぼ全裸じゃないか。


「待て待て待て、服を下ろして、二人とも立ちなさい」そういいながら、ボクは二人がたくし上げたワンピースの裾をおろして、腕を取り立ち上がらせた。

「えっと、何かな?説明してくれるかな?どうしたんだ」


 エリアルがサリシュの前に出て、出ない声を抑えながら、身振りで伝えようとする様子を見ながら、大凡のことが判った。

「ああ~、えっと詰まりは、夜中に起きて、上の部屋から下に下りて、ここの工房に入ったと、で、又上の部屋に戻ったってことかい?」

 エリアルの身振りでの説明では要領を得ないところが多々あるんだが、何故に又、背中を出すんだ???あああ!あれか、折檻か!


「いいんだ、いいんだ、折檻はしない、ぶったりはしないから、ん~困ったな」

 ボクハはしゃがみ込んで、エリアルとサリシュの目線にあわせる。


「エリアル説明してくれてありがとう、折檻はしないよ、注意しなかったボクが悪いんだ、サリシュからも説明を聞きたいんだが、出来るかい」


 コクッと肯き「ダンナサマ、コボウに入って、ごめんアさい、暗いマにショベンをしたくナタ、サキの部屋は(指を上に向けて)キレイなとこで、ダンナサマがネタルとこダタニデ、ここにきた、アコのところ(土間を指さし)からショベン匂いがするたで、ブアガ(間抜けブァガルダの事かな)と、いっしょにショベンした、ハイでいけなグところだとシラナギデ、ダマデてごめんアさい、バツうグェる」そういって、又、背中を見せようとするんで、止めさせた。


「サリシュ話してくれてありがとう、エリアルもね」そういって、二人を抱き寄せた。


「怒っていないよ、キチンと案内してなかった、ボクが悪いんだ、君達は悪くないよ、ぶったりしないから、背中を出す必要ないんだよ。

 良いかい、良く聞いて守ってほしいことがある」

 そう二人の眼を見ながら話しかける。

 コクンと頷き、キチンと目を見てくる。

「間違えたら、背中を出さずに、お腹のところで、掌を組むんだよ、こうやって」としぐさを実践する。

 二人は、すぐさま同じように掌を組んで、ボクを見上げてくる。

「そう、それでいい、ぶったりしないから背中を出してはいけないよ」


 判ってくれたようだけど、工房の土間に視線を向けながら、なんて暗い眼で見るんだ、朝飯前だっていうのに・・・、全部ボクのせいだ。


 ボクが土間で漏らしたところを、帰ってきてからも洗い流してなかったよ、その匂いを嗅ぎ取ったんだな、考え無しに漏らしたわけじゃないし、今までの環境から変わるんだし、間違いはでてくるよな、孤児院でもあったなそういや、便所の使い方が判らないガキ共、思い出したよ、ふと笑いが漏れてくる。




「じゃ、改めて、便所は此処だよ、便所の使い方は判るかい?」、ウンと肯く二人は実に素直だ。

 扉を開けて、中にある腰掛に座って、用を足すように言い聞かせた、大きいほうをしたら、ここの布で拭いて、こっちの籠の中に入れるように教えて、後で纏めて洗うんだと説明した。



さっそくエリアルが用を足したそうなので、使わせてあげた。

「扉、閉めてからだよ、終わったら出ておいで」

 二人が使い終わってから、続いて、手の洗い方を教える。

「便所からでたら、ここの金具を足で踏むと、上の水袋から水が出て来るから、手を洗うんだよ、洗ったら、こっちの手拭で手を拭くんだよ、着てる服で拭いちゃダメだぞ」



 ようやく朝飯だ、ブレッグも冷めちまったが、もう一度温めるか。


 二人をテーブルの向かい合わせに座らせて、真ん中にボクが座り、お祈りの仕方から教えていく、「火と槌の声を聴かん。」ボクが聖句を唱える、唱えるのはガルバリゴドの聖句、物作りの神様だからね。

 それに食事は基本、手食なんで小難しいテーブルマナーなんて無い。




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第二十四話 動き始めた山水


さて次回は

ブルダック爺さんはフワフワとフワフワと空を漂っていた

遠くまで見渡せ、心地よい風が吹いている

更に雲を貫き光が差している、フワフワと螺旋を描きながら、

光の柱に引き込まれていくようだ、心地よく良いにおいがする

空の漂いに身を任せ、満面の笑みを浮かべたところ

ドバシャと、冷水と衝撃が襲い掛かる!

橋から釣り糸を垂らしたまま寝てしまったようだ。

目を覚まして、尚、何が起こったか狼狽えるブルダック爺さん

おはようブルダック爺さん

おかえりブルダック爺さん


次回 「第二十五話 流れ出る雨水」

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