第22話 回され続ける独楽



 ガンガンガンと激しく戸を激しく叩く音が聞こえる。

 戸口をボーット見ていると、ガンガンガンと更に叩いかれた後、扉が勢い良く開き、門衛のフォルが飛び込んできた。



 「おい!カンド!!何があった?

 夜中にフラッと現れてたそうだな、おまけに門衛の誰何にも答えねぇで、素通りしやがって、爺さんが偶々、『サニーレンスの糸環』だから触るなって、カルギアスの袋って事にしてくれたそうだぜ。

 朝んなって、引継ぎ聞いた、見習いが勝手に自警団に走りやがった、そしたら、団長が『他言無用』って一喝して、見習いが小突き回されて帰ってきやがったよ。


 爺さんからもドヤされて謹慎だとよ、辞んじゃねえかな、あの坊主。


『サニーレンスの糸環』って、そもそもなんだ? 何があった、俺には話せ!」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

「てめーこっち向けよ!」

 胸倉掴まれて引き起こされたけど、何にも答える気がしない。


「え?なんだそれ、そのクビの線は、なんだコレ掴めねぇ、これか?

『サニーレンスの糸環』って、これはなんだ?!答えろよ!」



 グイッと掴まれてた手を引き剥がした、フォルの力の方が強いが、一度手を緩めてくれて、立ち上がる時間をくれた。


 今、ボクがどんな顔つきをしているのか自覚無いけど、喋る気力もないまま、フォルをじっと見て、『こいつフォルだよな?』なんか輪郭がボヤけて、フォルだと思う目の前の人を見続けた。


「どうした、なんか言えよ!不信人物扱いしたかねぇけど、お前の態度次第じゃ、拘束しなきゃならねぇ、まさか呪い持ちじゃねぇだろうな?、その首の『サニーレンスの糸環』って!」


 自警団団長が他言無用って言ったそうだが、なに絡んでんだ。

 コイツ。



『サニーレンスの糸環』なんか、知らないよ、あ、首のか・・・ フラフラとしながら水甕に近寄り、水を飲んだ、便所行きたい、便所・・・



「てめー、逃げんじゃねえよ!」

 ドガっと腹に一発食らった。

「うぐっ」


 その途端、一気にションベンが漏れた。

 どうしたもんか、やたら大量にでて、ションベンの中を、痛む腹を抱えて転げ回った。


 ションベン漏らしながら転げまわるボクを、フォルが見ている。



「べ、ベンジョ行きたかったのかすまねぇ、ならそう言えよ!紛らわしいんだよ」

 フォルが怒鳴り散らす声も、うるせえな程度にしか聞こえない、普段なら、飛び上がっていたかもしれないのに。



 作業場の床は土間になっている、もう泥とションベンと埃とでグッチョグチョになって服も手も真っ黒だ、顔も真っ黒になってるだろが、どうでもいい。

 痛む腹を押さえながら、なんとか立ち上がり、戸をあけて、外に出た。




「おい!やっぱり逃げんのか!」フォルが追いかけてきた。


 フォルに着いて来いと手の動作だけで伝えて、フラフラと歩き出した。


 エクレットの所に行かなきゃ、陽は高く上がっているようだが何刻だろう、歩けば3アザン位でつくだろう、あの子達は帰してもらえるんだろうか?

 無事なのかな?

 折角名前付けてあげたのに、サリシュとエリアル、黒い瞳の小さな女の子サリシュ、短い銀髪の痩せた女の子エリアル。


 ご飯食べたかな、寒いところに入れられてないかな、怖がっていなかな、迎えに行ってあげないと。



「おい!カンド!お前を拘束する!素直に番屋に来い!」


 フォルが腰縄を外し、ボクに縄を掛け、足を引っ掛け引き倒した。



 そこへ別の声が掛った。

「フォル!!何やってんだ!触るなと指示が出てるだろう。

 何勝手なことやってんだ!」

「こいつの様子がオカシイから、訳を聞こうとしたんです」

「触るなとの指示を破ってか?」

「友達なんです、だから力になりたくて」

「そっかそっか、優しいことだな、お前を拘束する、10日間の禁固だ」

「待ってく、ウグ!」

 フォルはすぐさま拘束され猿轡をされ、連れて行かれた。




「おい、カンドの家、戸口閉めて、張り番つけてやれ」

自警団のリーダーらしき人が、テキパキと指示を出している。


 ボクはなんとなくボーッとしながら、その様子を見ていると、拘束を解かれたので、ヨロヨロと立ち上がった。


 エクレットの処に行かなきゃ、夕方に来いっていわれたけど、ここに居ちゃ、この騒ぎで誰かしらやってくるだろう、あの子達が気になる、重く感じる体を動かしてノロノロと歩き出した。


 フォルが大騒ぎしたせいで、ご近所さんにジロジロ見られて、コソコソと何かを囁かれている。

 悪い噂が広まらなきゃいいんだけど・・・。





 ボクの住んでる東区から、ダチュラのある西区までは、一本道じゃないが、極端に入り組んでる訳でもない、ただノロノロと歩いていく、家を出たときに泥とションベンまみれだったから、道行く人が避けていく、何度か犬を追い払うかのように水を掛けられたが返って綺麗になったような気がする。



 足が痛い。

 フォルに蹴られこともあるが、足の裏も痛い、足首も膝も痛い、歩くのが辛い。

 辛いけど行かなきゃ、もう歩いているのか這っているのか分からないくらいだが、エクレットのところに行かなきゃ・・・


 歩いている最中に何度も、子供に尻を蹴られ、背中をけ飛ばされ、店先の女将さんに水を掛けられ、転びながらだったけど、なんとかエクレットの診療所が見えるところにまでやって来れた。


 陽は随分高くなったようで、ブチの鐘が鳴っている、昼時かぁ、腹減ったなぁ。





 

 ハッと顔を上げると、部屋の中だ。

 どこだろう、ぼんやりと見渡すと、暗い部屋の中で床に寝ていたようだ、ベッドもあるようだが、落ちたのかな。

 扉のない出入り口の方から、明かりが漏れてきている、何時だろう。

 エクレットの診療所が見えてきた処まで歩いてきたのを思い出した、そこから、どうしたんだろ、とりあえず起き上がって、明かりの方に向かって行った。



「あら、目が覚めたのね、泥んこ男、いったい何したか覚えてる?」

「もう、しゃべっていいからね」

「ガの鐘も鳴って、暫くたつ頃よ、いつまで寝てるんだか」

「とんだ一日だったぜ、いろいろ纏めて片付いたから良いがな」

「汚ったない成りして担ぎ込まれて、変な匂いもしたわよ、ほんとにアンタって」

「お腹すいてない?ま、取り合えず、お茶飲みなさいよ」

「あたしも時間無いから早くしなさいよ」

「ローの鐘までには、此処出るのよね?」

「そ、今夜はフォルド伯爵領まで行かなきゃ」




「ぁぅ・・・ぁぇ・・・ヴァイ、ヴ、ブ、ヴァ、はい」喉が変だ、巧く声が出せない。

「はい、お水、嗽してらっしゃい」シュクレが杯を手渡してくれた。




「すまない、いろいろと力になって貰って、ありがとう。

エクレット戻れたんだね、よかったよ、あの子達は?やっぱりムリだったのかな

子爵様があんなにお怒りになられていたし、自由にしてあげられるんだと思えたのに、ボクは何を失敗したんだろ、伯爵様もおられたし、司教様?大司教様だっけかそんな偉い方々が・・・エリアル、サリシュ・・・ボクが、ボクが、ボクが勇気が無かったばっかりに、余計辛い目に合わせてしまったよう。

・・・・・・すまない」



「「「・・・・・・・・・」」」



「すまない、エリアル、サリシュ」

「ハイ、ダンナサマ、ココニオリマス」

「??????」心地良い優しい声が聞こえる。


「すまない、エリアル、サリシュ」

「ハイ、ダンナサマ、ココニオリマス」

「え?」やはり優しい声が聞こえる、どこからだろう。


「・・・え???」

「すまない!!!エリアル!サリシュ!!!」何だか知らないが、訳もなく大きな声で叫びたくなったんだよ

「ハイ、ココ「しつこーーーい!!!」」

 怒鳴り声共に、ドグアバ!!!ガランガラン、頭と脇腹に強烈な衝撃が走った。


「いい加減におし!いつまで狂芝居マンザイやってんだい。

アタシは忙しいんだよ、アッチコッチに行かなきゃなんないし、暫く帰れそうにないし、やらなきゃなんないこと満載で、時間ないのよ!

 あんたがお探しのお二人さんは、ここにいるから、ちゃんと見なよ」

 エクレットの怒鳴り声が、聞こえてくるけど、意味がよくわからん。




 其処で漸く、顔を上げて(ゲ!!!)周囲を見渡してみたら(ウワァ)、ちゃんといるよ、ボクの背後に立っててくれてる(こっちくんなよ)、帰ってこれたんだ。

 フフフ、フフフ、なんだか笑いが込み上げてきて止まらない。

((気持ち悪いな、なんだろうね、これだから、世間知らずの童貞はねぇ、やぁね))



「さっきから何だよ!、妙な合いの手、入れてさ、なんだよ、ホッとしたんだよ、嬉しいんだよ、素直に喜んじゃいけないのかよ」

「なんだろうね、あんたのその顔、ひっどいわよ、もう嫌、見せないでよ、鼻水其処らにつけないでよ、涎たらさないでよ、それにちょっと臭いわよ」


 え?顔?手で触ると、グチャグチャダだ、うわ汚ねー、すぐにさっき嗽で使った手ぬぐいで、顔を拭いて、顎まで拭って、最後にズビッと鼻を?んだら、ズビブルとスンゴイ量の鼻汁がでた、「うわ」


「うわ、じゃないわよ!、あんたそのままあの子達のとこに行こうとしたのよ、止めないほうがよかったのかしら?」


「ぁぅー、助かったよ、止めてくれてありがとう、それと童貞じゃない」




 改めて、エリアルとサリシュを見た、キチンと服を着て靴まで履かせてもらってる、髪も解かしてもらっているようだ、当たり前の女の子たちのようだ、日常にありふれた、町のいる女の子たち。

 涙が溢れてくる、何度も何度も拭っても溢れてくる、ヨタヨタと近づいたらもう膝から崩れ落ちてしまった、ただ抱き着いたりしなかっただけの理性は残してたよ。


「おかえり、おかえり、酷いこと、痛いことされなかったかい?」

 キョトンと首をかしげる様子だと、何事もなかったんだろうな、無事でよかった。

 すると、エリアルがそっとボクの頭に手を置き、柔らかく抱きしめてくれた、サリシュが頭に撫でるでもなく軽く手をおいてくれた、ボクの方が気遣われてしまっている。

「もう大丈夫だよ、ありがとう、ありがとう」そう言うと、二人はパット手を放し、並んで立ってボクを見ている。

 よいしょとボクは立ち上がった。



「落ち着いたかい?ホントにあんたって子は、めんどくさいね。

泣く喚く落ち着きもなきゃ、迂闊だし、思い込みは激しいし、ホントに困った子だよ、それで、帰れるのかい?」

 エクレットの小言を聞きながら、ウンウンと頷くしかなかった。


「それじゃまぁ、結論だけ話したげるよ、途中経過聞かせるだけで、こっちが疲れそうだからね」そう言ったエクレットが椅子から立ち上がり、机の上の丸まった獣皮紙を取り上げ、バッと広げた。


 背筋をピンと張り、凛とした表情で読み上げる。

「告げる、孤児エリアル並びに孤児サリシュは、フォルド子爵を身元引受人とし、天翼市民の身分を保証する。

 ログル町細工職人カンドの下で習熟修行を命ず。

 細工職人カンド落命までを、修行期限とす。

 カンド落命後は速やかに、子爵領館に戻りて、当主の命に従うべし。

 教会・神殿は求めに応じ両名の庇護を行い、速やかに領主への届け出を命ず。

 何人たりとも不法に両名を拘束されぬよう、騎士団・自警団には守護を命ず。

 王歴1168年牡鹿の月 レジュルログ=アルデ・ド・フォルド」

 エクレットは今、読み上げた獣皮紙の文面をこちらに見せ、踵を打ち鳴らした。




「以上、判ったかい?」

「さっぱり」

「判った辺りは?」

「あ~~えっとさ、子爵様があの子達の身元引受人になられて、市民権を、お与え下さった、そのあたりは、お館で聞いたよ。

不法に拘束されないとか、自警団が市民を守護したり、困ったときには教会で庇護して貰えってさ、これって、普通のことだよね」

「そうだよ」

「何でわざわざ、条文化しなきゃいけないんだ?」

ポコッ「イテ」


「ん~まあね、あの子達を欲しがり出した貴族や神殿関係者が大勢居るって事、それに、王様もご存知なの、あの子達のこと、直接何かご指示はされないわ、視線一つ動かされないでしょうね、でもね、知って下さったってことは、生かさなきゃならないのよ、そのための条文化なの」

「子爵様と司教様が仲たがいしたままなの?」

「え?は?ふむ、あ!、あれね、あれは気にしないこと、忘れ去りなさい、そのほうが多分健康で居られると思うよ」

「・・・・・・・・・忘れるよ、光輪の件も含めて」

「それは覚えてていいんじゃない?

誰かに話して誉められるの?信じて貰えそう?正気を疑われたいの?

あなたの思い出だもの、好きにして良いと思うよ」


「ハイハイハイハイ」パンパンパンと手を打ち鳴らして、シュクレが割り込んできた。

「もうね、全部終わり、その子達とお家に帰って、お仕事教えるなり、家事教えるなり好きになさい。

 ただね」ズイット顔を近づけてきたかと思うと。

「泣かすなよ」おっそろしい程の真顔で言われた。

「『職人の指先に賭けて』」グイっと身をかがめ、シュクレの足元先に指を揃えて差し出す。

 ポンポンと肩を叩かれ、「いいさね、その覚悟があるなら」と、ニコリと笑ってくれた。



 その後は、エクレットがバタバタと荷造りして、デガンダが手伝っている。

 それを眺めながら、シュクレにメシを食わせてもらった、そういや、いつ振りだろ、メシ食ったの、昨日の朝、此処で食ってから、今まで、水しか飲んでないや。

 熱いスップ汁を飲んだ途端、腹がギューッとなった、ブレッグが美味い、普段ボクが食べているブレッグより、だんぜん柔らかくって甘味がある、プツッと突き刺すと食欲をそそる良い匂いがするサウサゲに被りつき、腹を満たしていく。

 そこいらの店で食べるより断然美味しい、シュクレがスップ汁のお代わりを入れてくれた、有り難い。

 人心地ついたところで、スゴニル貰って飲んでいると、デガンダが表から戻ってきた。



「おい、荷物は積み込んだぞ、後はねぇんか?」デガンダが声をかけてきた。

「うん、そうね、後は此処の手提げ鞄くらいかな、積み込み有り難うデガンダ、シュクレしばらく留守にしちゃうけど、ごめんね。

 デガンダ、後、よろしくね」

「ええ、こっちのことは任せておいて、行ってらっしゃエリス、アルサトネの導きのままに、エシュレットの守りあらんことを、エリスに守護を与えたまわらん」シュクレが右手に持つ赤い玉石から淡い光が灯り、エシュレットの聖印を切る。

「はい、行ってきます」ニコリと笑って、エクレットは踵を返し玄関に歩いていった。




「処でカンド、あなたいつまでそこに居るの?帰らないの?」シュクレの問いに、呆けてしまう。

「ほへ?」

「あんた、まさか泊まるつもり?」両肩を抱いて、腰を捻った姿勢で、半身で睨まれても、まってくれよ、ここの家の人達は、展開が早すぎるよ。

「時間が無いって、言ってるでしょ、カンド早くいらっさしゃい、送ってあげるわ」

エクレっとから声がかかった方向を見ると、エリアルもサリシュも玄関から出て行くところだった。

「待って、待って、帰るから、その子達を連れて行かないでくれ」

慌てて転びながら外に出ると、黒塗りの立派な馬車が止まっていて、またまた、ほーと見惚れてしまった、何回考えが止まったことだろう、展開が急すぎるよ、追いつけない、が、エリアルとサリシュは中にのっているのか、上から見下ろされている、ボクも乗り込もうとして、後ろから引っ張られた。


「おうおう、おめーなぁ、何乗ろうとしてんだよ、おめーは後ろの荷御車台だよ」

デガンダから指さされた所に向かった、最後部の立ち席だ、通常は従者や護衛の人が立つ場所のようだ。


「シャタップ」

「おうわ」デガンダが鞭を入れて、馬車が走り出した。

 シュクレは玄関脇で立ち、馬車を見送っている。


「カンド」馬車の中から、エクレっとが声をかけてくる。

「あなたの工房まで送ってあげる、2アソッテもあれば着くでしょう、今のあなたに、二人を連れて帰らせるだけのことが任せられないわ」

「・・・・・・」

「それとねカンド」

「・・・・・・・・・」

「返事なさい」

「・・・・・・・・・」

「聞こえないの!カンド!」

「え?何?」呼ばれたような気がして、後ろの窓から顔を中に入れて聞いてみた。

「・・・はぅ。ああ、もうこれだから、シュクレが癇癪起こす訳ね。まったく。

あのね、カンド、今回の一連で掛かった費用の全額は全て、問題となった商館が負担してくれるわ、それにサーフェデラ伯爵が人命救助と新たな天翼市民を連れてきた功績に対して、報奨金を出してくださったわ」

 そういって、ボクの肩掛けカバンを目の前に差し出してきた、それはエクレット診療所に置きっぱなしになってた、カバンだ。


「あなた、エリアルにお礼言いなさいよ、このカバン洗ってくれたのよ、あんたのゲロ塗れの中身と一緒によ、何ゲロまでカバンに仕舞ってんのよ、信じらんない」

そういって、窓から突き入れてる首にカバンを掛けてくれた。ズシリと重い。

「うわ重」

「ゲロがたっぷり入ってたからね、そりゃ重いでしょ」

「洗ってくれたんだろ、デガンダから奴隷市の事、聞かされた時に、吐いちまったんだ、床に吐くわけにいかないから、カバンに吐いたんだ」



「いいわよもう、ゲロの話しは、それより、あんたん所にこのまま馬車で乗り付けるよ、目立ち過ぎるだろうけど、この子達のことご近所さんに紹介するのよ、あなたの口から、キチンとなさい、ただし、貴族が関わってることは言わなくていいからね、そのための馬車だから」

「ああ分かったよ、キチンと紹介して、ウチの工房に馴染んでもらうよ」

「簡潔によ、だらだら説明しないでよ、余計な事も言わなくていいからね」

「ああああ、うん、ミジカクヨケイナセツメイハシナイ」

「・・・・・・・・・ハァ」


 そうこうしてるうちに、馬車がボクの工房前に到着した、道案内した訳でもないのに、工房通りの入り組んだ通りなのに、すんなり到着させるなんて、いつの間に調べたんだろう?


「着いたぜ、降りな」デカンダの声を聴くまでもなく、ボクは飛び降りて、玄関前に走っていた。

「カンド戻ったかと思えば、ド派手な帰還じゃねぇか、どちらのお貴族様だ?」

 自警団のグロイツだった、ボクより5つか6つ年上だったはずだ、何で此処に?

「グロイツどうしたんだ、何で此処にいるんだ?」

「あん?オメー覚えてねぇのか、ひと悶着起こしたままフラフラ出て行きやがって、団長が不用心だからって、見張りに俺を付けたんだよ、朝からずっとお前んちを警備してたってわけだ、ご立派な馬車でご帰還とはね。

 警備も必要な訳だわな、あったくよ」



 そんなやり取りをしてる間に、デガンダが御車台から降りて、馬車の扉を開け、中のからエクレットの手を取り、降ろしてきた。

「出迎えご苦労、警護は解除、控えよ。

 ヴァイラス伯爵息女のお成りである」

 瞬間、グロイツが姿勢低く蹲った。


「ボクは細工職人カンド、ご近所の皆、今日、孤児の弟子を二人引き取りました、この工房で住み込みますので、可愛がって下さい、エリアルとサリシュです。

 至らない所もあるでしょうが、新しい工房の仲間として、仲良くして下さい」


 エリアルとサリシュを僕の両側に立たせて、辺りを見渡すと、物陰から伺う視線や、エクレットの前に身動き取れずに薄目で此方を伺っている人達や様々だが、紹介は終えた。


 カ、カ、バタンと馬車の扉の閉まる音が聞こえたら、そのまま走り去っていった。

 何か一言あるかなっと身構えてたんだけど、何もなかったね、エクレットは貴族なんだし、声掛けなんてしないのかな。


 ご近所さんは、お貴族の馬車に気後れしたのか、隠れたまんまなので、ボクは二人を連れて、工房の中に入っていった。





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第二十二話 回され続ける独楽


さて次回は

ちょうど小麦の配達に来た、獣族のギャリガグ

ブルダック爺さんから山羊乳を貰ってるミャウマウを見て

そいつら飼ってるのかと問うギャリガグ

親も居ない迷いミャウマウらしいと答え、どうしたもんかと思案顔

飼えねえなら、俺が引き取ってやるよと手を出すギャリガグ

ニンマリと笑うギャリガグを見て、ホッとするブルダック爺さん

渡しちゃうのかブルダック爺さん

ギャリガグの故郷の名物料理は「小ミャウマウのパイ包み焼き」だぜ



次回 「第二十三話 振り子を押す者」


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