シュイオ風土記抜粋  ~グログル王国内に暮らす普通の人々の日常と非日常、概ね平穏な生活~

あやめさくら

星々の加護持ち

第1話 隣村まで買い付けに



 「うっくぅぅぅ・・・」朝、起き抜けの伸びをして、寝てる間に弛緩した筋肉を解す。

 ”デーの鐘”も鳴る前、窓から差し込む朝日はまだ無い。

 もう三アザンもすれば、日が昇ってくるが、まだまだ外は暗い。

 ボクはこの村で、こじんまりとした工房を持ち店を出している、名前はカンド。

 小さな細工物や金属加工品を扱っている、簡単な鍛冶程度なら出来るが、業物は扱ってない、刀剣類に飾る宝飾品や指輪や首飾り、服飾用の飾り程度だ。


 この町の名はログル、グログル王国北部越境地帯フォルド子爵領全体で、26000シーローソア人の領民がいるその中の西部地域に位置する、

ムスカ郡バズ地区にある人口1300サフォアンフィケ人程度の小さな町ログルだ。

 ログルの東区にボクは、工房を構えている。



 海や山はないが、きれいな湖がある、フォルド子爵様が時折、静養にこられるが、一部は領民に開放して下さっている。

 船や筏を浮かべることは出来ないが、一部の湖岸からの釣りや投網は御目溢し頂ける。

 昔話に出てくる冒険譚に、町の名前に王国の名が含まれている理由が語られているのだが、まっ冒険譚だからな真相については良くわからない、良くある昔話の一つだろう。



 町の大半は平民しかいない、湖畔にある別荘に子爵様が折々に立ち寄っていく程度で、お見掛けすることは少ない。

 平民の大半は人族が占めているが、時折、獣族や妖魔族を見かける、もちろん種族間の差別は御法度だ。

 とはいえ、結婚となるといろいろ問題はあるようだけど、まっ概ね穏やかに過ごしている健やかで平穏な良い町だ。



 今日は、加工品用に鋳溶滓や屑鉄を貰いに隣の村にで出かける予定だ、片道3ガン程度掛かる道程だから、朝早くから出かけないと、日暮れには帰って来れない。


 この町の鍛冶屋から出る屑類の分は大手の加工店が一括買いしてしまってて、手に入り辛いんだ。

 道すがら、薬草でも手に入るかもしれないし、隣村との交流を続けていくのも悪くないからね。


 脚絆を付けた足を鞣し革の短靴に突っ込み、袖巻を止めながら、身支度を整えていく。

 堅ったいブレッグを齧りながら、背負子を背負い、戸締りをしたら出発する。



 ほの暗い町の出入り口の篝火の脇には、自警団のフォルがいた、ボクより3つ年上の幼馴染で、フォルド子爵様のお名前の一部を頂いている。

 子爵様は領民から慕われていて、お名前の一部を頂いている子供は多い。


 自警団といっても、戦士や騎士じゃないから、圧倒するような腕っぷしって訳じゃないけど、野犬や夜盗から町を守ってくれてる、ありがたい存在さ。

 夜盗がくれば、すぐに仲間を呼び、集団で対処する、個人で戦ったりしないから、飛びぬけた力量は必要ない、とはいえ、ボクなんかよりは断然強いよ。



「よう、早いな、ベンソンにいくのかい」フォルが声をかけてきた。

「ああ、ドルさんに屑鉄を分けて貰いに行ってくるよ、門限には帰って来ないと」

「そぅだなぁ、最近は野犬は見ないが、なんだか、馬車の往来が多い、巻き込まれんなよ」

「おっ、馬車って子爵様が来られてるのかい?」

「いやいや、商人だよ、結構立派な荷馬車がな、よくやってくる」

「へぇ、そっか、積み荷次第じゃ、結構飛ばして来るからな、わかった、ありがと、気を付けるよ」


 フォルに挨拶して、門をくぐる。


 町の出入りに、税金はかからない、次に向かうベンソン村でも、顔を見せて自警団に挨拶すれば通してくれる、立ち寄る旅人にも結構大らかで、身なりを整えてさえいればすんなり通してくれる。

 排他的な村も周辺にはあるが、用向きもないので、近寄ることもない。


 ベンソン村は。人口150フィケガズエヨ人程度かな、小さいけど、田畑の豊か」な村なんだ。

 一年を通じて、なにかと農作物をつくり、農具を作ってる。

 この村からは歩きで概ね3ガンで到着できる、ベンソン村のベテラン鍛冶屋のドルさんの所が、今日の目的地だ。




 ベンソンに向かう道は、それなりに整備がされていて、道幅は大人四人が両手を広げて、並べる位の広さがある。

 子爵様のお馬車が通るから、平らに整備されいているんだ。

 街道作りには子爵様が費用を投じられ、領内の村々に仕事が行き当り、潤ったようだ。

 この道って、ボクも整備に関わったんだ、村や町の若い者が砂利や土を運んで、ゴットンゴットン叩いて均して、1年半かけて、リッソンからログル、ログルからベンソン、ベンソンからカイルへ向かう、分かれ道に差し掛かる街道の途中までを整備した。

 お陰で、荷馬車に、荷車の往来がよくなって、物が足りないとか無くなるってことが少なくなったな。


 リッソンやベンソン以外の道かい?もちろんそこからつながる町や村の担い手がそれぞれ駆り出されて整備したさ、自分たちの住む村々の近辺はその村々で整備したから、今でも有志で補修を続けている、道がよくなってから、人や物の行き来が多くなり、村が潤い出すと、子爵様のセイサクってやつがいかに大事かって、皆が実感したんだ。


 補修してる有志の人たちは誇りを持ってるし、ボク達だって手伝いもする。

 しかし、街道整備にかかる費用って、いかに莫大なものかって事も、自分たちで補修するようになってから判ったよ、子爵様がどれ程、身銭切って下さったのか、ありがたいことだ。


 繁忙期には街道作って田畑を手伝ってと大忙しだったよ、その御蔭なのか、ニューラの季節には、子供があちこちで生まれたそうだ。

 なんだか、いろんなものが育まれていたようなんだよ。

 田畑の手伝いが一段落したあたりで、ボクは周りの男どもがソワソワしだしている事に気づきもせず、皆が華を愛でに行くと言っていた意味も理解できていなくって、休憩時に休憩していたらから、今も独り身だ。



 ドルさんと出会ったのは、ベンソンからカイルに向かう街道造りの時だ、彼の杭打ちのハンマーにチョットした装飾品を手慰みに付けてあげたら、大層喜んでくれて、「カッコイイカッコイイ」と、自慢していた。


 誰しもうらやむような装飾でもなかったので、その後に誰かから、付けてくれって依頼には残念ながら繋がらなかったよ。

 それに実用品に飾りを付けても、擦り減ったり壊れたら捨てられてしまう消耗品だから勿体ないって、さほどの興味は持たれなかったね。


 そうこうしている内に陽が昇り辺りがすっかり明るくなってきた。


 ベンソン村までは徒歩で3ガン、馬車に乗れば5アザンもあれば着くところだけど、馬車代の1大貨半が結構な痛手なもので、丈夫な足があるから歩いて行くことにしている。

 街道が整備されているから、馬車にさえ注意すれば、野犬や盗賊もめったに出ない、結構安全なんだ。


 森を迂回する大きな曲道に差し掛かった、道なりに進んでもいいが、ボクは森の中を突っ切り近道することにする、これで1ガンは短縮できる。

 もちろん帰りは、荷物が増えるんで道なりに帰るさ。


 森は危険だから、通る人も居ないし、整備もされていない、危険を承知で獣道を辿って行けば通り抜けられる。

 やっかいなのは獣や妖魔よりも、草や虫だったりする、下草の中に毒を含む草が生えていたり、小さな毒虫が足に食い込んで、歩けなくなることもある、取りつかれたことに気づかず、痛みを感じた頃には体内に卵が産み付けられていたりするんで、好んで森に入りたがる人はいない。


 だけど対策があるんだ、小さい頃におばあちゃん先生から教えて貰って、愛用している、独自の秘薬。

 毒のあるチョリス草と、春先に出てくるクレスの幼虫を磨り潰し、ゲレバの樹皮に塗りこんで脚絆に括り付ける、これで、毒虫対策になる。

 獣や妖魔もこの匂いを嫌い、好んで寄ってはこない。


 朝日も昇り始めたし、夜の生き物たちは、塒に帰る頃合いだ。



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第一話 隣村まで買い付けに


さて次回は

ポケットに穴が開いているブルダック爺さん。

サリュウス少年を驚かすつもりでポケットに仕舞って置いた、ロリグルの実が

一つ又一つと零れ落ちてゆく。

カラッポになったポケットと事態に気づかないブルダック爺さん、芽吹き始める

ロリグルの鋭い芽がブルダック爺さんの背中を狙っている。


可愛く悲鳴をあげるかもしれないサリュウス少年を思って楽しげに声をかけた

ブルダック爺さん、振り向いたサリュウス少年の奮闘が始まる。


次回「第二話 いざないの森」

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