アテもなく

三文字

アテもなく

 私がとあるストリートバンドだか何だかの男にナンパされたのも、散々な台詞とともに出て行かれたのも、大して今からそう遠くない数年前の出来事、いや遠くない過去なら去年かもしれない。別れた時に至っては半年前だった気もするけれど、その辺の記憶が今は曖昧だ。

 第一私の人生についてそんなきちっと自己紹介したいとは思わない。私がまた病み期に入って、軽くODして道端で倒れているのをたたき起こされた夜があって。確かそのあたりから、手のひらを返したように、一挙に暴言を吐かれるようになってきた気がするし、手も出るようになった。

 でも言ってる内容自体は割と間違ってはいなくて、酒ばかり飲むなとかちゃんと寝ろとか、仕事のことで一々悩むなとかいうこともその中には入っている。でもそういう一つ一つを矯正していける人間だったら今みたいな生活をしていることもない。

 全部その夜あたりから変わってしまったようだけれど、私の出会いなど前からそんなものだ。大して人気があるわけでもないが、商売で相手をしていると、たまにそういう変人が釣れたりする。何が目当てで付き合うのか不思議だが、結局私も同じなのだろう。ただ、傷を舐め合うというよりも私だけが傷を深くされているように感じるのは気のせいなのだろうか。

 ほとんど着の身着のままでどこかへ逃げて行った男の姿は何となく滑稽だった。男の方が意気地がないなと思いもしたけれど、そんなこともどうでもいいことだった。

 どうせ男としても出て行った矢先にまた別の女をひっかけてるのかもしれないが、私のアホみたいな生活にも気づかず付き合ってくれた頃が懐かしい。今日はそんな思い出をアテにして朝から何杯お酒が飲めるかな。

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