赤いボタン

相原梨彩

第1話

 20XX年9月13日、A国ではあることが行われようとしていた。


「いよいよですね」


「そうですね」


 大統領とA博士は公邸から外を眺めながら言う。


 外では今回の政策に反対するものたちのデモが行われていた。


「私は死ぬだろうからこの国の未来は君に託すよ」


「何言ってるんですか、私も死んでしまいますよ」


 そう言って2人は笑う。


 大統領は秘書を呼び寄せ最後の言葉を書き留めさせると博士に作らせたボタンを持って来させた。


「では行くぞ」


「はい」


「3、2、1」


 外のデモ隊の反対も虚しくカチッと赤いボタンが押された。


 

 その数分前から日本では中継が繋がれていた。

 

「────です。ここで臨時ニュースです。A国にいる斉藤記者。連日の騒動に何か動きがありましたでしょうか?」


「はい。A国では昨年から隣国のB国との戦争に加え近年の人口爆発で悩まされていましたがここで大きな決断をしました。A国は既に発表していた人民選別装置を発動させるとのことです。人民選別装置とは国民1人、1人最低1名憎んでいる人を勝手に殺してしまうという何とも恐ろしい装置です。特殊な爆弾が使われるということで即死すると思われています。範囲は地球全体ということで各国の首脳が現在協議を、あっ、今どこからかともなく爆弾がやって────」


 その瞬間ほとんどの住人が永遠に冷めない眠りへと入っていった。


 残されたのは全てまだ言葉も話せない幼児たちだった。


 保護者を亡くした幼児たちは誰かに助けてもらおうと泣き続けた。


 そしてその泣き声はいつしか止み地球には静寂が訪れた。



 秘書が書き記した大統領の最後の言葉にはこう書かれていた。


「我国は負けるくらいなら敵のB国の奴らや見放した他の国の奴らと共に自滅すると決めていた。がしかし、未来ある子供たちの未来を奪っては申し訳ない。そのためこの人民選別装置を使うと決めた。生き残った大人たちよ。どうかこの子たちを助けてあげてほしい」


 ここに書いた言葉は大統領の本心だった。


 が、この装置を思いついた大統領にも作りあげた博士も忘れていた。


 誰からも憎まれていない善良な大人などとっくの昔にいなくなっていたことを。

 



 










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赤いボタン 相原梨彩 @aihararisa

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