オールレンジャー

アチャレッド

レッドライダー

第1話『レッドライダー 起』

 僕は人間じゃないんです。本当にゴメンナサイ。

そっくりに出来てるもんで。よく間違われるのです。    

          RADWIMPS 棒人間 


 自分の拳は握らず相手の拳をいなす。

銃は飾りで武器はただ鍛え続ける肉体だけ。

多分滅茶苦茶危ないし実際何度か死にかけた。

けれどもその数少ない危険を国民に向けないのが警察の仕事なんだ。


 「よぉ!一狼。こないだは大活躍だったな。」

軽快な声が廊下に響く。

しかし声をかけらてた本人はゆっくりと振り向いた。

「ああ。そうだな。」

会話を弾ませずまた歩き始める。

声をかけた方も慣れた様に横に並んで歩いた。

「全くお前はクールだなぁ。S・A・Tのエースたる人間がさ。」

「……S・A・Tは基本的に活動していない時が一番平和なんだ。俺が活躍する場があるって事はそれだけ人々に危険を晒してるって事だろ。」

軽快な声とは反対に低く冷静な声で会話をする。

傍から見ればテンションが違いすぎて違和感があるだろうが本人達はこれが普通なのだ。

学生時代からずっと一緒にいる。

本郷一狼と鈴木界人の二人は親友なのだ。

 界人は慣れた様に明るく話を続ける。

「そんで?久々にお休みだろ?久しぶりに飲みでも行くか?それともハナコちゃんと会うのか?」

ヘラヘラと組んできた肩をゆっくりどかしてドアノブに手をかける。

「突然の休みだしハナも忙しい。残念ながら今日も訓練だ。」

休日にまで訓練宣言する友人に界人はふるふると首を横に振った。

「彼女の為に休日使ってプレゼントでも買やぁいいのに。真面目だねぇ。」

一狼はドアに開きながら界人の方を向く。

「お前こそ俺と飲むんじゃなく婚約者と一緒にいろよ。久々に一緒に休みもらったんだろ?」

クイッと顎を界人の後方に向ける。

界人も反射的に振り向いた。

すると視線の先、後ろで待っていたであろう女性はフゥ…と息を吐く。

「やっと気づいたわね。界人。」

その女性、鈴木愛佳はスラッとしたジーンズで廊下に立っていた。

「愛佳ぁ。今俺ね。一狼に振られたとこ。」

「あ。そうなの?じゃあ私とか誘ってみる?」

出会い頭にイチャイチャし始めた二人に一狼は小さく息を吐く。

「よそでやれ。」

「あ!一狼!」

呆れたようにトレーニングルームに入っていく一狼を呼び止める。

まだなにかあるのかとゆっくり振り向いた。

界人はニッと笑う。

「程々にな。無理すんなよ。」

優しく笑いかける界人に愛佳を優しく笑う。

「そうね。それに華子に連絡だけでもしてあげなさいよ。あなた筆まめな方じゃないんだから。」

今日もいつものように優しい友人達。

そして共に死地を乗り越える仲間でもある。

一狼はヒラヒラと手を降ってドアを閉めた。


 ある日一人の科学者は言った。

「本気でやれば改造人間、ヒーローは作れるんじゃないか?」

この一言は周りの類友に火をつけた。

最初はただみんなでワイワイと研究するだけだった。

しかし研究が進むにつれてみんなの思考が段々と一つの意思に寄っていく。

「本当にできるんじゃないか?」

エスカレートしていく研究を止める人間はいつの間にかいなくなり、ある日人体実験に手を出した。

その時点で多分、戻れなくなっていたんだろう。


 なんとなく二人に言われたし一報入れてみた。

そしたら思っていたより早くに連絡が帰ってきた。

忙しいだろうと思っていたが丁度今日は早くに終わったらしい。

柄にもなく緊張した面持ちで一狼は一滴も減っていないビールを眺めていた。

「……何してんの?」

聞き馴染んだ声で一狼はゆっくり振り向く。

「ハナ。」

一狼が名前を呼ぶと華子は嬉しそうに手を振り席についた。

「休み合うの久々だね。あ、私レモンサワーで。」

仕事帰りに直接来たのだろう華子はスーツのジャケットを脱ぎ椅子にかける。

ピシッとしたスーツ姿にタイトなスカート。

しかし普通のサラリーマンより華やかなその立ち姿は流石アナウンサーだなと思った。

「最近忙しそうだったからな。お疲れさん。」

華子のレモンサワーが届き小気味良い音がグラス同士で響く。

「うん!お疲れさん!」


 「ハァアアアア……。」

およそアナウンサーに相応しく無い大きなため息で机に突っ伏す。

「どうした。」

何杯目かわからないビールを口にしながら一狼は華子の方に目をやった。

華子は疲れをどっと流し込みながら右手で頬杖をつく。

「いやさぁ……最近変な爆弾魔の事件続いてるじゃん?『私は神だ!』みたいな犯行声明続いてるヤツ。あれの情報提供がもう凄くて……。」

「どうせ殆どデマだろ?」

クイッとビールを飲む一狼にピシッと人差し指を向ける。

「それが困るのよ!電話対応多すぎて若手の私まで駆り出されてる始末よ?なんとかなんないの?S・A・Tのエースぅ……。」

随分と酔いの回ってきた華子の前に水を置く。

「S・A・Tは警察とはまた違う部隊だからな。情報が出る度出動はするが肩透かしが殆どだ。」

一狼は大きな手で優しく華子の頭を撫でた。

「まぁそろそろ逮捕したい所だがな。あんまし長引かせても国民の不安を煽るだけだからな。」

 強くクールな男。自分に厳しく他人にも厳しい男だが時折見せるこういった部分に毎回心を慌ててしまう。

「うん……。」

昔からこの優しさに弱いのだ。

「………もう帰るか。」

「……そだね。」

お互いに忙しい。

しかしこうして時々会う度に再認識するのだ。

また会いたい。もっと一緒にいたいと。

一狼と華子は店を出て……夜は更けていった。


 緊急のサイレンが鳴り全隊員の表情が変わる。

慣れた様に武器を身に着け覚悟を決めた顔に着替えていく。

例の爆弾魔が出たらしい。

しかも全身には武装を施していて警官だけでは対処が難しいと判断され出動が決まった。

 プチッ

靴紐が切れる音がして一狼はパッと下を向く。

こないだ新調したばかりの靴のはずだが、厳しい訓練のせいだろうか。

 一狼はすぐに思考を切り替えて新しい靴に履き替えた。

「出動するぞ!」

細かい所はあまり気にしない。

それが良さでもあるのだが、今回ばかりはあまり良くなかった。

そしてそれを知るのはいつも全てが終わった後なのだ。


誰かが言った。

兵士は兵士という種族で人間ではないのだと。

誰かが言った。

国民の為に命をかける俺は現代のヒーローなのだと。

…………誰が言ったんだったろうか。


 乱射する銃弾を避けるように壁を背に転がり込む。

「界人!生きてるか!?」

潮風の吹く埠頭での作戦。

一狼と界人は二人で動く形で犯人に近づいていた。

あとから転がってきた界人はすぐに体勢を整えて一狼の方を向く。

「あたりめぇだろ。ったくあのヤロー随分楽しげに暴れてやがるな。」

壁から覗くように室内の中心を陣取る男を見た。

「………小泉政夫。ここ最近爆弾未遂事件を連続して起こしている。しかし今回ばかりは未遂でなく本物の様だな。」

中心に立つ男、小泉の胸には刻一刻と数値を減らしていくタイマーがあった。

「ああ……あんだけ武装してしかもあの表情はモノホンにちげぇねえ。」

経験値が疑心を確信なものに変えている。

そして一狼はその他の場所に配置する隊員達に合図を送った。

「……さっさと終わらせるぞ。」

「「了解!」」

 そこからはまるで筋書きの決まったドラマを見てるようだった。

訓練通りの動きを訓練以上にこなしていく。

諸外国に比べて死地の経験値の低い日本はこういった場面に弱いと思われがちだ。

だが彼らは違う。

S・A・T設立以来きってのエース隊員本郷一狼がいる。

一狼の的確な指示で動く彼らは瞬く間に場を制圧していく。

そして犯人が気づいた時にはもう仕事は終わっているのだ。

「私には神の声がぁあ!?」

小泉は押さえつけられる形で地に伏した。

そしてすぐに爆弾処理班が小泉に取り付けられた爆弾を解除していく。

「解除成功!」

カチンと音がなり爆弾は止まった。

誰もが事件は終わったと悟り遠目にいた報道もその旨を国民に伝える。

だがしかし押さえつけられる小泉は笑っているままだった。

「アハハハハ!神の声はまだ終わってないぞ!」

ガチン。

その言葉の締めくくりと同時に不気味な音が鈍く響いた。

すぐに全員が音のした一狼手首に視線を集める。

腕時計型の爆弾だった。

時間は三十秒を指している。

「まずい!解除してる時間がないぞ!」

処理班によるとこの爆弾はここら一体吹き飛ばす程の威力のある爆弾だという。

考えてる時間などなかった。

一狼はすぐに爆弾を手に取り走り出す。

「一狼!?まさかお前!?」

界人が手を掴もうとした時はもう手の届かない所に行っていた。

彼は誰より訓練をした優秀な隊員なのだ。

誰も彼のスピードには追いつけない。

「……走馬灯を見る時間もないな……!」

全力疾走の勢いのまま一狼は海へと飛び込む。

その様は美しく、一度たりとも訓練を怠らなかった男の死に様に相応しい天晴なジャンプだった。

なるべく爆撃を遠くに向ける為の大きな一歩。

「一狼おおおおおおお!!!」

水面がせり上がる程の大きな爆発は、地上にいる人間を誰一人として傷つける事無くただ重力のまま水滴だけが雨のように降り注いだ。

たった一人の英雄を犠牲にして。


 兵士は兵士という種族で人間ではないのだと誰かが言った。

国民の為に命をかける彼は現代のヒーローなのだと誰かが言った。

しかしその彼には称賛も賛美も感謝すらも届かない。

本郷一狼、享年二十五歳。

彼は死して歴史に名を残した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る