【お役立ち度1】書きたい人のためのミステリ入門

おもしろさ5

読みやすさ5

お役立ち度1

いとおしさ2

おすすめ度2


新井久幸著 新潮社


●特徴

 本書は、ミステリの新人賞の選考を担当されている編集者様の書いた指南書です。特徴としては、とにかくアツい。筆者の新人賞や作品に対する熱い思いがぎゅっとつまっています。


 指南書といえば、


 こんな技法がある→その技法が使われている作品はこれ


 という流れが一般的ですが、その作品紹介の部分のボリュームがすごいです。古今東西のミステリが紹介され、仮に本書に登場する作品をすべて読んだなら、「ミステリとは何か」という難しい命題の答えにかなり近づけるのではないかと思います。



●良い点

 とにかく読みやすい、というのが挙げられます。筆者(私)はあまり読書は得意ではないのですが、つるっと1冊読めてしまったくらいには読みやすいです。


 文章も軽快で、指南書によくある「偉い先生の上から目線」な感じがないのもポイント。


 本書では大量のミステリ作品が例示されますが、そのトリックや結末はすべて伏せられています。これから読む人にとって、ネタバレ配慮があるのはうれしいですよね。


 また、著者がプロの編集者ということもあり、過去に新人賞に応募された「よくあるタイプの駄作」もときどき紹介されるのですが、かなり説得力があります。とりあえずミステリ作品を書いてみてから本書を読み、ダメ出しされた箇所があれば書き直してみるのもいいかもしれません。



●悪い点

 とにかくタイトル詐欺のひとことに尽きます。


 本書は「いい本にはこんな特徴がある」→「そんな特徴を持つ作品はコレ!」を延々と繰り返すまとめ本です。全然「書きたい人のための」本ではない。筆者のミステリの歴史にたいする分析力は素晴らしいですが、分析の域を出ないところが痛いところ。


 初めて読んだのがこの本でよかったと思えるほどのタイトル無視。いとおしポイントが高いです。「書きたい人のための」と謳ってはありますが、書きたい人のためのスキル、心構えといった説明はたったひとつしかありませんでした。


 そのひとつをご紹介します。タイトルのつけ方の項目で、「他人の作品に本に自分がタイトルをつけるならどうするか考えてみよ」という練習方法が提示されています。たしかに、説得力のある練習方法ですね。私もやってみます。本書に私がタイトルをつけるならば、「構造的に読みたい人のためのミステリ〇選」にします。


 悪い点のまとめとしては、いわゆる「タイトル詐欺系自己啓発書」の小説指南書バージョンといったイメージを持っていただければと思います。


 綾辻行人先生の推薦文「僕もこの本を読み込んで再入門してみようか、と思います。」が皮肉に見えてきますね。



●まとめ

 ほかの方のレビューでは「著者が自分の知識をアピールしたいだけ」というものもありましたが、個人的にはそこまで悪意を持って書かれた指南書ではないかなと思います。

 少なくとも、本書を読めば様々なミステリをまた別の視点から深く楽しめるようになると思います。


 また、小説指南本あるあるとして、「とにかく書いて読みまくれ」というものがあります。ミステリを書く上でどんな作品を読みまくればいいか困っている方には重宝するかもしれません。

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