『わからず屋の女達』
風猫(ふーにゃん)
連続短編小説 『わからず屋の女達』
第1話 「わからず屋の女達1」 愛美
「 · · · 、きみはずるいよ。」
彼女への、最後の別れの言葉のつもりで、そう送ったメールが彼女のプライドを刺激したのか、電話料金を気にしてメールばかりでめったに架けて来ない携帯電話に着信が来た。
「ずるいってどういうこと? ずるいつもりなんてないけど。」
僕はしばらく押し黙り、それから言った。
「ずるいじゃないか。」
愛美も押し黙り、たぶん彼女は僕からの仲直りの言葉を待っていたようだが、
「さようなら、ありがとう。」
彼女が最後にそう言うと電話は切れた。
彼女とは、半年前に知り合った。
転勤したばかりで誰かと話したくて、伝言ダイヤルに電話した相手が愛美だった。
ひょうきんな口調でわざと関西なまりを使って話していたのは相手を警戒しての彼女なりの防御措置らしかったが、僕は親しみを感じ、二度三度と話すうちに打ち解けていた。
「どこか遊びに行こう。」と誘った。
彼女は、「自分はかわいくないし、きっと会ってもがっかりするよ。」
そんな言葉を重ねて、会うのをあきらめさせようとしたようだ。
北国の0《オー》市の郊外に住んでいて、不便な所だし車もないから、車で迎えにきてくれるならとの返事だった。
東京へ転勤するときに車を手離していて、舞い戻ってまだ車がなかったから、レンタカーを借りて彼女を迎えに行った。
待ち合せのバス停に着き、彼女の携帯に電話すると、今、行きますとの返事で5分位も待った頃、現れたのは、小柄で少しかげりのあるかなりの美人だった。
僕を確かめると少しもためらわずに助手席に乗り込み、「驚いた?ごめんね、嘘つくつもりじゃなかったんだけど」そう滑らかな標準語で初めて話した。
それから、僕たちは0市の観光めぐりをし、昼食を共にした。
昼食の席で彼女は「メール使える?」
「使う相手がいないから使ったことがないよ」と言うと、携帯を持つ僕の手を取り、メールの操作を教えてくれた。
そして、まなみの文字が愛美であること、『まなみ』とかな打ちすると、ちょうど僕の誕生日に一致する偶然にも密かに驚いた。
そして、夏の終わりに最後となった幾度目かのデートをした。
I市にある遊園地へ出かけ、彼女が二人乗りのゴーカートに乗ろうと言い、運転が彼女で手持ち無沙汰にしていると、急にブレーキをかけ、「デートなんだからこうしてて。」
そう言って、僕の手を取り彼女の腰に回させた。僕は彼女がそんなことを望んでいないと思っていたので驚いたけれど、少しは親しみを感じてくれているのかと安堵した気持ちだった。、
彼女は、デートの合間に生い立ちや一年で離婚した経緯をおぼろげに話してた。
彼女が結婚した相手は、旅先の京都で出会った関西の男だという。
結婚して彼女の住む北国O市に住んだが、1年目の冬に寒い寒いと震えて過ごし、関西へ帰りたいと泣くので、翌年帰してあげたのだという。
それから彼女はスナックで働き、酒びたりの日々だったが、お客の中の会社の社長が、こんな生活を続けていたらだめだと諭してくれて、自分の会社に雇ってくれたそうだ。
ところが、その社長との不倫の噂が立ち、そんな孤独な状況で僕と出会ったようだ。
その日の帰りに掃除機が壊れたからといい、ホームセンターへ寄り道してほしいと頼まれ、売り場で1万円の予算しかないと言うので、少し高かったが僕が買ってやった。
その次にデートに誘うとしばらく仕事が忙しく、当分デートできないという。2ヶ月余して再び誘ったが、週末は知人のクルーザーで遊びに行く予定があるという。
そして僕は気付いた、彼女は不倫を続けているのだと。
あとで思ったが、彼女は僕に奪ってほしかったのかも知れない。でも、そんなことはできない、僕という個人の男を好きになってくれなければ、愛ではなく、それは誰でもいい優しさを求めているに過ぎないと思うからだ。
僕の愛する気持ちに答えてくれない女を、愛せるもんか。
こうして、愛美との短い夏の恋は終わりを告げた。
今年の夏も、あの陰りを帯びた面影で、
あの夕暮れの街で暮らしているのだろうか。
(初めてだけど、仮想恋愛のつもりで小説として書いてみました。批評や感想のコメ貰えたら嬉しいです。)
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