白線
深川 夜
白線
昼下がりの駅のホームは人でごった返していた。私は、ベンチに座って行き交う人をぼんやりと見つめる。スマホ片手のサラリーマン、子供連れのお母さん、化粧の派手なお姉さん。色んな人が、電車に乗ったり、降りたりしている。時折、ちらちらと目線を感じた。そりゃあ平日の昼間に、セーラー服姿の女子高生が、電車に乗るでもなくベンチに座っている姿はちょっと異様だろう。そもそも学校は?という話である。まあ、もっともだと思う。どうでもいいけど。
死のうと思っていた。死のうと決意した時、どうやって死のうかあれこれ考えた。何となく、電車がいいなと思った。死ぬ時くらいは自分の思った死に方がいい。
思えば自分の意思は何一つ尊重されない人生だった。親の敷いたレールで走り続けるのが当たり前。良い結果を出すのが当たり前。僅かでも外れたり、違うことを言えば、存在自体を否定される。そういうのはもうまっぴらだった。「生きていればいい事がある」なんて、生きていていい事があった奴にしか通用しない。自己決定権を失い、常に他人の顔色をうかがいながら生きていくというのは、人が想像する以上にストレスなのだ。自分が無くなっていく感覚。空っぽを自覚した時の胸の詰まる感覚。叫びたくても叫ぶ言葉すら失った私の行き着いた先。死ぬという選択。人生の終点。
そんな事を思いながらホームに通い詰め一週間。電車が来る度に白線に立つ。踏ん切りが付かずにいた。やはり死ぬのは怖い。でも、生き続けるのも怖い。白線に立つ度足がすくんだ。ここまで来ても優柔不断な自分がたまらなく嫌だと思った。
何度目かのチャレンジ。電車到着のアナウンス。遠くにこちらへと向かう電車が見えた。次第に近づく電車を前に、白線の上に立つ。そしてふと、同じように白線に立つサラリーマンを見つけた。中年を過ぎたあたりだろうか。くたびれた背広を着ている。彼もまた、私に気がついたようだった。そして、悲しそうに首を横に振った。力の無い微笑み。
瞬間。
私は、白線の内側へ。
サラリーマンは、白線の外側へと身を投げた。
警笛音とブレーキの音。誰かの悲鳴があちこちから聞こえる。私は、その場に座り込んだまま立てなかった。アナウンスがホームに響く。スマホのシャッター音も、あちこちから聞こえる。舌打ちする音。すごいものを見たとはしゃぐ声。無性に悲しくなった。無性に腹立たしくなった。ぼたぼたと、白線に涙が落ちた。
サラリーマンの力無い微笑みが頭から離れない。死にたくなくなった訳では無い。今でもやっぱり、生きているのがどうしようもなく辛くなる時はある。それでも――、あの微笑みを忘れない限り、私はきっと生き続けるのだろうと思う。
人生の終着駅はまだまだ先らしい。私は今日もレールの上を走っている。ほんの少し、期待から外れたレールの上を。
白線 深川 夜 @yoru-f
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