転生ヤマアラシガール! 〜異世界で初恋の王様の近衛隊長になる〜

秋雨千尋

第1話 針毛無双

「それでは雨乞いの儀式を始めます」


 真剣な表情で見守る民衆に礼をして、渇いた大地に向かって歩いていく一人の少年──。

 陽の光を浴びた金色の髪は眩しく輝き、真ん中分けにした前髪ゆえに端正な顔立ちがよく見える。長く伸ばした後ろ髪は黒いリボンで結ばれて、歩くたびに尻尾のように揺れている。

 水色と黄緑色の絵の具を混ぜ合わせた途中のような不思議な色の目は、じっと上空を見つめる。


 シャン、シャン。


 彼は鈴の付いた長いヤリをクルクル回しながら、部分的に透けているシルク生地の衣装をヒラリヒラリと揺らして、踊り始める。

 日照りが続き、壊滅の危機にさらされている田畑を救うための大切な儀式、なのだが──心無い者達のイヤな視線を感じる。

 民衆の背後、木の影に在るそれらを排除するのは私の仕事。


 シャン、シャン。


 背後に回って首を刺す。すぐさま隣の頭を刺す。

 異常に気付いた時にはもう遅い。悲鳴をあげないように喉を刺す。腕を刺す。足を刺す。心臓を刺す。

 敵側に援軍がやってくる。ええい面倒だ。一気に片付けてやる!

 私は全身に怒りのエネルギーをまとう。


《私のミュゼ君を、イヤな目で見るなああ!》


 背中から生えている自慢の針毛を、瞬間的に三メートルに伸ばして、一気に十人貫いた。

 命をなくした肉の塊がバタバタと崩れ落ちていく。


 仕上げは先輩におまかせ。彼女はウインク一つ飛ばして死体をどんどん燃やしていく。さすがキツネ。汚物は消毒、証拠は隠滅。我らが王の歩む道に、穢れなどありはしない!


 シャンッ!


 踊り終えた少年のおでこに雫が一粒落ちてきて。

 やがてザーザー降りになった。びしょ濡れになりながら空に敬礼をした彼は、喜び沸き立つ民衆一人一人と笑顔で握手をする。


「チェリー、ラズベリー、帰ろうか」


 私の「はーい」は、彼からはキュウという鳴き声に聞こえる。

 お仕事完了。さあ帰りましょう。国で一番高い場所にある、彼の住む王城に。


 私は初恋の王様のために戦う近衛兵ヤマアラシ。

 名前をチェリー。

 中身は日本人の中学三年生だ。


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