競走馬列伝 シャドーロールの怪物 ~ナリタブライアンの生涯~

武 頼庵(藤谷 K介)

第1話 英雄生れ落ちる

 春というにはまだ冬の影響の残る5月、北海道新冠町にある早田牧場にて1991年の5月4日に、父馬ブライアンズタイム、母馬パシフィカスの仔としてこの世に生を受けた。


 ナリタブライアンという競走馬を語るうえで、この父馬と母馬の事に触れないわけにはいかない。偉大な兄弟に偉大な両親ありなのだから。


 父馬であるブライアンズタイムは、ナリタブライアン誕生の地である早田牧場が中心となって結成されたシンジゲートによってアメリカから輸入された種牡馬である。シンジゲートとは簡単に説明すると、法人としてその種牡馬の保有権を持ち、種付け権=自社株という形で購入者を集めて販売。その株の共同所有者とする形態の事。詳しく書くともっと色々と細々したことが有るが、ここでは割愛する。種付けの保有権を株数だけみんなで持っていると考えて頂ければいい。その種付けにおいて得られた収益なども共同体であるので株保有者に分配される仕組みである。


 そしてナリタブライアンはブライアンズタイムが導入されたその年(1990年)に種付けされた初年度産駒という事になる。


 実はこのブライアンズタイム、今はSS系と呼ばれるほどに流行しているサンデーサイレンスと同系統のヘイルトゥリーズン系であり父はロベルトで、同馬とは同年代で活躍した競走馬だった。残念ながらサンデーやシガーといった強豪には今一歩及ばなかったが、実力的には十分なものを持っての日本輸入だったのだ。


 変わって母馬であるパシフィカスだが、こちらは英国産馬。ブライアンズタイムが輸入される2年前に早田牧場がイギリスにおいてセールにて購入していた繁殖牝馬である。購入した時にはすでにその当時無名の種牡馬であったシャルード(父父カロ・フォルテノ系)の種がついており、破格の約520万~530万円(3万1千ギニー)にて落札された。この時お腹の中にいた仔馬こそが後のビワハヤヒデである。当時はノーザンダンサー系の繁殖牝馬隆盛時代であり、パシフィカスもその血統の良さを見込まれての輸入だった。


 牧場側の思惑がどうだったかは分からない。しかしこのシャルード産駒も後にG1馬となるのだから血統のロマンを感じる。


話は戻ってナリタブライアンだが、後にファンの間でナリブ又はナリブーと呼ばれることになるので、ここからは筆者の呼称であったナリブーと呼ばせていただくことにしようと思う。


 このナリブーであるが、生まれた当時と仔馬時代はそんなに期待はされていなかった。というのも当時の早田牧場長や、早田氏の話によると「誕生してからしばらくの間は、これと言って目立ったところの無い、いたって普通の仔馬」だったというのである。

 その後にはぐんぐんと体躯的に成長していき、成長と共に競走馬としての評価も見直されて行った。その証左として当時のナリブーの調教を担当していた職員の話に「背中の柔らかさ、足元のばねによる俊敏性においては兄(ビワハヤヒデ)を超えるそしつがあるとおもう」と語っている。

 仔馬時代の事にはなるが、その当時を語るエピソードとして、牧場内にある斜面を他の仔馬たちと駆け上がったり下りたりする運動後には、仔馬は息が上がったりして呼吸が荒かったりしていたりする仔馬の中、ナリブーだけは息も荒くすることもなく平然としていたというようなモノもある。


 その競走馬としての能力の高さとは違い、性格の方はというと、後にG1を取るような馬たちの性格が荒そうだとイメージされる方もいらっしゃるだろうが、実はこのナリブーはというと、ほぼ真逆。水たまりに驚き騎乗者を振り下ろしたり、自分の陰に驚いて暴れたりとかなりナイーブな性格だった。


 そんなナリブーも成長と共に競走馬としての道を歩むことになって行くのだが、ここにも兄ビワハヤヒデとの面白いエピソードが残っている。



 ナリブーは庭先取引により、山路オーナーに購入され、中央競馬会の大久保正陽厩舎に入厩することが決まったわけだが、実は大久保氏は「ビワハヤヒデの活躍がもっと早くから始まっていたらウチには来なかっただろう」と語っている。

 それは当時の兄ビワハヤヒデはクラシック戦線において活躍しておらず、その半弟であるナリタブライアンの能力に懐疑的な方が多かったから。もっと先に兄が活躍し始めていたら、その血統と成績をもって有力厩舎に引き取り手が決まっていた可能性が高いのだ。


 そしてナリブーは大久保厩舎へと入ることになるのだが、実はこの時ナリブーのオーナーは山路氏から大久保氏に代わっている。これは家畜取引商と仲介の元に山路氏と交渉。値段を2000万~3000万の間で交渉し、決定した値段より値引きしていただいて購入したと後に語っている。


 こうしてナリタブライアンとしての一歩を歩き始めた。


 ※後書き

 お読み頂いた皆様に感謝を!!



 作中には競馬用語が出てきますが、良く分からない方もいらっしゃると思います。

 そんな時はお気軽に作者までメッセでもいいので聞いてください。

 なるべくは感想欄はそのようなことに使いたくないので、よろしくお願いしますm(__)m

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