06
迫りくる電車はときどき、線路から車輪が外れて僅かに浮いているのが見えた。
グボオオオォォォォッ!と海獣じみた叫びと共に、車両はこちらに猛進してくる。
さきほどの闘いの報復をしにやってきたのだろう。
「突っ切るよ!!」
「う、うん!!」
先頭から最後尾までには、後続の車両がいくつも連結されていて、だいぶ距離がある。これでは、滅苔灯の光は届かない。
ミオンとセーラは限界の域までスクリューを稼働させ、全速前進で泳いでいった。
電車は二人の後方にぴったりと張り付いて離れようとしない。
やがて目まぐるしい速度で進む二人の行く手を阻むようにして現れたのは、ガラクタのバリケードだ。あたふたする余裕もない。
このままだと押しつぶされてしまう。
「テクノイド、助けてっ!!」
ミオンは咄嵯の判断で叫んだ。
ミオンとセーラの懐中時計は一瞬にしてテクノイドと化し、レーザービームでガラクタを蹴散らした。二人はその際に貫かれた穴を通り抜けてバリゲードを突破する。
けたたましい轟音。
電車は散ったガラクタを巻き込んでひしゃげて尚、止まらない。
トンネル内ではいつまでも電車が金属音をたてながら走っている。
執念深く、徹底した明確な殺意。
それが二人に向けられていた。当分諦めるつもりはなさそうだ。
「ミオン、前からも電車の音がっ!!」
「うそっ!?」
ミオンが耳を澄ませば――、嫌な音がしてきた。
車輪がガタンガタンと振動する音。
段々と、音は着実にこちらに迫ってきていた。
「どうにかして――そうだ、非常口っ!!」
「非常口!? ドアを探せばいいの!?」
不測の事態に備えてトンネル内には一定間隔で非常口が設置されているはずだ。二人は壁面をよくよく注意して見続けた。
すると、運は二人に味方をしてくれた。
遠くの壁に非常口のピクトグラムが見えた。
その隣には黒い扉が備わっている。
あそこにさえ、入ることができれば――、
ミオンはセーラの手をぎゅっと握りしめた。
トンネルの奥に車体のボディが浮かび上がっている。
ここで失敗する訳にはいかない。ミオンは一心不乱にそこを目掛けて突っ切り、扉を蹴り飛ばした。今に電車との距離が数メートルにも満たないところで、身を委ねるかの如く飛び込んだ。
刹那。二人の背後で凄まじい衝突音が響く。
勢い余ったミオンは地面に転がり落ちて、セーラは壁にぶつかって静止した。
痛みよりも安堵感が強かったのか、二人はほっと胸を撫で下ろす。
セーラに限っては、顔が真っ赤に腫れていた。
「ここは――?」
セーラの言葉に感化されたように、彼女に続きミオンは辺りを見渡した。
少し水が冷たい。あみあみの足場の下に広がる空間は地中深くまで続いているようで、そのまた昔、空調設備に加え、避難経路として使われていたみたいだ。
部屋の隅には階段があった。壁にはパイプが走っている。
「今、私達がやってきたところは塞がちゃったし……ここを降りていくしかなさそうだね。出口も他に見当たらないみたいだし」
「あれ、これは?」
「どうしたの?」
セーラの指差す先には、壁にQRコードが貼られていた。どうやら読み取ること地下通路の地図を表示できるらしい。だが、ミオンが読み取ると、『404 not found』とエラーメッセージが表示されてしまった。リンク切れのようだ。
「セーラ、足元に気をつけて」
ミオンとセーラは階段の一段目に降りた。
階段を下ていくにつれて、ひんやりとした水が二人の体を包み込む。足の裏から這い上がるような冷たさを感じながら、更に下へと向かっていく。
最下層までたどり着くと、通路が続いていた。
二人はゆっくりと歩を進める。
「ミオン見て。壁にいっぱい窓があるよ……うー、何か出てきませんように」
二人が歩く通路には窓が無数にあり、外の様子が見えた。
その向こう側は薄暗く何が映っているのかわからない。二人は警戒しながら進んでいく。窓の外では時折り、ニュルニュルと真っ黒な影が伸びていた。
二人はソレに全く気づけていない。
通路の壁面にはちらほら小さな傷が見られるようになった。
奥に進めば進むほど、通路の劣化具合は深刻になっていく。足元にはゴミや砂埃が溜まり、壁には亀裂が入っている場所もあった。
そして不意に通路は途切れてしまっていた。
これまで一本道のように続いていた通路は陥没し、そこから地下深くへと続くような大穴が広がっていたのだ。
「うわあ……すごい」
セーラが恐る恐るといった感じで下を覗く。
大穴の底には、電車やら自動車やらの残骸が大量に沈んでいた。海の
「きっと海流で流されてきたんだろうね……」
夢中になって下を覗き込む二人。
世界中にこのような、海流によって集められたもの達の溜まり場なるものが存在しているが、やはりいつ見ようとも絶景だ。二人は熱心に見入っていたが、
その刹那――、グワンッと周囲が激しく揺れた。
通路が崩れたのだ。はらりと身が翻ったミオンの瞳に映ったのは、夥しい数の吸盤が張り付いた触腕だった。
彼女がその姿を瞳に捉えた矢先、ちょうど触腕は二人に襲いかかる寸前だった。
ただちに滅苔灯を構え、ミオンはフラッシュを御見舞する――。
ゴゴゴゴオオ……!!
その咆哮に合わせて下方に広がる溜まり場が波打つように動き出す。
ガラクタの山を突き破り、現れたのは三本の触腕だ。そのうちの、先端がへらの形状をした一本が二人を潰しにかかる。
「
ミオンがそう叫ぶと、滅苔灯の光は瞬く間に収束し、一本の刀身に転じた。
滅苔刀だ。スクリューを回転させて勢いをつけてからそれを振り上げ、迫り来る触腕に叩きつける。ズバンッ! という音とともに、触腕の先が斬り落とされた。
切り落とされた断面は滅苔灯の効果で真っ黒に染まった。
ゴオォォォォ!!!!
だが、それで終わりではない。
ミオンは二本目、三本目と迫りくる触手に斬りかかった。
海鳴りがする。すると、底から身を削ぐほどの海流が巻き起こった。
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