第12話
全滅したキルサ軍の後処理がカシス主導で進められていた中、彩葉は勝鬨の声を聞きつけて居住区から出てきた民たちと交流を図っていた。
『ガーランド』におけるギルム国の動きとして鉄板なのは、民の信仰心を高めていくことだ。そうすることで味方の士気を高める聖剣の初期スキルのアイソレートが強化されるし、聖剣信仰の流布によるゲームクリア条件にも繋がる。
民の信仰心を高めていくために様々な施策こそ取れるが、まだ文化や資金も乏しい序盤では王が直接足を運んで聖剣を見せていく方が早い。国が発展し人数が増えていくにつれてそれは効率が悪くなってくるが、まずは民一人一人に時間を割くことが大事だ。
その序盤特有のコツコツ作業は彩葉含め、好きなプレイヤーは多かった。『ガーランド』はキャラデザから声優までかなりこだわりが強く作られているため、自動でランダム生成される民たちのレベルも高い。
そんな世界で聖剣を引っ提げて単に剣を掲げるだけの『祝福』なるものを授ければ、教祖様でも見るような目で美男美女は勿論、ロリショタから熟女イケおじなど幅広い民からありったけの感謝を向けられるのだ。慣れてくれば信仰を上げるための作業になるとはいえ、その光景を見るために祝福を授ける者も多かっただろう。
(美男美女どこいった……)
だがそんな認識の合った彩葉の下に寄ってくるのは未だにコルコの祖父のように聖剣を信仰し続けている、二次元なのに瑞々しさが抜けた年寄りがほとんどだった。中には子供もいたがギルム国の現状を伝えるが如くやせ細っていて、思わず目を背けたくなるような者たちばかりだ。
『ガーランド』ではそれこそ今もキルサに捕らえられている虫人の女王のように、プレイヤーが進んで救ってあげたいと思ってしまうような外見や立場を持っている者が窮地に陥っているシチュエーションは多い。
とはいえ盗賊に襲われている馬車に乗っている者が何の立場もない中年男性だとしたら、果たしてプレイヤーは助けるだろうか。それが現実ならばまだしも、ゲームの中ぐらい盗賊に襲われている馬車には多少の立場がある美少女がいてほしいものだ。
(後進国のボランティアみたいだな。やったことないけど)
今も彩葉の目の前にいる四肢のいずれかを欠損している物乞いや、何百日も風呂に入れず汗と油が煮詰まったような臭いのする子供なんてゲームなら描写すらされない存在だろう。
乗馬でお尻が痛くなったり、敵兵が死んでいく様の生々しさだったり、コミケよりも臭い民たちからして、これが十中八九ただの夢でないことを彩葉は理解し始めていた。最後の望みとしては翌日が来るかといったイベントこそあるが、もう夢オチの期待は薄い。
(意外と悪くないもんだな)
わざわざ二次元で小汚い不細工や、目を背けたくなるほどやせ細った子供など見たくもないと思っていた。実際一目民たちを見た時は引き攣った顔になっただろうが、いざそれを目の前にした彩葉はさしたる嫌悪感も抱かず、粛々と民たちに祝福を授けて回った。
それだけで今にも死にそうな老人は生気を吹き返したような目になり、自身の不幸な環境を知る由もない子供たちは無邪気に喜ぶ。イケメン美女のbotからは感じられなかった現実みたいな情報量が、彩葉にとっては新鮮で面白くもあった。
(……まぁ、ここまで追い詰めたのは実質的には俺なんだけど。何というマッチポンプ)
ただギルムの民たちがこんな有様になったのも自分が『ガーランド』で縛りゲーをしたからだと仮定すると、散々追い詰められた民たちをちょっと救っただけで良い気になるのは相当におこがましいことだろう。
だが彩葉からしてもまさか縛りゲーの『ガーランド』が現実っぽい世界として具現化するなんて夢にも思っていなかったので、正直なとこと罪悪感はほぼ皆無だった。嘘だろ、というのが正直な感想である。
しかしこの調子でキルサに攻め込まれれば、王である自分は断頭台に送られることとなるだろう。まずはそれを避けるのが第一だが、そのついでに民の環境を少しでも良くしてあげたいと思うくらい、彩葉はこの世界を現実的に見始めていた。
(まずは民の困窮をどうにかしないとな。衣食住を揃えないと信仰もろくに上げられないし、兵士も増員できない。とはいえ大半の領土はキルサに取られてる以上、食料の生産は物理的に上げられない。まずはウルズ領との取引で仕入れるしかないな。虫人は無力化できたとはいえ、この戦力で侵略強いられるの厳しい~)
この追い詰められた領土では食料の自給すらままならないので、少しでもキルサから領土を取り返す必要がある。そのための準備や作戦を『ガーランド』に則して考えながらも、彩葉はコルコが訪ねてくるまで民たちに祝福を続けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます