Day1-3 わがまま王女と
キルシュは剣術の稽古があるとのことで去っていった。
ネレアとは違い腰が抜けることはなかった。さすが騎士。
「また会おう。そして、貴殿が危険な時には必ず助けに行く」
こんなセリフを言い残して。
ヤダ、イケメン。
―――――
1日目・午後
「じゃあ、次は迎賓館を見に行きましょうか」
なぜかベルデが案内役になっている。
どこか行きたい場所があったわけではないので、別にいいのだが。
迎賓館とは、社交パーティーが行われたり、他校の人間や位の高い生徒の親をもてなしたりするところらしい。
学校と言うか国家みたいだな。
まるで王宮のような豪華な建物の前には円形の泉があり、中央には王国の始祖・初代国王の像が立っている。
「なん……だと……」
「すごく……大きいです……」
何となくベルデと漫才みたいに、始祖の像を感想を述べていた。
すると
「貴方はこの学園の新入生かしら?」
見るからに高そうなドレスを着た女の子から声をかけられた。
後ろにはメイド服を着た女性が二人控えている。
「驚かせてしまったかしら、悪かったわね」
僕は驚いていないが、ベルデが滅茶苦茶驚いた顔をしている。
ウケる。
「あら……貴方は私のこと分からないの?」
ベルデが口をパクパクして何か言おうとしている。
何だろう?
ジェスチャーゲームかな?
(ヒロト君はこの国の王女様を知らないんですか?)
王女様?
知らんよ。
この人がそうなの?
「まあ、いいわ。貴方の事を私の家来にしてさしあげましょう」
「家来……?」
「喜びなさい。こんなことはめったにないのですわよ。特別中の特別よ」
「……すみません、ちょっと家来にはなりたくないです」
「何、嫌だっていうの!?無礼もいいところね」
騎士学生の次は王女様にキレられてしまった。
傑物にニラまれるのは怖かったが、可愛いお姫様にニラまれてもあまり怖くない。
「アルナ!エルナ!この者に分からせてやりなさい」
後ろに控えていたメイド服の二人に命令する。双子だろうか。
「私に逆らうなんて覚悟はできてるんで……がっ!」
言い終わらないうちに、二人にのメイドによって王女様は地面に組み伏せられていた。
赤いリボンをしたメイドが右腕を、青いリボンをしたメイドが左腕を抱え込み、両サイドからの脇固め。
そうなると顔面が地面に思い切り押さえつけられるわけで。
王女様は完全に土を食べていらっしゃいます。
「ぺっぺっ!ちょっと貴方達、どういうつもり……痛い痛い」
「大変ご無礼を致しました」
「大変ご無礼を致しました」
メイドの二人が僕に向かって謝る。
「二人とも、どういうことよ!今までずっと忠実だった貴方達が……」
「……黙れこのメスブタ!」
「……は?貴方、この王女に向かってなんてことを」
「私共はどんなことがあろうと王家に忠誠を誓って参りました。ですが、人の上に立つものとしては絶対に越えてはいけない一線というものがあるのです。お前はそれをやってしまったんだよ!」
「え……私は何か革命不可避レベルの横暴を働きましたか?」
二人のメイドは僕の方に向き直った。
「私、王女付きのメイド兼護衛のアルナと申します」
「同じくエルナと申します」
「どうも」
「我が主、今からこのメスブタを処刑いたします。どうかお怒りを静めください。もし、それでも怒りが収まらないのであれば、そのあと私共も首をかっきってお詫びいたします」
もうこの展開についていけない……。
「何で僕が主……?って言うか、怒ってないよ」
「何と心の広い」
「何と心の広い」
メイドの二人が感涙している。
「しかし、このメスブタには……」
「王女レイナ様でしょ」
「処刑の代わりに、この王女レイナには今からしつけをいたします。ですが残念ながら、私共は女ですので折檻棒を持ち合わせておりません。お手をわずらわせて大変申し訳ないのですが、我が主様の折檻棒をお借りすることはできませんでしょうか?」
こっちは全然何も言っていないのに事が運でいく。
王女は泣いている。
メイド二人は王女のお尻を思い切りたたいている。
「もし、お借り頂けないのであれば……仕方ありません、その辺に落ちている木の棒でも突っ込んで、王女様には反省を促すことにします」
「貸します。貸しますからそんなことやめてあげて」
不承不承、嫌々ながらお姫様とやらかした。
―――――
「我が主様、お疲れ様でした。しかし、この女はまだ反省が足りないようでございます。これから毎日、我が主様のもとに謝罪のためにご訪問することをお許し下さい」
「いや、毎日来ないで?」
「では、3日おきに参ります」
「3日おきでも来ないで?」
「では、1週間おきにまいります」
「いや、来なくていいから」
「エルナ。やはり、我が主様は相当にお怒りのようです。王女を処刑した後、自害する覚悟はできていますか?」
「アルナ。仕方ありませんね。覚悟はできています」
「分かった!分かったから!来てもいいけど、もう王女様をいじめなくてもいいからね」
「……かしこまりました」
「……かりこまりました」
―――――
「ふう、なんだったんだ。あいつらは」
「おい、それは僕のセリフだ」
最初は面喰っていたベルデだったが、途中からは楽しそうにお姫様がいじめられる姿を堪能していた。
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