いつか叶うなら
海原シヅ子
たった一言好きと言って欲しかった。
部屋の空気は澱んでいる。前の客が喫煙者だったのか、どこかヤニ臭い。
俺の隣で寝ている女は…確かリオ。いや、サオリか…?覚えていない。
時計はa.m2;58。
俺が愛されたくて抱いたのに、結局この女が俺に愛されただけで終わった。
幸薄げで、少し地味で、愛された経験の少なそうな女ばかり抱いているとなんとなくわかる。
愛された経験のないやつほど、よく愛してくる。縋りついてきているのだろう。
愛してきたやつを何度もリピートして抱いていると、愛がそのうち依存になり、執着になる。
依存をキープできるのがちょうどいい。
簡単には離れないということ、こちらへ攻撃してくることが少ないという安心感があるからだ。
女は、消耗品だ。状態が悪くなれば捨てればいい。
綺麗事とか倫理観とかは知らない。俺はただ愛されなかった分、愛されたいだけなんだ。
俺の親は、いわゆる毒親だった。
成績オールAが常識、スマホは1日1時間(高3になった今もだ)、遊んでいい友達は成績のいい子だけ、帰宅後予復習4時間は当たり前…。
高校になったあたりから親がおかしいことに気づいた。
頑張っても褒めてくれない、愛されている実感がない。
いつも虚しかった。それだけやっても俺に価値はない。何をやっても無駄だと。
だが、ある日気付いた。
俺は顔がいい。
くっきり二重で、鼻は細長く通っていて、肌も綺麗。顔立ちは整っていておまけに痩せてるときた。
これを活かさない手はない。
高2の夏、俺は初めて女を抱いた。柔らかかった。
何度も「好き」と繰り返して、行為後は「かっこよかったよ」と微笑んでくれた。
情けなくも号泣してしまった。
俺は愛してもらえるんだ。その対価に俺を差し出せばいいだけ。
対価と言ってもただの快楽。これにハマらないわけがなかった。
しかし、夢は長く続かなかった。
段々とその女の嫉妬の強さが露呈してきて冷めてしまった。
SNSを全てブロックして、捨てた。
GPSのアプリもブロックして消した。
それでも寂しさは残っていて、耐えきれなくなって、次の女を抱いた。
それを繰り返した。
…その結果今日に至る。
ホテル代だけ机に置いて、俺はホテルを出た。
いつか叶うなら 海原シヅ子 @syakegod_umi
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