ヴァーチャルキャンプ

工事帽

ヴァーチャルキャンプ

「ここをキャンプ地とする!」

「お前、それ言いたかっただけだろ」


 キャンプはそんな言葉から始まった。

 だが、いきなりつまづいていた。


「うわ、面白。棒の中にゴム入ってるわ。でもこれ、どうやって組み立てるんだ」

「マニュアルないの?」

「マニュアルかー、あ、あった。ポール、リッジポール、ポールクリップ、インターポール。どれがどれだ」


「火は着きましたか」

「まだー」

「そろそろ食事の支度がしたいんですけど」

「なんかすぐ消えるんだよね」

「ガスコンロ使うのはダメなのでしょうか」

「それもなんかな」


「ちょっと、照明が違うじゃない」

「そう? いつもこれ使ってなかったっけ」

「今日はキャンプなんだから、ランタンっていうのを使うって決めてたでしょ」

「あ、そっか。ランタン、ランタン。これ? すっごい暗いんだけど」

「キャンプってそういうものらしいわよ」


 それでも、ゆっくりとキャンプの準備は整い始める。


「へー、クーラーボックスっていうんだ」

「氷で冷やすんだってさ。原始的だよね」

「そうなんだ。氷はどこで作るの?」

「……さあ?」


「あ、火、着いたんだ」

「苦労したんだぜー」

「こっちのガスコンロはどうしたの」

「おう。炭って面倒だね。全然燃えてくれないから、ガスコンロで火をつけてさ、燃え始めた炭を移動したんだよ」


「あっついよねー。もうちょっと気温下げない?」

「ダメダメ。夏キャンプなんだから暑くないと」

「なに食べてんのさ」

「アイス」

「ずるくない?」


 やがて空は青から赤へ。そして星空へと変わる。


「野菜焼けたよー」

「肉は?」

「……全然、焼けない」

「そっちの炭、火が着いてないのかも」

「えーそうかなー、熱っち」

「何やってるのよ」


「やっぱり暗すぎるって、手元もちゃんと見えないんだけど」

「暗いからいいのよ」

「そうかなー」

「ほら、上見て、上」

「おー、なんか光ってる」

「星空っていうんだって」

「へー」


「なあ」

「んー」

「俺たち、本物の星空を見ることってあるのかな」

「さあな」

「どうでしょうね」

「……外がどうなってるか、分からないものね」

「中山は?」

「あれっきり」

「そっか」

「『俺が確認してきてやるよ』だったっけ」

「案外、バツが悪くてログインしてないだけかもよ」

「そうかもな。あいつ言うことだけはデカいから」

「それで言ったクセに準備の一つもしてないの」

「そうそう」


 静かな笑い声が流れた。

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