ぬけない剣

@tonari0407

伝説の剣


 あなたから近くて遠いあるところに、貧しくて小さな王国がありました。この国の民は王さまが嫌いではありませんでしたが、好きでもありませんでした。


 この国の王家の人間はみな、人の上に立つのには人が良すぎたのです。

 人を疑うことのない優しい国王は、貧しい人にも狡猾な人にも自分よりも裕福な人にも、私物を分け与えました。


 質素な暮らしを続けた国王と王妃は、流行りの病で亡くなりました。新たな国王になったのは唯一の後継者である24歳の王子で、彼もまた心が優しい青年です。


 民は不満を抱いていました。このままではますます生活が苦しくなる。国が滅びてしまうと。


 そのため、その知らせに民は歓喜しました。


 世界にお告げが出たのです。

 それは、1000年に1度と言い伝えられ恐れられてきた魔王の復活。

 世界の人々は恐怖におののき、

 世界の端のこの王国の人々は希望を抱きました。


 高名な予言者は、勇者とその武器となる伝説の剣は、かれらの王国にあると告げたのです。


 太古より、世界を滅ぼす魔王を倒せるのは伝説の剣だけで、その剣をぬけるのは勇者だけと言われています。


 世界を救った勇者のいる国は、今後世界中の国々から優遇されるでしょうし、観光名所にもなるでしょう。民は魔王の心配などせずに、勇者関連グッズ作りを密かに始めました。


 そして、勇者は抜くべき伝説の剣の元へやって来たのです。


 この目でその勇姿を確かめたい、と王さまも立ち会いの元の儀式。しかし――


「こんなんぬけるかぁっ!」

「そうですよね~。すみません」


 剣を一目見た勇者は、剣と王に向かって悪態をつきました。足元の砂を乱暴に蹴り飛ばし、むしろ剣を視界から消そうとします。


「お主! 何と無礼なっ! 」


 胸元まである白いあごヒゲを伸ばした王国の宰相が、勇者に注意しました。

 しかし、こんな老いぼれ怖くないとばかりの目で勇者は宰相を睨み付けます。


「おいっ! ひまじゃねーんだよ!

 このくそびんぼー王国では働かなきゃ食うもんもねーのっ!

 こんな茶番にわざわざ呼び立ててんじゃねーよ。おっさん! 」


 勇者は王さまの方を向きなおり、諸悪の根元とばかりに更にきつい目つきで王さまにガンを飛ばします。


「な、な、な、王はまだ24才だぞっ! 」


 普段きいたこともない汚い言葉遣いに、高齢の宰相は狼狽していました。


「年上じゃねーか。王だかなんだか知らんがただの能なしのおっさんだ!

 じゃ帰るから、今日働けなかった分位は謝礼よこしな」


 勇者は王さまの方に向かって右手を出し、早くしろと言わんばかりに小刻みに揺らします。


「そうですよね。すみません。えっと、今持っているのか――」

 王は極めて質素な自分の服からなにかないか探し始めようとしました。


「王ーー!!世界の一大事ですぞ。何としてもこの剣をぬいて魔王を倒して貰わねばならんのですっ」

 齢70歳を越え腰も曲がった宰相は、血管が切れないか心配になるほど赤い顔をして王に向かって叫びます。


 その声に、王は宰相が倒れないか不安に思いつつ、伝説の剣の一部に目を向けました。


「うん、ただこれなんだか危ないよね。ぬくのは」

「普通、ちゃんと刺さってるもんじゃねーのか? 」


 王と勇者は、2人でじっと伝説の剣の一部を見つめました。


 こちらの伝説の剣と言われるものは、

 ほんの3センチ程、白い砂浜から切っ先を出しておりました。

 照りつける太陽の光に、刃がキラッキラと輝いています。


 さて、この剣はどうやって引きぬきましょう?


 勇者らしさを期待して、続きます。

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