瀕死のドラゴンを助けたら宝認定された上、運命だと発情されました。

時長凜祢

プロローグ

とある森での攻防

「グルウゥ……!!」


 ─────……あ゛あ゛〜クソッ!!なんでオレがこんな目に!!つか、なんなんだあの馬鹿力!!


 とある大陸のとある森。1頭のドラゴンが足を引きずるようにして走り抜けていた。

 そのドラゴンは柘榴石のような赤い瞳を時折背後に向けながら、舌打ちを響かせて前を向く。

 ドラゴンの背後には、彼を追い回すように走る別のドラゴン。

 だが、その様子は明らかに異常としか言えない状態だった。


 ─────……あれは確かエンシェントの名を冠すドラゴンのはず……あいつらは基本的に性格は穏やかで、他の奴の縄張りを荒らすような野蛮なことは、これまで一度もなかったはずだ……。


 しかし、苛立ちとは裏腹に、彼の脳内はどことなく冷静であり、現在の状況に対しての疑問を浮かべながらの移動をしている。

 エンシェントの名を冠するドラゴン……これらは、いわゆる神竜と呼ばれる存在であり、なんらかの外的要因がなければ、このような暴走は起こさない。


 ─────……ムカつくが、ここは一旦退散するべきだな。あ〜あ……せっかく過ごしやすくて最高の寝場所を見つけたから、まったりしていたのに、最悪だぜ本当。


 小さく溜息を吐きながら、なんとか森の外へと出ようとしているドラゴン。

 だが、先程まで離れていた気配が一気に距離を詰めてきたことに気づき、驚いて背後へと目を向ける。

 それと同時に自身が最も嫌う光属性の気配が急速に集まっていくことを感じ取り、すかさず自身も闇属性の竜素を収束させ、前方に飛び上がりながら、空中で体を翻し、迎え撃つ姿勢を見せる。


「グルァア!!」


「ガルァア!!」


 両者の口元から同時に放たれた光属性と闇属性のブレス攻撃。

 その威力はかなりのものであり、ブレスとブレスがぶつかり合った瞬間、周りの木々を薙ぎ倒す衝撃波が発生する。

 大きな音を立てながら、次々と倒れていく木々。

 その音に驚いた臆病な魔物や、小型の魔物が逃げ出すが、ブレスをぶつけ合う両ドラゴンは、そんなことを気にする暇などなかった。


 どちらのブレスも衰えることなく、互いに互いのブレスを押し返す。

 だが、少しずつ追われていた方のドラゴンのブレスの方が、エンシェントの名を冠すドラゴンのブレスを徐々に押し返し始める。

 属性に関してはエンシェントの名を冠すドラゴンの方が強いのだが、純粋な力であれば、追われていた方のドラゴンが高かったのだ。


「グ……ルル……!!グルァガァアアアア!!」


「!?」


 これならなんとか押し返せる。そう思った矢先に、エンシェントの名を冠すドラゴンが苦しげな唸り声を漏らしたかと思えば、光属性の中に闇属性の竜素が混ざったブレスを放つ。

 本来ならば持ち合わせているはずがない闇属性の竜素。

 それを無理矢理混ぜられた上、攻撃方法として活用させられているその行動は、あまりにも予想外であり、同時に、同じ竜種としての同情にも似たような感情を抱く。

 それが悪かったのか、追われていたドラゴンのブレスが一気に消し飛ばされ、光と闇が混ざったブレスが間近にまで迫って来る。


「ギャウッ!?」


 咄嗟に後ろへと退がることにより、追われていたドラゴンはブレスを躱した。

 だが、それを狙ったかのようにエンシェントドラゴンが彼に距離を詰めて、首筋に噛みつき、同族とは思えない力で宙へと放り投げ、それをさらに打ち上げるかのように、光と闇の二種類の属性を持ち合わせたブレスをすかさず吐き出して追撃した。


「ガルァア!!」


 自身が最も嫌う属性のブレスをまともに食らったドラゴンは、断末魔にも似た鳴き声をあげ、大ダメージを負ってしまったのか、翼を羽ばたかせる気力もないままに地面へと落下していく。

 しかし、エンシェントドラゴンの猛攻はまだ終わっておらず、彼の息の根を止めてやらんとばかりに攻撃を仕掛けようとする。


 ─────……クソッ……!!オレを殺す気かよコイツは!!


 柘榴石のような赤い瞳をエンシェントドラゴンへと向けながら、吐き捨てるように内心で呟く。

 このままでは自分は死ぬ……だが、抵抗するための力などもはや一滴も残っておらず、諦める以外の選択肢が用意されていない。

 力なく落下するドラゴンは、自身が負ったダメージに表情を歪めながら目蓋を閉じた。

 同時にエンシェントドラゴンから放たれたのは、彼をここまで追い込んだブレス攻撃ではなく、尾による叩き飛ばしだった。


「ガルッ!?」


 突如顔面に襲いかかった尾によるはらい飛ばし攻撃に、ドラゴンは閉じていた目蓋を開き、その一撃をモロ顔面に喰らう。

 バキリと何かが折れる音が辺りに響き渡るが、ドラゴンには大したダメージは入っておらず、驚いたようにエンシェントドラゴンへと目を向けた。

 そこには何かに苦しみながらも、赤に染まりゆく青の瞳を彼に向け、死へと至る攻撃をしないように自身の力を押さえつけるような様子を見せるエンシェントドラゴンの姿があった。


〔逃げロ……!!私はオマエを殺しタくはナイ!!〕


「!?」


 わずかに飛んできた思念による言葉に、攻撃を喰らったドラゴンは、目を丸くする。

 しかし、すぐにエンシェントドラゴンが咆哮を上げた瞬間、青の瞳は完全に真紅へと染まり切り、神々しい白金の体が紫色の霧のようなものに飲まれていく姿が確認できたため、飛ばされたドラゴンは咄嗟に空中で受け身を取り、ふらふらになりながらも翼を羽ばたかせて森から離れていく。


 ─────……明らかにおかしな状況だなこれ。いったい、アイツらに何が起こったんだ?


 焦りの表情とは裏腹に、冷静な頭で考えながら、森から離れるドラゴン。

 だが、途中でその力に限界がやって来てしまったのか、翼を大きく羽ばたかせることができなくなり、真っ逆さまに地面へと落下する。

 飛空船が墜落したかのような大きな音を立て地面へと落下したドラゴンは、激しくその場で咽せ返しながら、口内から大量の血を吐き出した。

 獲物を食らった時とは違う、自身の血液の味と鉄臭さに、ドラゴンは表情を歪める。


 ─────……ヤバイ……完全に限界が来やがった。何がオマエを殺したくないだよ……。そう思うならもう少し早く理性を取り戻せよ神竜……。


 自身の生命力が限界間近になっていることを嫌でも理解しながら、ドラゴンは地面を這いつくばる。

 どうやら彼が落下したのは、森から離れた場所にある花畑に囲まれた河原だったようで、這いつくばりながらも軽く移動したドラゴンは、自身のツノが片方完全に叩き折られ、もう片方の自身のツノは折れる間近であることを水面で確認することができた。


「あの野郎……オレのツノ叩き折りやがったな……。ツノは雄のドラゴンにとって、雌にアピールするための必要なチャームポイントだったんだぞ……」


 ─────……命は絶え絶えだし、ツノは折られてるし、散々な目にあった。あ〜あ……せめて1回くらいは雌と交尾して、子孫を残したかったのに……なんてことしてくれたんだ。


 ガフッという音と共に、再びドラゴンの口から大量の血液が吐き出される。

 かなりのダメージと出血により、朦朧とする意識の中、自身を襲ってきたエンシェントドラゴンに対する文句を口にしながら、再び彼は目蓋を閉ざした。

 オレの命はこれで終わっちまうのかよ……と、湧き上がる後悔を抱きながら、彼は意識を手放した。




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