第50話
「あ、来た来た。遅いよ、君」
「は?」
気付いたら神石の間ではなく、見覚えがあるモダンな内装の部屋にいて、目の前には見覚えがある無駄に顔立ちの整った少年が眉をひそめて立っていた。
取り敢えず、明らかにこの状況の元凶である不機嫌な遊戯の神に質問してみる。
「……ミロ様、これは一体?私は気絶した覚えも死んだ覚えもないんですが……」
「意識をこっちに引っ張って来ただけだよ。そんな下らない事よりさ、加護を確認するのが遅過ぎる。折角君の反応を楽しむ為に待ってたのに、起きてから一週間以上確認しないとか嘗めてるの?」
「(理不尽ッ!?)」
はぁ、と盛大に溜め息を吐いてミロは俺を睨み付ける。
そんな事でと思うが、神の怒気に晒されて全身に感じた事がないレベルの悪寒が走り、喉が渇いて冷や汗が止まらない。
種族の差なんていう生易しい話ではなく、存在としての根本的な格の差を実感させられた。
いつまでも、この怒気に触れていてはどうなってしまうか分からないので、口が震えておかしな言葉にならないように気を付けながら弁明の言葉を口にした。
「……加護があるかは未知数だったのと、一週間の間はまだ変わった環境に慣れる事を優先していたため、そこまで気が回りませんでした。加護があると気付いてから三日を要したのは最低限の礼儀作法を身に付けるためです。大変申し訳ございませんでした」
「……ふーん、まあ、許してあげるよ。この程度で苦労して用意した
「無理です!ミロ様の目的が果たせなくなりますよ!?」
怒気を引っ込めたと思ったら、この神様はなんて事を言うんだ。
そんな事をしたら俺がアルシェードに何をされるか……どう足掻いても、ろくでもない結末が待っているに違いない。
後、ゼウスのアドバイスはこのタイミングで言われると素直に感謝し難いな。
「ちっ、詰まらないなぁ」
「あの、それで今回は加護の件という事で宜しいでしょうか?」
「そうだけど、その前に愚痴があるから聞けよ」
「……はい」
俺は一刻も早くあのふざけた名前の加護について聞きたかったが、逆らえるはずも無く大人しく首を縦に振った。
ミロはソファに座るとその前の床を指差す。そこに座れという事なのだろう。
俺が指定された場所の床に座ったのを確認したミロは不機嫌そうに口を開いた。
「この前、高天原の神……君でいうところの神道の神が一柱、僕のところに来たんだよ」
「神道の神が……?」
「そう、それで話を聞いてみたら、君の住んでた地域の氏神をやってたらしくてね。僕が君を殺したのがバレたみたいで、面子を潰されたって物凄い勢いで抗議されてさ……お陰でゲーム時間がかなり減ったよ。人間の一人ぐらいでそんなに怒らなくてもいいじゃん。ケチ臭いんだよ!」
「……なるほど」
当時の状況を思い出して逆切れしているミロに取り敢えず、相槌を打っておく。
俺の内心としては、自業自得では?としか言い様がないし、被害者の俺にそれを愚痴るのは色々と間違ってる気がするのは俺だけだろうか?
「(ん?初めから不機嫌だった理由はもしかしなくても、これか?……完全に八つ当たりだろ)」
ミロの性格を考えると強ち予想が間違っている事はないだろう。傍迷惑にも程がある話だ。
「よし、言ったらスッキリした。では、加護『神獣の子』(賽)について説明してあげよう!」
本当にスッキリした顔をしたミロが、声を弾ませて喋り出す。
この遊戯の神が嬉々として説明しようとしてる時点で、不安しかないのだが聞かない訳にもいかないだろう。
憂鬱な気分でミロの言葉に耳を傾ける。
「まず、『神獣の子』は半身系加護だって言えば大体分かるかな?」
「半身系っ!?」
初っ端から爆弾発言が飛び出して、俺は驚いた。
半身系加護というのは、本来の力を発揮出来ればその多くが、加護として上位に位置する効果を持つものだ。
自力で手に入れる方法はなく、先天的に持っていなければ手に入らない。
強力な加護が多い代わりに本来の力を発揮する為に共通してある条件が存在する。
それは、特定の魔境に単独で挑戦し、ボスを討伐するというものだ。
相手によっては、ほぼ達成不可能な難度になる可能性がある。
しかも、半身系加護は強制的に編成に組み込まれ、外す事が出来ないという呪いのような効果があって枠を確定で一つ減らすので、正直に言って欲しくない加護だ。
「君も知ってると思うけど、アステリオスは迷宮の怪物であるミノタウロスの名前だ。ゲームとかではそれなりの強さで登場する雑魚だけど、こっちのミノタウロスは雑魚じゃないよ。だって、神獣の子で生け贄まで貰ってるから当然の様に神格を持っているしね」
「知ってますよ……一応、魔境のボスとして登場してましたから」
ミノタウロスは俺が知っている限り、魔法は使って来なかったが攻撃力と防御力、体力が無駄に高く純粋に強いボスだったはずだ。
ただ、手に入る加護が探索向きではあっても戦闘向きではなかった覚えがある。
……これは本格的に外れかもしれない。
「いや、それは違うよ。何せ、ゲームのミノタウロスは半身を得ていないからね。手に入る加護が弱くても仕方がないよ」
「ああ、半身系加護持ちが対応する魔物に倒されると、その魔物が強化されるっていう設定ありましたね……俺、邪教団の連中に狙われません?」
確か魔物が強化される理由は……半身系加護は対応する魔物の一側面が加護になっているもので、その加護持ちを倒すと欠けていた側面が補われるからだったか。
そして、邪教団というのは、総合教会の邪神や悪神バージョンの事だ。
こいつらも細かく派閥が分かれているが、悲しい事に総合教会と比べて意外と連携が取れていて、ウィルディア戦記シリーズの歴代主人公達とその仲間達を苦しめた組織である。
「んー?バレたら狙われるんじゃないの?」
目をつけられたらヤバい組織だと言うのに、ミロはあっけらかんとそう言った。
元凶だというのに完全に態度が他人事に対するそれである。
「そんな不満そうな顔されても、他人事だからね。それより、説明の続きするから傾聴するように」
「……お願いします」
「おほん、効果は身体能力向上(小)、身体能力成長(小)、雷属性強化(微)、因果打破の四つかな」
……効果が予想よりも大分マシなのを喜ぶべきか、それに相応しい強敵と戦わないといけない事を嘆くべきか悩ましいところだ。
因果打破というのが(賽)の影響で追加された効果だろう。
「因果打破というのは?」
「前も言ったけど、運命の横槍を防ぐものだと思ってね。おまけで必中やら必殺が自他共に封じられるかな。まあ、対象は君だけだけど」
「はい?」
必中も必殺も因果的に当たったり、殺したりするのでそれを防げるのは分かるんだが、自分も使えないってどういう事だ?
いや、本当は分かってる。
しかし、必中と必殺の効果を持っている加護や武器は一つは持っておきたい程に強力なもので、使えないというのは心情的に受け入れがたい。
それらが選択肢に初めからあるのと、ないのとでは雲泥の差があるのだが、この目の前の神はそれを理解しているのだろうか?
「失礼だな。それを努力で何とかするのが君の仕事だろう?必中も必殺も発動したら勝ちって訳でもなくて、盾とかで防がれて当たらなければ意味がないから、なくても何とかなるよ」
「……縛りプレイを強要するのはフェアじゃないと思うんですけど」
「運命の横槍を防ぐ副作用なんだから、仕方がないでしょ。それにそっちの方が面白いし」
さらっと本音言って悪びれもないミロに頬が引き攣る。
「『神獣の子』はわざわざ僕がオリンポスのヘラと取引して、改造の許可を貰って君につけたんだから有難く思ってよ。まあ、僕のサイコロを組み込んだ分ナーフされてるけど、誤差だよね」
「……因みに元の性能はどのくらいでしょうか?」
「え?身体能力向上(大)、身体能力成長(中)、雷属性強化(中)ぐらいだったかな」
「それ、誤差じゃないでしょう」
そこまで強いならミノタウロスの討伐を諦めても十分にやっていける。せめて、それぞれを一段階引き下げるだけというは駄目だったのだろうか?
俺はその場で膝をついてしまいぐらいの心境だった。
「よし、君の反応は十分に愉しめたよ。そのために呼び出して直接説明したんだし、もう帰って良いよ。ばいばい!」
「ちょ……っ!」
ミロの心底愉しそうな笑顔に見送られて、俺の意識は暗転した。
――――――――――――――――
あとがき
必殺無効:即死無効という訳ではない。
必中無効:絶対回避という訳ではない。
『神獣の子』(賽)誕生秘話
とある遊戯の神Mの話
「ヘラがゼウスの浮気の証拠持ってないかって、ニュクスと一緒に来て脅されたけど、友達を簡単に裏切る訳にはいかないから交換条件で許可して貰った。後でゼウスにゲーム機を落雷で吹き飛ばされた。僕が何をしたって言うんだよ」
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