ゲーム序盤の強キャラに転生してた件~ゲーム世界に転生してるのに気付いたのは、原作開始前の事件に巻き込まれてからだった~
曇虎
序章
第1話
異世界転生ものというジャンルを知っているだろうか?様々な理由で前世で死に、異世界で前世の記憶を持ったまま二度目の生を受けるというものだ。
ネット小説などでは神様から貰ったチートを持っていたり、赤子の頃から魔力などのファンタジーパワーを鍛えたりして無双、ついでに前世の知識で戦略・戦術、内政でも無双!
なんて夢のある内容が多かった。では、現実はどうかというと……。
「……お腹空いた」
現実は非情である。
俺こと異世界の住人歴十一年の転生者ライオスはスラム街に住んでいる。
前世で何故死んだかというとよく分からない。
ゲームをやるために、高校の部活からの帰り道を自転車で爆走していたのは覚えているんだが、そこから先の記憶がないから多分そこでぽっくりと逝ってる。
目が覚めたらぼやけていてはっきりとは見えなかったが、目の前に巨人みたいに大きい顔があった。
喋れない代わりに泣き声が出て驚き、ネット小説でよくある転生というものをした事に気付いて、もう一度驚いた。
本当に転生なんてことがあるとは俺は思っていなかったからだ。
現実を受け入れながら地獄の赤ちゃんプレイを乗り越えて二歳程になると自分の置かれている状況が分かってきた。
とはいえ、あの時点で分かったことはあまり多くなかった。
家族構成は母さんと俺の二人だけ父親は俺が生まれた時点で居なく、母子家庭であること。
今世で住んでいる町の名前はバルツフェルトといい、中世ヨーロッパぐらいの文明レベルで発展した都市であるらしい事。
経済状況は貧しいが、スラム街でも治安の良い場所に住んでいる。
夜に出かけていなかったから母さんの仕事は恐らく娼婦でない……の四つぐらいだった。
因みに赤子の時に密かに期待していたチートはなく、二度目の人生はハードモードが確定した。まあ、現実はこんなものだと割り切って生きて行く事にした。
転生したのが過去のヨーロッパなどではなく、異世界だと気付いたのは母さんに連れられて市場に行った時のこと。
前世では在りえない髪の色や目の色をしている人がチラホラいて、更には少数だが獣の耳や尻尾を持つ俗に言う獣人がいたからだ。
興奮して足元が疎かになり、転んだのは今では良い思い出だ。
そんなこんなで母さんに守られてすくすくと成長してたんだが、一年前に母さんが亡くなった。
親が亡くなる経験は前世でしたことがなく、目の前が真っ暗になったような気がしてそこからはよく覚えていない。
気付いた時には翌日の昼になっていたから丸一日家に引き籠って泣いたんだと思う。
貧困者の救済を目的に建てられている、と母さんから聞いていたスラム街の中にある教会に母さんの埋葬を依頼した。
ここの教会は政治的に腐敗していなかったのか、もしくは評判を上げるための慈善事業なのか分からないが、埋葬にはあまり金がかからなかった。
それから必死に一年生き延びて、現在は空腹に苛まれながら繁華街の裏路地を彷徨っている。
「教会の炊き出しは三日に一度だから明日にはご飯が食べられる。……死ぬことはないけど、やっぱり今日も何か食べたい」
大人になった時にスラムを脱出出来るようにその元手となる予定の母さんの遺産を極力使わないようにしているのと、冬に備えて保存食を備蓄し始めているので俺の財布はすっからかんである。
それが原因で、今腹と背中がくっつきそうなぐらいお腹が空いているのだが、既に何度も経験しているし今回も耐えぬいてみせる。
「さて、頑張って飯のタネを探しますか!」
俺が今いるのは飲食店や大人なお店が多い繁華街とスラム街の中層の境目近くの場所だ。
夜が深まって来るとここら辺にはたまに前後不覚に陥った酔っ払いが紛れ込んで来るのだ。
その酔っ払いからお金を巻き上……頂戴して飯代に変える。
前世でも今世でもがっつり窃盗罪に当たる行為だが、背に腹は代えられない。罪悪感やら何やらも当の昔になくなった。
前世なら兎も角、治安の悪い今世では前後不覚になるまで飲む奴もちょっとは悪いのだから。
「おっと早速発見。もしもーし、聞こえてる?」
「ヒック……あいあい…………」
「あー、これは見事に潰れてるな。好都合、好都合」
壁に寄りかかってる中年の男は俺が声をかけても目を瞑ったまま曖昧に返事をするだけで全く起きる気配がない。
服があまり乱れてないし、俺が一番乗りだろう。周りの気配を探っても誰かがいる感じはなし、さっさとポケット探すか。
「よし、あった。どれどれ……潰れるまで飲んだのに中々持ってるな。今日は運がいい」
男の財布の中身の硬貨を数枚程取り出して俺の財布に移す。
一般的な庶民なら丸一日分の食費を賄えるかどうか、といったところだが悲しい事にスラムの住人にとっては三日分にはなる。
残りの金を目立つように地面にばら撒いたらその場から走って逃げ出す。
ここら辺には最近他所からヤバめの組織が入って来ていて、治安が悪化してるという噂があるので長居は無用だ。
「おい、ちょっと待て」
「……なんだよ」
ちょっと走った所で曲がり角から出て来た男に呼び止められた。
こういうのに合わないように急いで逃げ出したんだけど無駄だったらしい。伸びて顔にかかった前髪の隙間からそっと男を盗み見る。
男の外見は背は高いもののスラムの住人らしいガリガリな体つきで、バレないようにほっと一安心。
これでゴリゴリマッチョとかだったらただのスラムの住人ではなく、前世で言えばヤのつく職業の人物であり、この世界では下手しなくても大抵の場合は人身売買、奴隷コース一直線だろう。
特に今はそういう事をやりそうな奴らがこの町にいるのだから尚更だ。
そんなことになったらハードモードどころか、ナイトメアに難度が上がってしまう。
「金持ってるんだろ、出せ」
「持ってるのには持ってるけど、お前が考えてる程持ってねぇよ。ほら、大部分はあっちにある……俺みたいなガキが大金持っても死ぬだけだからな。他の奴らも来てるみたいし、早い者勝ちだぞ」
「あれは銀貨か!退け!!」
道端に転がっている銀貨に気付いて男が俺を押し退けて走り出す。
まあ、無理もない。この町が所属してる国の通貨は青銅貨、大青銅貨、銅貨、大銅貨、銀貨、大銀貨、金貨、大金貨の八種類で銀貨は上から四番目の硬貨だ。
その銀貨となれば一般人にとっても大金一歩手前だ。スラムの住人が見つけたら跳び付きたくもなる。
じゃあ、何で俺が銀貨を残しておいているのかと言うと、ここらでそんな物を持っていたら最悪殺されるからだ。
治安が悪い場所で皆が欲しがるような物を力の弱い子供が持ってれば、当然そうなるよねってだけの話だ。
お金の大部分を道端にばら撒いたのもほぼ同じ理由だ。スラムの住人なら硬貨が大量に落ちた音がした方に我先にと駆け出す。
明らかにお金を持っていなさそうな小汚いガキ何かには大抵目もくれない。良い囮になってくれるのだ。
「(足音からして結構人数いるな。これはそのうち乱闘騒ぎになりそうだ)」
「ま、俺には関係ないけど」
十数人分はあるだろう足音から離れる事と人通りのない細い道を選ぶ事を意識してスラム街を進む。
これに関してはどうせ間に合わないからと自棄になって襲い掛かって来る奴がたまにいるからだ。
俺は半年前に一回だけ遭遇した事がある。あの時は辛うじて撒くことに成功したがあんな事もう御免だ。
「ここまで来ればもう大丈夫だろ」
俺は歩みを緩めて立ち止まった。
ポケットの中から財布を取り出してその重みを感じると達成感が湧き上がってつい頬が緩んでしまう。
鼻歌を歌いながら歩いてしまいそうなほど浮ついた気分で角を曲がった瞬間、俺のテンションは急降下した。
「あん?スラムのガキか?」
「oh……」
角を曲がった先に居たのは明らかに堅気じゃない二人組、最初に俺に気付いて視線を向けて来た男は腰に剣を提げていて目付きが悪い、明らかに何人も殺してますと言うような鋭さだ。
もう一人の方は体中に傷跡があるスキンヘッドの男で、背丈は先程のスラムの男と大差ないが筋肉の鎧を纏っていて威圧感が段違いだ。
腰に下げているのはマチェットみたいなやつで、容姿と相まってザ・賊という感じのベタな格好になっていた。
これで簡単に蹴散らかせる相手なら言う事なしなのだが、そうはいかないだろう。
そしてスキンヘッドが肩に担いでいる麻袋は膨らんでいて、子供ぐらいなら入ってそうな大きさだ。ここから導き出される結論は
「(どう考えても裏組織の連中で、しかも絶賛拉致の途中じゃねぇか!どうしてこうなるんだーーーーっ!!)」
心の中の叫びを声に出さなかった俺は偉いと思う。
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