彼女の裏は、殺し屋でした。
花鳥風月
プロローグ
「ずっと前から好きだった!俺と付き合ってくれ!」
沈みかけて、辺りをオレンジ色に包み込んでいる夕暮れ。若々しい男女二人が、学校の屋上に佇んでいた。男の方が女の子に向かって、頭を下げ、手を差し出している。随分と、アニメや漫画らしい方法だった。世間一般でも、それを告白、と言うのだろう。無論、両者ともにそんな事は分かっていた。懸命に告ってくる彼を見るが、彼女は依然無言だ。
ゆっくりと頭の中で状況を理解し、答えを出す。
のが、普通なのだが、彼女の場合、言われた次の瞬間には全てを理解していた。しかし、彼女にとっての問題は、その答えだった。つまり、ここでOKかNOを言った後だ。自分の日常が、どのように変わり、何に支障が来るのか。逆に、付き合えば、学校生活が充実するはずだ。ここでOKを言うならば、これから先の未来が心配だ。NOと言えば、そんなことはない。ないのだが、彼がどうなるのかも予測できなかった。実際、彼女も彼のことが嫌いな訳じゃなかった。遅かれ早かれ、こうなる事は予測済みだったのだ。
考えられる全ての可能性を考えた末に、ようやく結論が出た。
「、、、、、、うん。、、、いいよ」
彼が顔を上げ、彼女の顔を見上げる。彼の方は、ものすごく嬉しそうな顔をしていた。言われたのはOKだったのだ。導き出した答えは、OK。だが、そこで言葉はまだ終わらなかった。彼女は、付き合うにあたって、最も重要な事を言っておかなければいけなかった。と、言うよりも、多分、大方の人が思っているだろう。
「でも、もし、君が私の裏を知っちゃっても、、、、」
「?」
何を言うのか、予測が出来ず、彼の中に疑問と困惑が浮かんでくる。
「、、、、『別れよう』なんて、、言わないでよね」
「あぁ、もちろんだ」
いつもとなんの変わりもない屋上には、そんな甘々しいひと時が流れていた。
だがしかし、この時、まだ彼女が本当は何者なのか彼は知りもしなかった。知りえるはずもないだろう。彼のような一般人とはかけ離れすぎた世界なのだから。高校生自体、皆、似て似つかないものなのだから。
彼女の名は、刻鳥 彩夢(きざみどり あやめ)。一見、なんの変哲もない女子高校生だ。
またの名を、『死神』とも呼ばれた彼女は、
『殺し屋』だった。
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